米中覇権競争と日本の選択――歴史の転換期に「どっちつかず外交」は許されない
櫻井よしこ氏と葛西敬之氏の対談から、中国共産党政権の膨張主義、中華民族の偉大なる復興、一帯一路、中国製造2025、台湾・尖閣諸島への圧力を検証する。
歴史の転換期にある日本が、米中双方に良い顔をする曖昧な外交を改め、自由、民主主義、法の支配を共有する米国との同盟を基軸に進む必要性を論じる。
2020-07-09
【背景】
以下は、月刊誌『WiLL』に「日本の選択――迷わず親米に舵を切れ」と題して掲載された、櫻井よしこ氏と葛西敬之氏の対談特集からである。
本対談が発表された2020年、中国・武漢を発生源とする新型コロナウイルスの感染が世界に拡大し、中国共産党政権の情報隠蔽、香港に対する統制強化、台湾への軍事的圧力、尖閣諸島周辺での中国公船の活動などが国際社会の重大な問題となっていた。
両氏は、当時の国際情勢を第一次世界大戦終結から第二次世界大戦勃発までの戦間期になぞらえ、中国共産党政権の思想、領土的野心、軍事力の拡張を、ナチス・ドイツの台頭と比較している。
この比較は、中国人という民族とドイツ人という民族を同一視するものではない。
一党独裁体制、国家的イデオロギー、軍備拡張、領土拡大、異論への弾圧という政治構造の類似性を指摘した歴史的な比喩である。
また、対談中には、海外に暮らす中国系住民、中国人留学生、研究者などを通じた情報・技術移転への警戒も述べられている。
しかし、中国出身者や中国系住民のすべてを一括して疑うことは、決して許されない。
問題とすべきなのは、民族や血統ではなく、中国共産党政権からの具体的な指示、資金提供、組織的関係、違法な情報取得や技術移転の事実である。
本稿が問うているのは、中国人一人一人への敵意ではない。
自由、民主主義、人権、法の支配を否定し、力によって国際秩序を変更しようとする中国共産党政権に対し、日本がどのような国家戦略を持つべきかという問題である。
【米中両方に良い顔をする「どっちつかず外交」は許されない】
【歴史は繰り返す】
櫻井
コロナ禍によって、中国という国の本質が明確になりました。
日本のみならず、世界各国が「ポスト・コロナ」における対中戦略の見直しを迫られています。
葛西
現在の世界情勢は、歴史の転換期に独善的思想を持つ国が台頭しているという意味で、第一次世界大戦終結から第二次世界大戦勃発までの戦間期の状況に似ています。
中華思想を掲げる中国が、かつてのナチス・ドイツと重なる。
櫻井
「チャイナチ」という強い造語が使われるようになりましたね。
『フォーリン・アフェアーズ』などの海外誌にも、ナチス・ドイツと中国共産党を比較する論考が見られます。
すぐ思いつくだけでも、両者には、一党独裁で、自らが依って立つイデオロギーを決して曲げないといった共通点がある。
さらに、ナチス・ドイツは「生存圏」、つまり自給自足を行うために必要な領土を確保しようと考えていました。
習近平主席が提唱する「一帯一路」や「中国製造2025」からも、生存圏確保の意図が透けて見えます。
葛西
ナチス・ドイツは軍備拡張と領土拡大に邁進し、第二次世界大戦を招いてしまった。
中国は、ウイグルやチベットといった内陸にとどまらず、東南アジア、台湾、尖閣諸島、さらには沖縄にまで矛先を向け、西太平洋を手中に収めようとしている。
櫻井
尖閣問題も深刻化しています。
5月、中国公船「海警」2隻が、尖閣諸島周辺の領海で操業中の日本漁船を追い回した。
中国の攻勢は、もう一段高い水準に上がったといえるでしょう。
香港、台湾の次は尖閣だと、警戒を強めるべき局面です。
【中華民族の血と地】
葛西
ヒトラーは、アーリア人選民思想を掲げて国内世論の支持を固めました。
ホロコーストの背景には、人種差別的なイデオロギーがあったわけですが、中国の行動原理である中華思想に基づく独善性は、ナチス・ドイツの選民意識に似ています。
櫻井
ええ。
習近平主席は就任以来、一貫して「中華民族の偉大なる復興」をスローガンに掲げてきました。
