台北 見返りなんて要らない…朝日新聞2月17日12面より

座骨神経痛が悪化したので出勤前に近くの整形外科医を訪ねた。座る姿勢から寝方まで医者は生活上の心得を教えてくれ、「総合病院へ行ってきちんと検査したほうがいい」。

最後に湿布を出してきて「そんなわけでお金はいただきません」。申し訳ないと言っても聞き入れてくれない。湿布はよく効いた。その日の夜は旧正月明けの新年会だった。台北市内の小さなレストランで始めて30分後、財布をなくしたことに気づいた。

呼びかけ人の私に支払い能力がないのはまずい。タクシーを降りた辺りまで出て探していると、「財布を落とした人か」と声をかける老人がいた。息子と2人でごみ収集の仕事をしていて、財布を見つけたので息子が派出所へ届けに行ったという。

派出所で無事受け取り、警察官がかけてくれた電話でその息子さんに「謝礼を渡したい」と言ったが、「そんなものは要らない。

今後は財布を落とさないよう気をづけることだ」とさとされた。二つの出来事が偶然だったとは思われない。以来、この社会にどうお返しすればいいのかを考えている。(村上太輝夫)

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