安倍晋三首相を「悪漢」「軍国主義志向」と侮蔑した米国人歴史学者アレクシス・ダデン――ニューヨーク・タイムズが描いた「危険なアベ」という虚像と、古森義久氏が14年前に示した真実

古森義久氏が2006年のニューヨーク・タイムズへの寄稿を振り返り、安倍晋三首相を「危険なタカ派」「悪漢」「軍国主義志向」と描いた米国の一部報道とアレクシス・ダデンの主張が、日米同盟強化という現実によって覆された経緯を論じる。

2020年9月2日
以下は、「『危険なアベ』虚像を消した」と題して、2020年8月30日の産経新聞に掲載された、ワシントン駐在客員特派員・古森義久氏の論文からである。
安倍晋三首相が辞任を表明した直後、共和党のドナルド・トランプ大統領のみならず、民主党のジョー・バイデン前副大統領も、安倍首相が日米同盟と両国の友好関係の強化に果たした功績を高く評価した。
それは、安倍晋三氏を「危険なタカ派」「ナショナリスト」「悪漢」「軍国主義志向」と決めつけていた米国の一部報道や歴史学者の主張が、いかに現実から懸け離れた虚像だったかを明確に示すものでもあった。
古森義久氏は、安倍首相就任直後の2006年9月30日、ニューヨーク・タイムズへの寄稿において、安倍晋三氏が民主主義、人権、日米同盟を重視する、現代的で信頼に足る米国の友人であると論じていた。
その14年前の論考を振り返り、当時の予測が現実によって証明されたことを記録したのが、以下の文章である。

「誰がシンゾー・アベを恐れるのか?」。
こんな見出しの私の英文の寄稿記事がニューヨーク・タイムズに載ったことがある。
安倍晋三氏が戦後最年少、初の戦後生まれの首相に指名されて4日後の2006年9月30日だった。
当時、ニューヨーク・タイムズの安倍首相への論調は不当なほど厳しかった。
小泉政権の若き官房長官として憲法問題でも歴史問題でも「普通の国」の基準で明快に主張する安倍氏に対して、「危険なタカ派のナショナリスト」などというレッテルを貼っていた。
同紙のノリミツ・オオニシ東京支局長は「安倍氏の説く日本の民主主義は幻想」とまで糾弾していた。
同紙は歴史認識に関しては、2000年の東京での模擬裁判で昭和天皇を有罪と断じた米国人歴史学者のアレクシス・ダデン氏の“安倍たたき”を引用することも多かった。
安倍首相を「悪漢」とか「軍国主義志向」とまで侮蔑した反日活動家だった。
寄稿欄の編集長からワシントン駐在の私に寄稿の依頼がきたのは、紙面のバランスをとろうという意識からだったのだろう。
私が東京での政治記者として安倍首相が父親の晋太郎外相の秘書だった時期から取材を通じて知己を得ていたことを、どこかで知っての原稿依頼だった。
かなり長文の私の寄稿は寄稿ページのトップに掲載された。
私はまず安倍首相が民主主義を共通項とする日米同盟の堅持論者であり、北朝鮮の日本人拉致や中国の自国民弾圧への糾弾も民主主義と人権という普遍的価値の信奉からだろうと書いた。
安倍首相の憲法改正論は他の諸国なら自明の自国の防衛や自国への帰属の意識への不自然な呪縛を解く努力であり、歴史問題での主張はゆがめられた事実の訂正なのだ、とも説いた。
いまならばあまりに当たり前の解説を仰々しく書いたのも、当時の米国での安倍首相への逆風がそれだけ激しかったからだった。
シンゾー・アベといえば正体不明の新興政治家で、日本を非民主的な方向へ押していきかねない危険な指導者!などという虚像をニューヨーク・タイムズも描いていたのだ。
だから私は寄稿論文の結びで以下のように記したのだった。
「安倍首相は祖父(岸信介元首相)の助言を守る形で日本の将来の防衛を日米同盟の枠内に堅固に保っていくだろう。
米国人は共和党、民主党の別を問わず、いま人気の高い日本の新首相が完全に現代的で率直な、そして信ずるに足る友人であることを知るだろう」
この14年前の期待をこめた予測が現実に沿ったことに自画自賛の愚を意識しながらも、私はささやかな満足を覚えている。
共和党のトランプ大統領も、民主党のバイデン前副大統領も、安倍首相の日米間の同盟や友好の強化の実績に手放しの礼賛をいまや正面から表明した。
中国や北朝鮮という目前に迫った脅威や国難に対しては米国との絆の強化はいまの日本には貴重である。
米国側の逆風をもかつてないほどの順風に変えたのはほかでもない、安倍首相自身の実力、努力、そして信念と哲学だったといえよう。





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