あくまで「中華民族」というものにこだわっている。
「国際社会の諸民族の上に中華民族がそびえ立つ」という目標も、中国の国家戦略のようです。
中国共産党の価値観の下で「人類運命共同体」を築き上げ、逆らう者は徹底的に弾圧する。
力によって覇権を打ち立てることこそ、「中国の夢」にほかならない。
時代錯誤の選民思想、人種差別なのです。
葛西
周囲を取り囲む未開な夷狄を、中華文明によって教化するという、上から目線の使命感のようなものがある。
啓蒙するためには、まず制圧し、統治する必要がある。
そのような論理によって、膨張主義を推し進めているのでしょう。
中華思想は、文明の中心地である中国が隣接地への支配を拡大し、その地の民族を中国化するという形で、土地に結びついて広がっていく点も特徴的です。
土地を超えて伝播する共産主義などのイデオロギーや、キリスト教、イスラム教などの宗教とは異なる点です。
それゆえに、根深い侵略性がある。
櫻井
中国の国籍の有無にかかわらず、中華民族の血を受け継いでいる者は皆、中国政府のために働くよう呼びかけられています。
マレーシアやシンガポールなど、地理的な理由から華僑が多い東南アジアだけでなく、オーストラリアやカナダも、多くの中国系移民を抱えています。
わが国に住む外国人の中で、最も数が多いのは中国出身者です。
その一部が企業や大学に入り、どのような手段かは明らかではありませんが、本国のために情報や技術を移転したり、持ち去ったりしたとされる事例は少なくありません。
しかも興味深いことに、若い世代ほど共産党政権への忠誠が強い傾向があると指摘されています。
江沢民政権下の1990年代以来、中国は愛国教育の名の下に、反日的な歴史教育を進めてきました。
子供の頃から、「中国は屈辱の歴史を歩まされた」「中国を貶めたのは日本だ」と教え込まれ、軍事力と経済力をつけた中国の対外強硬政策を支持し、日本を強く敵視する傾向が生まれているというのです。
この稿続く。
【再掲載にあたって】
本対談が提起した最大の問題は、日本が米国と中国の双方に良い顔をし、重大な選択を先送りする外交を続けてよいのかということである。
米国にも問題はある。
米国のすべての政策に無条件で賛成する必要はない。
しかし、日本と米国は、選挙によって政権を選び、言論の自由を認め、司法の独立と法の支配を国家の基本原則としている。
中国共産党政権は、一党独裁体制を維持し、言論と報道を統制し、政権への批判を許さず、軍事力と経済力によって周辺国に圧力をかけている。
日本がいずれの側に立つのかは、単なる経済的利益や貿易額だけで決められる問題ではない。
どのような政治体制、価値観、国際秩序の下で生きるのかという、国家の根本的な選択である。
日本が中国との経済関係を維持することと、中国共産党政権の覇権主義に反対することは矛盾しない。
中国国民との友好を大切にすることと、中国共産党政権の人権弾圧や軍事的威圧を批判することも矛盾しない。
区別しなければならないのは、中国という国、中国共産党政権、中国国民、中国系住民のそれぞれである。
日本が対抗すべき相手は、中国人という民族ではない。
力によって国境と国際秩序を変更しようとする中国共産党政権の政策である。
日本は、日米同盟を国家安全保障の基軸として明確に位置づけなければならない。
同時に、オーストラリア、インド、欧州、台湾、東南アジア諸国など、自由、法の支配、航行の自由を重視する国や地域との協力を強化する必要がある。
経済的利益のために安全保障上の危険を見ないふりをする外交は、現実的でも中立的でもない。
それは、決断を先送りすることによって、より大きな危機を招く外交である。
歴史の転換期において、どちらにも良い顔をすることは、両方から信頼されることを意味しない。
自らの価値観と国家的立場を明確にしなければ、日本は他国の決定に従わされる国となる。
日本は迷わず、自由、民主主義、人権、法の支配を共有する米国との同盟を基軸に進まなければならないのである。