農地に流れ込む金融マネー――食糧不足と実物資産投資が生み出す「次のバブル」

2011-6-10
米穀倉地帯イリノイ州中部のペソタム。農家のマイクーローゼンバーガー氏(60)に5月、地元の農業信用組合から電話が入った。「1エーカー(約4千平方び)8千ドル(約65万円)強で農地の出物があるが、興味があるか」。
返事はノー。「そんな高値で農業の採算が合うとは思えない」

8千ドルといえば10年前の2倍強だ。
確かに足元のトウモロコシ相場は1ブッシェル7ドル超に高騰し、自分も潤ってはいるが、商品相場は水物との思いがある。
ほんの6年前は2ドル前後だった。
高値が続く保証はない。
今の土地取引は「私にいわせれば、正気と思えない」。
中西部で急速に広がる農地の高騰。
その背景にあるのがウォール街のマネーだ。
5月2日、ニューヨークのウォルドルフ・アストリア。
歴代大統領が利用する高級ホテルで催した農業投資のカンファレンスには、スーツ姿のウォール街の金融マンや投資家ら500人強が集まり、立ち見まで出る盛況となった。
「農地の賃料収入と作物の収穫で、安定した利回りを稼げる魅力的な投資対象だ」。
ウォール街のバンカーを辞め、1998年に農地投資家に転身したポール・ピットマン氏は話す。
現在8千エーカーを保有し、年率10%超の利回りだという。
その成功の背中を追うように、年金やヘッジファンドが押し寄せている。
経済協力開発機構(OECD)によると、ファンドや民間企業が農業に投じた投資額は2010年で140億ドル。
次の数年間でこの2~3倍が投入される見通しだ。
安定利回り、インフレヘッジ、株式や債券との低い相関関係ー。
ウォール街の手により投資商品として仕立て上げられる農地。
世界の人口増と新興国の食生活向上で、構造的に食糧が不足するという問題も根底にある。
金融危機後に高まる「実物資産」志向に見事にはまっている。
一方で、中西部の古い農家ほど、商品相場の気まぐれさとレバレッジの怖さを知る。
親世代の苦労を見ているからだ。
70年代は毎年のように出荷価格が上がり、金利も低かった。
しかし支払金利が2ケタに上がり、借金して農地を広げた農家ほど苦境に陥り、80年代に手放す例が相次いだ。
食糧不足から農産物高騰は続くかもしれない。
ただ、生産地の天候不順など短期要因も多分に影響している。
雇用拡大や成長投資に吸収されない緩和マネーが、ゆがんだ形で流れ込んでいる面は否めない。
「次のバブルの候補は農地」。
住宅バブルにいち早く警鐘を鳴らしたエール大学のシラー教授の新たな予言だ。 
米国内はまだ生易しい。
南米やアフリカの農地の急騰ぶりは著しい。
米調査会社によれば、ウルグアイのリオーネグロの農地は過去10年で9倍に跳ね上がった。
外国資本による買収が起こす摩擦も伝わる。
先進国の緩和マネーが世界にばらまかれ、農地価格を押し上げる。
今は強気で染まる農地投資だが、持続的かつ適正な利潤を前提としたものだったかを問われる場面はどこかでありうる。
ローゼンバーガー氏らの親の世代と同じストーリーが、新たな場所で進んでいるかもしれない。

(米州総局編集委員 藤田和明)

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