国際機関に浸透する中国の影響力――WHOの対中姿勢、WIPO事務局長選挙、そして全体主義国家が世界秩序にもたらす歪み
政治学者・岩田温氏と産経新聞論説副委員長・佐々木類氏の対談を引用し、WHOと中国の関係、WIPO事務局長選挙、国連機関における中国の影響力、新型コロナウイルスをめぐる情報隠蔽と責任転嫁の問題を考察する。
2020年8月6日
以下は、月刊誌『WiLL』2020年9月号別冊に、「中国人は罪を逃れるためならなんでもする」と題して掲載された、政治学者・岩田温氏と産経新聞論説副委員長・佐々木類氏の対談特集からである。
日本国民のみならず、世界中の人々、とりわけ国際連合及びその関連機関に携わる人々は必読である。
前文省略。
【引用】
佐々木
世界保健機関(WHO)と中国の癒着も目に余ります。
習近平は大きなマスクをつけて武漢を視察しました。
影武者の噂も一部にありますけれど、とにかく「感染拡大の勢いをほぼ押さえ込んだ」と、事実上の終息宣言をした。
すると、その後を追うようにして、WHOのテドロス事務局長が「パンデミック、すなわち感染症の世界的な大流行とみなすことができる」と発表しました。
岩田
まるで「山びこ」のようです。
佐々木
綿密に打ち合わせたうえでの発表ではないでしょうか。
岩田
世界的に感染が拡大した最大の要因は、この国際関係にあると思っています。
テドロス事務局長はエチオピア人であり、しかも一帯一路によって、エチオピアには中国から多額の資金が流れている。
事務局長選挙でテドロス氏が当選する際、AU、すなわちアフリカ連合から票が集まりました。
ところが、AUの後ろで糸を引いていたのが中国だった。
佐々木
本人は、自分がピエロというか、中国の太鼓持ちになっていることに気づいていないのではないでしょうか。
中国からエチオピアへの投資額は、2兆9千億円ほどです。
このような関係にあるため、中国にこびへつらうしかない。
しかし、国際関係上では害悪そのものです。
岩田
新型ウイルスの流行が確認されつつあるとき、テドロス事務局長は、「習近平国家主席には稀有な指導力がある」と述べました。
耳を疑いました。
何を言っているのでしょうか(苦笑)。
佐々木
WHO内でも、テドロス事務局長への批判が高まっています。
2月に実施された会議で、タイ代表は、次のように述べました。
「議長、旅行制限を確実に実行するなら、まずテドロス事務局長を隔離したうえ、今回の会議を中止にすべきです。
事務局長は北京を訪問したばかりです。
会議に参加した多くのメンバーの国では、旅行制限を実施しています。
メンバーらは事務局長とハグしたり、握手したりしています。
この人たちは、みなリスクに晒されています」
さらに、次のように続けました。
「われわれは、人々の恐怖感を和らげ、WHOの信頼を回復させなければならないのです。
したがって、私は中国でWHOの会議を開催することを提案します。
武漢で開催しましょう。
今こそ、武漢市にある二千年の歴史を誇る黄鶴楼を訪ねる最高の機会です。
北京もよいでしょう。
今なら万里の長城にも紫禁城にも人がいないので、入場料も安いです」
このような痛烈な皮肉を口にした(笑)。
風刺に満ちた英国の巨匠、バーナード・ショーも驚くでしょう。
前列に座っていたインド代表は大爆笑し、会場全体にも笑い声が響くほどでした。
【金を出すから、ポストをくれ】
岩田
あまりにも露骨ですからね……(笑)。
WHOの事務局長に中国の息がかかっていなければ、世界的な対応がここまで遅れることはなかったはずです。
その煽りを、日本政府も受けてしまったといえます。
しかし、WHOだけではありません。
国連関連のあらゆる組織に、中国の息がかかっている状況になりつつあります。
佐々木
20年前、中国の国連分担金は2%から3%程度でした。
一方、日本はアメリカに次いで多額の分担金を支払っていました。
ところが、今や中国は世界で2番目に多く分担金を支払う国です。
もちろん、見返りを目的としています。
金を出すから、ポストも寄こせということです。
岩田
ギブ・アンド・テイクというわけです。
佐々木
3月4日、特許や商標などの知的財産保護を促進する国連の専門機関、世界知的所有権機関(WIPO)の事務局長を決める選挙がありました。
そこでも、中国出身の王彬穎氏が名乗りを上げました。
岩田
世界中で知的財産を盗んでいるお前が出るのか、と(笑)。
佐々木
結局、アメリカが推すシンガポール知的財産庁長官、ダレン・タン氏が選ばれました。
選挙前には王氏のリードが伝えられていましたが、それも当然です。
別に何をしても違法性を問われないのであれば、賄賂を握らせて票を集めることもできる。
岩田
もし当選していたなら、アメリカの貿易戦争が無に帰すところでした。
