「中華民族の偉大なる復興」という最後のカード――日本を危機に導くメディアの責任

2019年8月9日発信。月刊誌Hanada掲載の前NHK会長・籾井勝人氏と中国研究者・遠藤誉氏の対談の続き。習近平政権が掲げる「中華民族の偉大なる復興」、中国の一党支配体制、香港・台湾・第一列島線への脅威、日本政府の対中姿勢、そして日本メディアの危機感の欠如を論じる。

2019-08-09
この言葉をスローガンに用いたということは、中華民族の心を刺激しなければ一党支配体制を維持するための人民の結束ができないところまで来てしまった、ということを意味しています
以下は前章の続きである。
中華民族の怖さ
籾井
習近平氏は「中華民族の偉大なる復興」というスローガンを掲げ、突き進んでいる印象を受けます。
遠藤
あのスローガンは、江沢民、胡錦濤、習近平と三代に仕えた中国一の知恵袋と称される王滬寧(現中犬政治局常務委員会委員、党内序列五位)が生み出したものなんですが、それを知った時、私は「とうとうここまで来たか」と思いました。
どういうことかと言いますと、これが中華民族の怖いところでもあるんですが、「中華民族の誇り」を刺激されると、どんなに共産党が嫌いな中国人でも血が騒ぐんです。
血が騒がずにはいられないと言ったほうが正確ですね。
抑えられない。
そして、この言葉をスローガンに用いたということは、中華民族の心を刺激しなければ一党支配体制を維持するための人民の結束ができないところまで来てしまった、ということを意味しています。
籾井
いわば最後のカードを切ったということですね。
遠藤
そうです。
もう後戻りできない。
突き進むしかない。
そしてもし、「二〇四九年にアメリカを凌駕する」という中国の野望が達成されてしまったらどうなるか。
いま共産党に批判的な見方をしている一部の人民たちもこの実績を評価し、共産党支持に転じてしまうでしょう。
習近平氏の最大の敵は人民の声です。
だからAIや監視カメラで徹底的に監視する。
すべては共産党一党支配体制を維持するためで、アメリカを凌駕して、共産党を批判する国民がいなくなれば恐いものはない。
その時になってからでは遅いんです。
一党支配体制を維持するため、国民一人ひとりを監視カメラで監視し、言論封殺を行う国が世界を支配する。
悪夢です。
私たちは子々孫々にどう責任を取るのか。
絶対に阻止しなければなりません。
だからこそ安倍首相も「ドナルドと100%ともにある」と言うなら、もっと中国に毅然たる姿勢を示さないといけません。
いま中国は、トランプ氏が仕掛けた貿易戦争に困っているからこそ日本に微笑みかけていることは先ほど申し上げたとおりで、日本が中国をはね付けてもいい数少ないチャンスなんです。
安倍首相はそれを全く活かせておらず、秋波を送る習近平氏にまんまと乗せられてしまっている。
一帯一路への参加然りです。
香港のデモにしても、日本は決して他人事ではないのです。
デモに参加している香港の若者たちこそ、民主主義の最後の砦です。
香港が崩れたら間違いなく台湾、台湾が崩れたら第一列島線を手中に収めようと習近平氏は狙っている。
その時、日本はどうするつもりですか。
その時ではもう遅すぎるんです。
日本政府は香港の若者たちにエールを送り、中国政府に対しては毅然たる声明を発していくべきです。
ところが現実は、言論弾圧する一党支配国家である中国の世界制覇に手を貸してしまっている。
日中関係はようやく正常な軌道に戻ったと安倍首相は仰いますが、そんな「日中友好」など決してやるべきではありません。
籾井
いまの中国の監視社会、言論統制、テレビのマスキング等々を見ると、決して住みたいとは思えません。
これだけ多様化している世界において、日本の立ち位置とかケースについては検討がなされていると思いますが、一党支配が続く中国とどう付き合っていくのか。
中国の国家主席を日本に国賓で招く、日本に来てもらいたい、といった話はいつの時代もよく聞かれます。
首脳会談が行われるのは結構ですが、いま遠藤先生が仰ったような中国は何を考えているのか、どのような戦略で臨んでいるのかを認識しておく必要がある。
それは中国だけでなく、アメリカに対しても同じです。
同盟国であっても所詮は他国なんですから。
今後どう付き合っていくべきなのか、日米同盟をどうするのかを、戦略的に考える必要がある。
それをあろうことか、トランプ氏が「日米安保は不公平」と少し言っただけでメディアは大騒ぎする。
情けないですよ。
国会でも、国を守るとはどういうことなのかを全然議論していない。
「憲法改正に関して、国民の意識がそれほど高くないから議論をする必要はない」という意見もありますが、もっと根底から「国を守る」ということがどんなことかを真剣に議論しないと、いつまでも「賛成」か「反対」かの薄っぺらい議論になってしまいます。
こんなことでいいはずがない。
日本を危機に導くメディア
遠藤
もっと危機感を持ってはしいんです。
にもかかわらず、日本のメディアはどうか。
読者にウケるからと、「中国経済は崩壊する」「習近平は権力闘争に明け暮れてやがて失脚する。
権力争いばかりしているあんな国に未来はない。
滅びる」といった言説で溢れかえっています。
日本人に聞こえのいいことばかりで、結果的に日本人を堕落させている。
日本を危機に導いているんです。
あるいは、元NHKの人とある番組で共演した際、まさに中国共産党対外連絡部のプロパガンダどおり、中国が言わせたい筋書きどおりの発言を繰り返していたことがあります。
中国のシャープ・パワーに完全にやられてしまっている。
一般の視聴者にはそこまではわからないので、その人の発言を通して中国の考えが刷り込まれてしまう。
非常に危険です。
籾井
僕がNHK会長時代は、NHKの国際番組基準をしっかりと守るという姿勢を心がけていました。
そこには「わが国の重要な政策および国際問題にたいする公的見解ならびにわが国の世論の動向を正しく伝える」とあります。
たとえば尖閣諸島について、政府は日本固有の領土だとしていますが、こうした公式見解を正しく伝える必要がある。
NHK会長の就任会見で「政府が右と言うものを左と言うわけにはいかない」と言ったのも国際放送に関する文脈で語ったのですが、発言の一部が切り取られて独り歩きしてしまった。
もっと慎重に言葉を選ぶべきだったかもしれませんが。
遠藤
当時は大変な批判に晒されましたね。
籾井
もう少し正確に伝えてもらいたかった、というのが本音です。
それと、いま民放でもよくキャスターがニュースの終わりに「懸念されます」とコメントするのを見ますが、違和感を覚えますね。
「誰が懸念しているの?」とテレビに向かって怒っていますよ。
客観性を装ったコメントですが、言っているキャスターなり、ディレクターなりの意見でしょう。
視聴者は結構そのコメントに左右されてしまいますからね。
あと常々思うのは、もう少しメディアに多様な視点があってもいいのではないかということです。
たとえば、トランプ氏に関しても報じられるのは各社横並びで、アメリカ国内で大統領を批判する意見やデモばかりでしょ。
冒頭申し上げたような「トランプは不動産屋だから」などとバカにしたような評論家のコメントなんか「もう聞きたくない。
見たくない」というのが正直なところですね。
メディアにももっとしっかりとしてもらわないと。
日本の行く末が本当に心配でなりません。

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