波紋を広げたのは誰?首都直下地震…朝日新聞2月24日15面より

池上彰の新聞ななめ読み

「マグニチュード(M)7級の首都直下地震が4年以内に約70%の確率で発生する」読売新聞1月23日付朝刊1面の記事は大きな波紋を広げました。東京大学地震研究所の研究チームがまとめたというのです。

「昨年3月11日の東日本大震災をきっかけに、首都圏では地震活動が活発化。気象庁の観測によると12月までにM3~6の地震が平均で1日当たり1・48回発生しており、震災前の約5倍に上っている」 「同研究所の平田直教授らは、この地震活動に着目。

マグニチュードが1上がるごとに、地震の発生頻度が10分の1になるという地震学の経験則を活用し、今後起こりうるM7の発生確率を計算した」というのです。

記事が出るとすぐにテレビ各局が追いかけ、大きく報道。不安におびえる人たちも多いようです。ところが、東京大学地震研究所のホームページを見ると、読売新聞の記事について、次のように書いています。

「(読売の記事が取り上げた)試算は、2011年9月の地震研究所談話会で発表されたもので、その際にも報道には取り上げられました。それ以降、新しい現象が起きたり、新しい計算を行ったわけではありません」

「試算が示した東北地方太平洋沖地震の誘発地震活動と、首都直下地震を含む定常的な地震活動との関連性はよくわかっていません」 (2月15日現在)

さらに、読売の「マグニチュードが1上がるごとに、地震の発生頻度が10分の1になるという地震学の経験則を活用し、今後起こりうるM7の発生確率を計算した」という説明は正確ではないと書いています。

おやおや、読売の記事に全面反論と称してもいいでしょう。この試算が発表されたのは去年9月16日に開かれた「地震研究所談話会」です。

この談話会は、過去に私も傍聴したことがありますが、正式な学会発表ではなく、地震研究所の研究者たちが、いまどんな研究をしているか同僚に披露するという種類のものです。去年9月に仲間内で発表されたデータが、なぜか4ヵ月後に突然新聞記事になったことに対し、東大地震研が当惑していることがわかります。

このときの発表は、東日本大震災以降、去年9月までに起きた余震の件数をもとに、将来の可能性を試算したものです。小さな地震が多ければ、大きな地震発生の確率も高まるので、高い発生確率が導き出されました。それ以降、首都圏の余震は減っていますから、現時点で試算すれば、確率は低くなります。

事実、京都大学の防災研究所が、同じ式を使って、今年1月までの地震回数で割り出した確率は、「5年以内に28%」というものでした。読売新聞の記事は、いつまでの地震の回数をもとに試算したか書いてありません。

その代わり「気象庁の観測によると12月までにM3~6の地震が」 「震災前の約5倍に上っている」と書きました。これでは読者が、去年12月までのデータをもとに試算したと誤解してしまうではありませんか。

書いた記者は、去年9月の発表を今年1月に書くに当たり、最新ニュースであるかのように描こうと、気象庁の12月までのデータを使ったのでしょうか。読売新聞は2月16日付朝刊の解説欄で、続報を掲載しました。その後の計算で確率が下がったことを報じています。

あまりの反響の大きさに、続報を書く必要があると考えたのでしょうか。この記事の前文は「『首都直下を含む南関東で、マグニチュード(M)7級地震が4年以内に起きる確率は70%』という平田直・東京大学地震研究所教授らの試算が、波紋を呼んだ」と書いています。

「波紋を呼んだ」のは教授らの試算ではありません。読売の記事なのです。

◆東京本社発行の最終版を基にしています。

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