佐々木
ICPO、すなわち国際刑事警察機構の前総裁は孟宏偉氏で、2年前に一時、消息不明になりました。
後に中国当局に拘束されていたことが判明しましたが、これもおかしな話です。
国際犯罪を取り締まる組織のトップが拘束されるなど、あり得るでしょうか。
中国のようなインチキ国家を国際基準に当てはめようとすると、さまざまなところに歪みが生じます。
岩田
国際常識が、むしろ通用しません。
佐々木
日本にはこれまで、国連信奉が根強くありました。
多国間協調という美辞麗句のもと、本来なら自国の国益を優先すべきところを、自制する傾向が強い。
WHOの呪縛によって、対応が遅れてしまいました。
岩田
ところで、初動対応が遅れたのは、中国の側ではありませんか。
全体主義的な体制下にあるため、どうしても隠蔽体質になります。
下の者は、問題を上に報告すれば責任を追及されるため、隠そうとします。
隠しきれなくなって、ようやく上層部に事実が伝わる。
ところが、上層部も事実を知ったところで、自分たちが責任を負うのを嫌い、下の者に責任を擦り付けます。
それすらできなくなれば、次は他国へ責任転嫁を図る。
日本や韓国の対応がまずい、あるいは欧米は反省すべきだと言う。
盗人猛々しいにもほどがあります。
さらにいえば、言論の自由がありません。
個人やジャーナリストが、当局にとって都合の悪い「真実」を口にすることが許されない。
これでは、事実に基づいた対応策を取れるはずがありません。
佐々木
「武漢ウイルス」と言うな、とも主張しています。
岩田
中国外務省の趙立堅報道官は、3月12日、次のようにツイートしました。
「武漢市にウイルスを持ち込んだのは、米軍かもしれない」
「アメリカは透明性をもってデータを公開するべきだ」
その前日、国家安全保障問題を担当するロバート・オブライエン米大統領補佐官が、「中国が初期対応の段階で情報を隠蔽し、世界的な対応が2か月遅れた」と非難しました。
それに反論した格好です。
さらに、このツイートの翌日、別の報道官は、国際社会では新型肺炎の発生源について多様な意見が出ていると抗弁しました。
中国は常に、「科学的かつ専門的な方法」で対処すべきだと考えている、と。
佐々木
前年10月、武漢で第7回世界軍人運動会が開催されました。
その際、米軍も参加していたため、米軍から持ち込まれたのではないかとも主張しています。
岩田
しかし、中国の言う「科学的」という言葉は、実にいかがわしい。
ナチス・ドイツでは、ユダヤ人が劣った人種であることは「科学的に正しい」とされていました。
カチンの森事件では、ナチスではなくソ連がポーランド人2万2千人を虐殺したにもかかわらず、ソ連は「ナチスが実行したことは科学的に立証された」と言い続けました。
「科学」という言葉が、体制側のために都合よく使われています。
佐々木
全体主義的な発想です。
岩田
中国も同様に、「科学的に、アメリカが持ち込んだものが原因だと立証された」と、強引に話を持っていく可能性が高い。
そのようなことを言われれば、当然、アメリカも黙ってはいません。
こうして新型コロナウイルスの発生源をめぐる論争は、感染が終息した後も、延々と続くのではないでしょうか。
佐々木
中国の土俵に迂闊に上がると、「嘘も百回言えば真実になる」ではありませんが、相手のペースに巻き込まれてしまいます。
米国のポンペオ国務長官が、中国外交のトップである楊潔篪・共産党政治局員に電話で厳重に抗議したのも当然です。
元警視庁通訳捜査官の坂東忠信氏によれば、中国人の被疑者は常識外れの言い訳をすることがあるそうです。
例えば、万引きで現行犯逮捕すると、「商品が上から落ちてきて、私のかごに入った」と言う。
国家レベルでも、習近平が「人災ではなく天災だ」と言っているほどですから(一同爆笑)。
岩田
ある人から聞いた話ですが、中国人留学生をめぐっても、似たような事例があったそうです。
前回の講義には明らかに出席していなかったため尋ねると、「返事をするのを忘れましたが、出席しています」と言う。
「証拠はありますか」と聞くと、「ありませんが、私を疑うのですか」と、まさに、ああ言えばこう言うという状態です。
真面目に出席している学生との間で公平性を守るため、本当に困っていると言っていました。
佐々木
さらに坂東氏の話によると、取調室で中国人女性を追及していると、突然、死んだふりをしたこともあったそうです(一同爆笑)。
体をくすぐっても、ぴくりともしない。
ほかの刑事数人とともに女性を病院へ連れていくと、日本人の看護師長が、「死んだふりをしているだけよ。見ていなさい」と言い、乳首をひねった。
すると、「ギャー」と叫び、ようやく動き出したそうです。
【引用終わり】
この稿、続く。