習近平はなぜ日本に秋波を送るのか――トランプの変革と中国のグローバル戦略
2019年8月9日発信。月刊誌Hanada掲載の前NHK会長・籾井勝人氏と中国研究者・遠藤誉氏の対談を紹介。トランプ大統領の変革力、米朝首脳会談、米中貿易戦争、ファーウェイ制裁、中国のサプライチェーン戦略、習近平氏が日本に接近する理由を論じる。
2019-08-09
そのトランプ氏からの猛烈な攻撃をうけて、習近平氏はいま日本に秋波を送っています。
それは日本から大量にハイレベルの半導体が欲しいからです。
以下は月刊誌Hanada今月号に「トランプの変革と習近平の世界戦略」と題して掲載された、前NHK会長籾井勝人氏と世界最高の中国通の学者である遠藤 誉さんの対談からである。
2010年7月に仕方なく、こうして登場した時、私は出来るだけ多くの人に読んで頂くために、もう一つ、FC2にも掲載していた。
当時のFC2は読者の所属先が分かるようになっていた。
私が登場するや否や、連日、日本を代表する大企業、霞が関、衆議院、東大、京大を始めとした殆どすべての国公立大学、早慶、関関同立等の私大のトップや教授たちが、連日、読んでいた。
それは当然だったのである。
何故なら、この国の中枢とは、或いは世界の中枢とは、私の先輩や同級生、後輩達の事だからである。
その中に、頻繁に日本ユニシスの名前があった。
私が社会に出てからの一生の親友である二人は日本を代表する商社で仕事をしている。
日本を代表する大企業に就職するまでも競争、就職してからも競争なのである。
そんな中で、新人や中堅社員達が、如何に「文明のターンテーブル」が凄い内容を持ったものであるとしても、勤務時間中に、読んでいるわけはないのである。
では誰が読んでいたのか?
言うまでもなく社員を管理する側の最高のトップ達が、発想の源、判断の契機とするべく、これはと思うものを読んでいる。
以下の対談で、私は確信したのである。
当時、頻繁に読んでくれていた一人に、日本ユニシスの社長だった籾井氏であったに違いないと。
彼が社長だった時代と私が登場した時期が重なっていたからである。
物事を劇的に動かすには
籾井
僕がまだNHK会長時代のことです。
大方の予想を覆してトランプ大統領が誕生した際、記者会見でトランプ当選について質問されたんです。
その時、こう申し上げました。
「かつてレーガンさんも、当初は『所詮は映画俳優だ』と批判されていた。
けれど、のちに評価の高い大統領になった。
トランプさんを『不動産屋だ』などとバカにした言い方をする人がいますが、彼も退任後は、いい大統領だった、となりますよ」
テレビを見ていますと、未だにトランプ氏は「不動産屋だから」などと揶揄されていますが、そもそも不動産屋の何が悪いのか?
要は、自分たちの考えの枠組みからはみ出す言動が理解できない、許せないだけじゃないですかね。
米朝首脳会談にしても、シンガポールで第一回目の会談が行われた際、多くの意見が「どうせ成功はしない。
拙速だ」などと批判していました。
遠藤
実は、シンガポールでの会談が行われる一年ほど前に出した『習近平vsトランプ』(小社刊)やその他の発言の機会に、私はこの米朝の首脳なら会談はあり得ると予測していたのですが、当時は誰もそのようなことを考えていなかったので、ものすごく激しいバッシングを受けたりしたんですよ。
籾井
遠藤先生ぐらいでしょ、米朝首脳会談を早い時期から予測していたのは。
その後、第二回目がハノイで、第三回目が先般、板門店で行われ、ようやく「米朝の実務者協議をやる」とトランプ氏は言っていますね。
言わばスタートを切った。
トランプ大統領でなければ、米朝首脳会談なんて開かれていませんよ。
物事を劇的に動かすには、時にトップが大胆に断行しないと変わらない。
遠藤
そのとおりですね。
トランプ氏はあの性格だからこそ実現するのであって、オバマ氏の時のように官僚がお膳立てする積み上げ方式では、こういうドラスティックな事は起きませんよね。
籾井
変革は時にドラスティックにやらないと事が成らない。
これはビジネスの世界でも同じです。
僕も日本ユニシスの社長時代は、大胆に変革を起こしました。
たとえば、三十階建てのオフィスで各フロアにキャビネ(書類・備品などを収納する戸棚)が大量にあった。
「これ何が入っているの? ほんとうに必要なの?」と訊いても返事が要領を得ない。
そこで九割のキャビネを捨てさせ、ペーパーレス化を進めました。
社員は「え! 一割じゃないんですか!」と驚いていましたが、「一割では事は成らない」と断行し、結果、社員の努力もあって見事なくした。
これによって社内も綺麗になり、二フロアも空いたんです。
それを効率的に使うことができましたし、何よりも社員に「変革」という意識が芽生えた。
これが重要です。
社内禁煙もいまでは当たり前になっていますが、日本ユニシスでは十年以上前に全フロアが禁煙です。
当時としては異例のことでしたが、大胆に実行した。
