リアルに存在するスパイと無防備な日本――ソ連・中国の工作、統一戦線工作、海外勤務の危険
2019年9月24日発信。
米中経済安全審査委員会の中国共産党統一戦線工作報告書、ソ連時代のモスクワ勤務、中国・北京・大連での体験をもとに、接触、取り込み、操作というスパイ工作の実態と、日本人の無防備さを論じる。
2019-09-24
リアルに存在するスパイと無防備な日本。
ソ連時代の「電話」…ソ連時代の「電話」…日本語がわかる人間がグルに…海外勤務の際、有能な人が近くにいたら注意。
以下は読書家の友人が購読を勧めてくれた書籍からである。
第4章
リアルに存在するスパイと無防備な日本
ソ連時代の「電話」
河添
2018年8月24日に、アメリカ議会の米中経済安全審査委員会、USCG、において「中国共産党の海外における統一戦線工作」と題する報告書が発表されました。
統一戦線工作というものが一体何をしているのか、その実態、その手法を公にして警鐘を鳴らしています。
その報告書によると、第1段階としてまず接触があり、第2段階に取り込みがあって、第3段階で操作、コントロール、までもっていくという流れになっていると。
馬測大使も現役でいらっしゃった頃には、いろいろなトラップを仕掛けられたご経験があるのではないでしょうか?
興味津々ですので、是非そのあたりのお話をお願いします。
馬渕
私はいわゆるベルリンの壁が崩れる10年前、1979年からソ連時代のモスクワに勤務していました。
2年半ほどいたのですが、河添さんが今おっしゃった3つのやり方に関しては当時のソ連も同じことをやっていましたね。
まず接触してくる、それから取り込みを図る、あとはそれをコントロールする。
ようするに狙った相手をスパイに仕上げるということなんですが、そういう方式、やり方っていうのは、独裁国家では大体一致しているんです。
もちろん、アメリカとかヨーロッパもスパイを仕立て上げていますが、やり方が少し違う。
欧米の場合は職業、契約に基づきます。
共産党政権のやり方っていうのは、まさに独裁政権のそれですから非常にエゲツナイやり方なんです。
私自身は幸い犠牲者になりませんでしたが、接触を受けたことは複数回あります。
どこかでお話ししたかもしれませんが、最初、私のアパートに電話がかかってくるわけですね。
普通、ソ連人、ロシア人、から電話がかかってくるはずがないんですよ。
いわゆる警察国家で、国民は外国人との接触を禁じられているわけですからね。
ところが、それができるっていうことは、明らかに相手はスパイなんです。
そんなことはこっちもわかりきっているんでね。
それがABC、基本です。
ある日、我が家にうら若きーだと思います。
会わなかったのでわからないですけれど、声から判断する限り、笑、―女性の声で電話がかかってきました。
しかも、流暢な英語で。
彼女が言うには、「あなたの前任者と自分は知り合いだった。ついては、あなたとも友好を深めたい」と。
「で、実はあなたのアパートの近くのバーにいるんですが、これからお会いできませんでしょうか」と言ってくるわけです。
河添
わかりやすい手口ですね、笑。
周渕
そんな初歩的な、基本的な、というかむしろ下手なやり方で接触してこられて、私は当時、頭にきたんですね。
どうせなら、もう少し上手いやり方で仕掛けてくれって、笑。
そんな幼稚な手法に引っ掛かるはずがないだろうと、適当にあしらっていたんですが、しつこくて1週間ぐらい毎晩、電話してくる。
私がまったく相手にしないものだから、そのうち諦めたようですが。
正直、少し不甲斐ないというか、残念な気持ちになりました。
そういうトラップに引っ掛かるような人間に見られていたのかな、随分軽く見られたんだなと。
彼らの工作は、それほど上手くありませんでしたね。
河添
それまでの日本からの外交官やビジネスマンが、この方法でイチコロだったからかもしれません。
先方としては、「あれっ?」「畜生!」だったのかもしれませんね。
日本語がわかる人間がグルに
馬渕
これはもう、40年ほど前の事件ですから、お話ししても大丈夫でしょうけど、実際、日本の大使館員が工作に引っ掛かったケースがありました。
大使館員が運転していた私用車が、交通事故を起こしてしまったのです。
すると、すぐ交通警察がやって来て、何かをまくし立てて「これにサインしろ」と言ったそうです。
その大使館員はロシア語が堪能ではなかったから、もうわけがわからない。
パニックになっていると、どこからともなく日本語の流暢なロシア人が現われて、「お困りでしょう。お助けしましょうか」と言ったわけです。
そして、「この書類には、こういうことが書いてあるんですよ。
ですからここにサインすれば、あなたは無罪放免ですよ」と言われたものだから、その人は何も考えずにサインしてしまった。
ところが、サインしたその文書が、実は「私はソ連当局の協力者になります」という宣誓文でね。
彼は初歩的なミスを犯してしまったわけです。
河添
内容を読んでさえいない、わからない文書にサインしてはダメですよ!
