朝日新聞は福島の現場をどう貶めたか—吉田昌郎氏と部下たちの名誉を守るために

2019年6月10日付の論考。
福島第一原発事故の現場で命懸けで対応した吉田昌郎氏と職員たちの実像を示しつつ、朝日新聞の「命令違反による撤退」報道がいかに事実を歪め、日本人全体の名誉を傷つけたかを厳しく問う一篇。
政府事故調報告書、現場証言、報道機関の責任を通して、戦後日本のメディアの病理を抉り出している。

2019-06-10
最悪の事態と必死で闘った部下たちを、今は亡き吉田氏は心から称賛した。
一方、朝日は日本を救うために奮闘したそんな人々を世界中から嘲笑されるような存在に貶めた

以下は前章の続きである。
中略。
朝日は当事者に取材したのか
政府事故調は吉田氏を含む当事者772名に1,479時間に及ぶ聴取をおこなっている。
そのうちの28時間が、吉田氏への聴取だ。
つまり、吉田氏やほかの当事者に膨大な聴取をおこない、そこで「事実」と確認されたことは、全448ページとなる政府事故調の「最終報告書本文編」にすべて書かれているのである。
そこには、「職員の9割が所長命令に背いて逃げた」ことなど1行も書かれていない。
朝日新聞の取材に答えて、畑村洋太郎・元委員長は、こう答えている。
「外に出すべきものは報告書にみんな入れたつもりだ。
報告書に載せたこと以外は口外しないのが約束だ」
それは、すなわち、「命令違反による撤退」など、「なかった」という意味ではないだろうか。
これに対して、朝日は、〈28時間以上にわたり吉田を聴取した政府事故調すなわち政府が、このような時間帯に命令違反の離脱行動があったのを知りながら、報告書でまったく言及していないのは不可解だ〉と書いている。
不可解なのは「政府事故調」ではなく、「朝日新聞」の方である。
私は、果たして朝日は現場の当事者たちに裏取り取材をしたのだろうかと、ふと思った。
私はこの時の現場職員たち、つまり当事者を数多く取材しているが、所長命令に「違反」して「退避」した人間など、一人もいなかった。
いずれも一糸乱れず「命令に従って」、2Fに移動しているのである。
吉田氏本人は生前、部下たちのことを私にこう述べている。
「私はただのおっさんです。
現場の連中が、あの放射能の中を、黙々と作業をやってくれたんだ。
そんな危ないところを何度も往復する。
それを淡々とやってくれた。
彼らがいたからこそ、(事態を)何とかできたと思う。
私は単にそこで指揮を執っていただけのおっさんです。
だから彼ら現場のことだけは、きちんと書いて欲しいんですよ」
最悪の事態と必死で闘った部下たちを、今は亡き吉田氏は心から称賛した。
一方、朝日は日本を救うために奮闘したそんな人々を世界中から嘲笑されるような存在に貶めた。
私はこの問題を雑誌等に書いて、朝日から「法的措置を検討する」という抗議を受けている(注/後に朝日は自らの誤報を認め筆者に謝罪)。
現場で奮闘した人たちの名誉をそめる言論機関が、正当な「論評」に対して法的措置をちらつかせることに私はいうべき言葉もない。
朝日新聞が日本人を貶める目的は一体、何だろうか。
私には、それがどうしてもわからないのである。

(『正論』2014年8月号)

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