僕は経営者としてはみ出し者でしたから、ドラスティックにできたのかもしれません。
だいぶ批判も浴びましたが(笑)。
遠藤
トランプ氏も、よくメディアで批判されていますね(笑)。
籾井
「変革」という視点で、僕はトランプ氏を評価しています。
米中貿易戦争でも「不公平だ」と強く訴えて中国と激しくやりあっている。
いままでの政治家だったら、ここまでできていなかったと思いますね。
やはり、ドラスティックに行うことで変革を起こそうとしている。
第二次大戦後、唯一の富める国であったアメリカに頼ってきた国際的な組織、仕組みについて、諸外国に応分の負担を要請していると思います。
禁輸制裁緩和と中華の知恵
遠藤
そのトランプ氏からの猛烈な攻撃をうけて、習近平氏はいま日本に秋波を送っています。
それは日本から大量にハイレベルの半導体が欲しいからです。
さらにその根底には、グローバル経済という中国の武器があり、それこそ「中華の知恵」に根ざした戦略なのです。
この点を押さえなければ習近平氏の動き、戦略は読み解けない。
1990年代、私は在米華僑華人たちを数多く取材しました。
その時の老華僑の言葉が忘れられません。
「もう戦争はこりごりだ。
中国共産党は嫌いだが、戦争はしてほしくない。
そのために、アメリカが中国とのビジネス・チェーンを切ることができないようにしておく。
そうすればアメリカは中国と戦争を起こすことはできない。
これこそが中華の知恵だ」
習近平政権のグローバル戦略も、中国が孫子の兵法以来蓄えてきた、ある種の「知恵」といえるかもしれませんね。
米中貿易摩擦が始まってから、実は習近平氏はよく「あなたのなかに私がいて、私のなかにあなたがいる」という言葉を使っています。
これは世界中、特にアメリカに強固なサプライチェーンを形成して、何か衝突があった時には、相手がその「鎖の絡み」から抜け出せないようにしておくという、中国の戦略を指しているのです。
その意味で、グローバル経済は中国の武器なんですよ。
籾井
六月十七日~二十五日にかけて、アメリカ議会では対中制裁関税に関する公聴会が開催され、三百を超えるアメリカ企業が参加しましたね。
その大半がファーウェイに対する禁輸制裁に反対した。
やはり、アメリカ国内に禁輸制裁によって困る人たちが相当数いるのでしょう。
そもそもウォール街はグローバル経済でなければ儲からないので、一貫して保護主義に反対の立場です。
遠藤
非常に重要なご指摘です。
先般行われたG20で、米中首脳会談後にトランプ氏が、第四弾の対中追加関税を見送り、ファーウェイ禁輸制裁緩和を表明しましたが、その背景も習近平氏の「中華の知恵」が働いていたのです。
具体的に説明しますと、習氏の母校である清華大学には経済管理学院顧問委員会があり、その委員には米大財閥のボスたちの名前がズラリと並んでいます(表参照)。
中国と関連する大手米企業のCEOは、ほとんどこの顧問委員会の委員なんです。
つまり、習氏と緊密につながっている。
全てはキッシンジヤー元国務長官が斡旋したものですが、中国がいよいよの窮地に追い込まれたときには、このボスたちを動かせばいい。
いわば、ウォール街がそのまま習氏のお膝元にあるという感じです。
今回、公聴会に参加した三百以上の企業に、顧問委員会のボスたちが圧力を掛けた可能性が極めて高い。
すなわち、水面下で北京が米議会をコントロールしていたことになります。
この手の影響力を含めてアメリカのシンクタンク「全米民主主義基金」は「シャープ・パワー」と名付け、警告を発しています。
籾井
アメリカの財界人は、何よりもお金を重視しますからね。
ファーウェイという巨大な取引先と商売ができなければ自分たちが儲からなくなるので困る。
公聴会も、ロビイストが資金を出せば開催できてしまう。
遠藤
ファーウェイと取引をしているアメリカ企業はとてつもなく多いですから、そのサプライチェーンを切断されることは、アメリカ企業のビジネスにとって致命的であるというのが、公聴会における主たる訴えでした。
だからファーウェイに対する禁輸制裁を取り下げろ、というのが圧倒的多数による要求だったのです。
来年の大統領選のために強気に出ていたトランプ氏が、選挙に不利な結果をもたらす選択をすることはできません。
この公聴会における態勢不利をトランプ氏が実感したタイミングを狙って、習近平側は最後のダメ押しをしています。
公聴会の結論が出た六月二十六日、習氏はトランプ氏に「ファーウェイ制裁を解除しなければ、G20で米中首脳会談に応じない」と最後通牒を突きつけていますね。
これは六月十八日の電話会談の時から習近平が出していた条件だったのですが、ここにきてトランプ氏は折れざるを得なかった。
つまり、米中首脳会談の開催はファーウェイ禁輸解除が前提条件だったのです。
このことは、私の他に唯一六月二十七日のウォールーストリート・ジャーナルがスクープしています。
この稿続く。