基本中の基本です。
馬渕
ええ。
そこでポイントは、日本語がわかる人がグルになっている点ですよね。
近づいてきて、安心させて、サインさせる。
もちろん、その大使館員はすぐ転勤になりましたけどね。
当局のスパイになるって宣言したようなものですから。
ようするに、そういう工作をやるんです。
相手によるのかもしれませんが、ソ連の工作もどちらかといえば初歩的ですよね。
河添
乱雑というか単純かつ強引ですねえ。
海外勤務の際、有能な人が近くにいたら注意
馬渕
これは日本ではなくて、イギリスとかフランスの駐ソ連大使が引っ掛かったと言われている話なんですが、大使のソ連人秘書が当局のスパイだったことがありました。
そういう類いの人は皆、有能なんですよ。
読者の方々にもこの場を借りて是非伝えておきたいのですが、外国に勤務した時に、周りに有能な人がいたら気をつけてください。
そういう人は、大体スパイか当局に通じていますよ。
私はソ連以外にもいくつかの国に勤務しましたが、ほとんどがそうです。
有能な秘書は、まず間違いなく当局と関係しています。
当局はピカイチの人材を送り込んでくるんですね。
河添
中国も同様です。
頭脳明晰、記憶力抜群、語学力などが鍵になりますよね。
あとは訓練を受けていて、プライベートなことや余計なことは一切口にしない、普通にいい人に見えるよう振る舞う術を身に着けていますね。
馬渕
ソ連のような警察国家では、こちらが現地の人をローカルスタッフとして雇おうとしても、勝手には雇えない。
当局に頼んで派遣してもらうんです。
もちろん、やって来る人は全員スパイ、笑。
その人たちにそれとなく聞いてみると、大体2週間に1回ほどは当局に呼ばれて何が起こったかの報告をさせられている。
我が家に派遣されてきた女中さんもそうでした。
我が家の内部の様子を、定期的に当局に報告に行っていました。
逆に、当局から女中さんに、私の行動予定の連絡があったこともあります。
ある夜のことでしたが、外交官仲間の夕食会に招かれていたので「留守中の娘の世話を頼む」と言ったら、「〇×大使館のところですね」とポロッと漏らしてしまったのです。
よく訓練された女中さんではなかったのですね。
彼女の「名誉」のために、なぜ知っているのかと追求することは控えました。
警察国家とは、そういうものなんです。
河添
本人はヤバッと一瞬思ったでしょうね、笑。
駐在員家庭に派遣される女中さんは、中国もまさに同じ状況です。
私が80年代に暮らしていた北京もそうですが、留学生寮は、授業に出ている時回帯は、部屋の鍵を空けておくよう言われていました。
名目は、掃除人が入るから。
実は一度、なんとなく虫の知らせがして授業を抜け出して部屋に帰ってみたんです。
すると、なんと掃除のおばさんが、私のベッドに横になって、私か日本から持ってきた雑誌のページをめくっていました。
目撃した私の方が、バツが悪いというか、苦笑。
それと、当時はメールも携帯もない時代ですから、家族や友人、恋人からの手紙が日本から届くわけですが、ことごとく開封されていました。
読んだあとは、中国製の質の悪いノリで封筒を貼り直しているから、すぐわかっちゃう。
そもそも、たいした内容なんて書かれていないのに。
私が日本から送り込まれたスパイかと思ってくださったのでしょうかねえ、笑。
大連にも暮らしましたが、同地で駐在されていた日本人ビジネスマンは、単身者が多かったのでホテル住まいが珍しくありませんでした。
同世代の知り合いは、苦笑しながら私にこう言っていました。
「バスルームのシャンプー、リンスがどんどん減っていくんだ」
「女性の長い髪の毛が、バスルームにたくさん落ちている」とね。
80年代当時、中国製シャンプーは髪の毛をゴワゴワにする粗悪品ばかりでしたから、日本から持参した上等なシャンプー、リンスで、ホテルの従業員なのか掃除係なのかわかりませんが、せっせと髪を洗っていたのでしょうね。
まあ、これはスパイというより、外資系ホテルで働く従業員の特権、密かな楽しみって話のレべルですが。
でも、気味が悪いですよね。
馬測
中国らしいですね。
そういう国家ですからね、当局に反するようなことさえしなければ、逆に安全なんですよ。
ある時、私がモスクワの郊外に行く際に道に迷っていたら、向こうから警官が近寄ってきて「あなたの行き先はこっちです」なんて親切に教えてくれたり、笑。
河添
行先をちゃんと知っている、笑。
私も、大連では同じ類いの経験を何度かしました。
たびたび町で見かける顔があって、ある日、じっと見つめていたら、向こうも開き直って、「どこ行くの?」と。
だから、「あなたが知っている場所へ行くわよ」と答えたら苦笑いしていました。
馬測
知っているんですよ、すべて。
そういう世界です。
この稿続く。