以下は1月１６日号の週刊新潮に掲載された高山正之の連載コラムからである。
本論文も彼が戦後の世界で唯一無二のジャーナリストである事を証明している。
随分前に、世界中のプリマから大変な尊敬を受けているモナコ王立バレエ学校の老女性教授が来日した。
その時に彼女が芸術家の存在意義について語った言葉である。
『芸術家が大事な存在なのは、隠された、隠れた真実に光を当てて、それを表現する事が出来る唯一の存在だからです。』
彼女の言葉に異議を唱えるものはいないだろう。
高山正之は戦後の世界で唯一無二のジャーナリストであるだけではなく、戦後の世界で唯一無二の芸術家と言っても全く過言ではない。
私が、今の世界で、最もノーベル文学賞に相応しいのは、高山正之を措いて他にはいない、と言及している事の正しさを、本論文も見事に証明している。
日本国民のみならず世界中の人達が必読。

アサドを惜しむ
国際通を任ずる宮家邦彦が日本とイランの「伝統的友好って何だ」と素直な疑問を産経新聞に書いていた。　
確かに半世紀近く続く今のイスラム坊主政権はお世辞にも友好的とは言えない。
敵意すら感じる。　
実際その通りで、友好的だったのはその前のパーレビー王朝時代のことだ。　
レザ・ジャーが古いイスラム王朝を倒して近代国家化を目指しだのは奇しくも昭和元年のことだった。　
近代化はまずラクダに代わる鉄道の敷設から始められた。
日本企業がレールの納入、建設指導もしている。　
昭和14年、皇太子モハマドとエジプトの王女フォージュの結婚式に日本は国産輸送機でお祝いに駆け付けてもいる。　
同じアジアの国が欧米に伍して飛行機を飛ばしていることに皇太子はいたく感激し、祝賀の分列飛行に加わるよう求めてきた。　
しかし２年後、イランは英ソに占領され、父皇帝は追放、鉄道はソ連への援助物資輸送に徴発された。
折しもルーズベルト（ＦＤＲ）は大西洋憲章で民族自決を謳い上げた。　
ならばイランの占領も解いてほしいと、皇帝を継いだばかりのモハマドは米国に飛んでいった。　
しかしＦＤＲはソ連が大好きだった。
会見は拒否され、傷心の皇帝はチャイナ・クリッパーで帰途についた。
間もなくオアフ島というところで日本の真珠湾攻撃に遭遇する。　
機はハワイ島ヒロに緊急着水するが、そこで見たのは傲慢な白人どもが青ざめ逃げ惑う姿だった。　
日本はたった一か国でそれからの３年間、専横を極めた白人国家群と戦った。
負けたけれどアジア諸国はみな独立することができた。　
パーレビーは戦後、日本に倣って脱イスラムと近代化を目指した。　
1970年代、実力をつけた皇帝は中東産油国をまとめ、欧米の言いなりだった石油価格をバレル40㌦に統一した。　
欧米は怒る。
米国はイラン民衆を煽動して皇帝を追放させ、代わりに古色蒼然たるイスラム坊主ホメイニ師に国を支配させた。　
近代国家イランは消滅し人々は酒もダンスも禁じられ、不倫は死刑というあほな社会に沈んでいった。
パーレビーの衣鉢を継いだのは隣のイラクのサダム・フセインだった。
彼は石油を国有化し、イスラムの掟で家に閉じ込められていた女を解放し、教育を与えた。
女は街に出て働き、国力は倍増した。
ユネスコは女性解放の業績を評価してサダムを表彰した。　
彼はイスラムでは禁忌のスペアリブを好み、ワインを愛した。
中東の近代化はそこまで来ていた。　
しかし「中東に英傑はいらない。黙って安い石油を出していればいい」と欧米は思っていた。　
だから９・１１テロが起きると「サダムが怪しい」とか言い出して、戦争を仕掛けてサダムを排除した。　
イラクは今、イスラムの狂気が支配している。　
カダフィもサダムと同じに脱イスラムを図った。
サダムと同じに女性を解放し、学校に通わせた。　
イスラムの四人妻制は、モスクの反発があったが二番目以降の妻は「正妻の許可」を条件にして事実上一夫一婦制を実現した。　
欧米は彼を倒すのに「アラブの春」を案出した。　
ＳＮＳでイスラムの宗教心を煽り、部族を対立させ武器を溢れるほど送り込んだ。　
カダフィは砂漠の果てでイスラム狂信者に撃ち殺された。
四人妻は復活した。　
最後の脱イスラムの星はシリアのバシャール・アサドだった。　
ダマスカスではチャドル姿はとっくに消え、女性が店を切り盛りし、閣僚にもごく普通にキリスト教徒がいた。　
それがイスラム狂信者アルカイダなどには許せなかった。
ヒラリーがそれを後押しし、アサドの孤軍奮闘が続いていた。　
そのアサド政権が倒れたと先日の新聞がなぜか嬉しそうに報じていた。　
中東はこれですべて狂信者の世界に戻った。　
そんな喜ばしいこととはとても思えないのだが。