福島の放射線被曝を科学的に評価する――外部被曝と内部被曝を測定せず、日本の科学力を活用しなかった菅政権の重大な責任
福島第一原発事故後の外部被曝、内部被曝、甲状腺線量をめぐり、高田純氏が2011年当時に示した実測結果と提言を収録する。日本の放射線防護科学を活用せず、事故初期に個人線量計による測定を実施しなかった菅政権の責任と、表土除染センターの建設による福島の農業・酪農再建を論じる。
【2026年再掲載に当たって】
本章は2011年当時に公表された高田純氏の見解と測定結果を記録する歴史資料である。
その後に蓄積された国際的知見について、UNSCEARは、福島県民に事故由来の放射線被曝へ直接帰属できる健康影響は確認されておらず、将来も識別可能な増加は予想されないとの評価を示している。
一方、「健康被害はない」という表現は、放射線被曝に直接起因する健康影響についての命題であり、避難生活や生活基盤の喪失などによる心身への影響まで否定するものではない。
2020年9月1日
以下は前章の続きである。
【福島に健康被害はない】
武田邦彦氏は、被災住民の年間限度を20ミリシーベルトに政府が上げたことを問題視している。
そして、「小児がんは、チェルノブイリの事故では、被曝の4年目から出ています」と言う※8。
これは明記されていないが、甲状腺がんを指している。
あたかも、その程度の低線量で発生しているような誤解を読者に与えているのは大問題だ。
現地での甲状腺線量は、最大50シーベルト、多くが数シーベルトを受けたために、こうした病気が発生したのである。
ベラルーシでは、小児人口10万人当たり年間で、4年後に4人、9年後に13人と最大になり、その後減少に転じた。
福島の場合、県民の甲状腺線量は、チェルノブイリに比べ、1000分の1から10000分の1以下と低い。
私が検査した66人の最大が8ミリシーベルト。
線量から判断すると、福島県民の甲状腺がんリスクは年間1000万人当たり1人以下となる。
しかし福島県の人口は200万人なので、だれも、この低線量で甲状腺がんにならない。
素人知識で福島県民や国民を脅すのもいい加減にせよ。
全身の外部被曝では、チェルノブイリ30km圏内からの避難者の最大線量は、7日間で750ミリシーベルトの高線量を受けていた※9。
それに対して、福島20km圏内からの緊急避難者たちの線量は、当時の屋外空間線量率の推移から想像して、ミリシーベルト程度とチェルノブイリの100分の1以下だ。
だから、チェルノブイリの健康被害をもって、福島県民やそれ以外の日本国民の健康影響を脅すことは犯罪に近い。
女性の卵巣への放射線影響は650ミリシーベルト以上で起こることが分かっている。
だから、チェルノブイリ30km圏内からの避難者が厳しい状態にあったのは事実だ。
しかし、そうしたリスクは福島にも他県にも絶対にないと断言できる。
私は、年間20ミリシーベルトに達する福島県民はほとんどいないと考察している。
筆者自ら行った調査時の個人線量計の積算値から推定する現地の30日間線量は、4~5月、6~7月で、それぞれ、20km圏内と周辺が1.0ミリシーベルト以下、会津~福島が0.10ミリシーベルト以下であった。
以上から、福島県民の平成23年の年間外部被曝線量は10ミリシーベルト以下、多くは5ミリシーベルト以下と推定する。
科学的評価は、子どもから成人まで、個人線量計の装着で分かること。
ただし、政府災害対策本部は、線量が比較的高かった初期の3~5月にそれをしなかった。
とんでもない杜撰さである。
当時、飯舘村などに屋内退避勧告をしていたにもかかわらずである。
以上の個人線量計による実測値から、私は福島県民の多くについて、平成23年の外部被曝が数ミリシーベルトであったと暫定評価している。
【除染センターを建設し復興させる】
内部被曝については、筆者は、放射性ヨウ素による甲状腺線量と体内セシウムによる線量を現地で検査している。
これまでに100人以上の希望者について、二本松、福島、南相馬、いわき市、郡山で検査した。
検査した68人の県民の甲状腺線量は8ミリシーベルト未満。
8月までの乳児、幼児を含む52人の県民のセシウム検査では、ほとんどの内部被曝が0.1ミリシーベルト未満である。
特に子どもたちのセシウム内部被曝は、今のところ全員が0.1ミリシーベルト以下である。
この内部被曝その場評価方法は、筆者が旧ソ連の被災地におけるロシア科学者との共同調査などを通して独自に開発したものである。
小さな子どもたちは大人に比べて放射線影響が3倍くらい大きいので、注意が必要である。
これまでの調査結果では、飯舘村などで大人の外部被曝が仮に3ミリシーベルトとしても、3倍で子どもは9ミリシーベルト相当となる。
これなら安全範囲と言える。
実際には、個人線量計を政府が装着させていないので、本当の値は分からないのだが。
日本の放射線防護の科学力では、外部被曝と内部被曝のどちらも正確に評価できるのだが、菅政権はその科学力を活用しなかった。
これが一番の問題である。
そのため、非専門家たちの想像力による疑わしい過大な線量値が、多数の県民と国民を不安に陥れてしまったと、筆者は見ている。
今後、筆者が実施している福島県民に対する科学的な放射線衛生調査を、国の責任で希望者に対して行うべきである。
間違っても、県民をモルモット扱いしてはならない。
低線量を、それぞれの県民が知ることにより安心することが目的である。
また、特に20~30km圏の農業や酪農を復興させるための科学プロジェクトを早急に立ち上げ、住民の個人線量が年間1ミリシーベルト以下になり、作物のセシウムが基準値以下となるように、表土の除染を国の責任で行う。
さもなければ、福島の農業は崩壊する。
これが、7月27日に都内で開催された福島支援シンポジウムにおける筆者の基調科学講演での提言である※10。
直後に、総理官邸へ意見として送信した。
野田佳彦新総理には、福島復興に対する強い姿勢を期待したい。
20km圏内に表土除染センターを複数建設し、住民らに働いてもらう。
その事業の結果、農業・酪農が再建することになる。
そのためには、1兆円、2兆円かかってもよい。
世界に日本の科学力と強い意思を示そうではないか。
福島は広島にもチェルノブイリにもならなかったという事実を、復興という形で世界に発信するのだ。
これが、戦後日本の歪んだ姿勢を改めることになる。