ファーウェイが5G世界の覇権を握る恐怖――トランプの作戦ミスと中国製造2025
2019年8月9日発信。月刊誌Hanada掲載の前NHK会長・籾井勝人氏と中国研究者・遠藤誉氏の対談の続き。G20米中首脳会談をめぐるトランプ氏の作戦ミス、習近平氏の交渉術、ファーウェイの標準必須特許、5G覇権、中国製造2025の脅威を論じる。
2019-08-09
もし標準必須特許(標準規格の製品をつくるために欠かせない特許)をファーウェイが取得すれば、ファーウェイの規格が国際標準となって5G世界の覇権を握ることになります
以下は前章の続きである。
トランプの作戦ミス
籾井
それ以前の五月十三日の時点で、トランプ氏がG20首脳会談で「習近平と会うつもり」と記者団に先に言っていましたね。
遠藤
仰るとおりです。
それこそがトランプ氏の作戦ミスでした。
先に言った者が敗ける。
トランプ氏の発言に、習近平氏は「しめたッ」と思ったはずです。
老獪な習氏は、一貫して沈黙を続けました。
籾井
僕もビジネスで経験があるからわかるんです。
交渉事では「この交渉はまとめたい」と思った側か往々にして負ける。
三井物産時代、鉄鉱山を買うため、イタリアにいるオーナ―に交渉しに行った時のことです。
「条件が折り合わなかったら買わなくてもいい」というスタンスで臨んでいて、実際、交渉は一向にまとまらなかった。
もう書類を片付けて、「二時の飛行機で東京に帰ります」と啖呵をきったら、オーナーが匳てて「ちょっと待て。ベストプライスを言ってくれ」と言う。
「どうせ決まらないだろう」と高を括っていた僕は、かなり高い値を言ったんです。
それに対して、オーナーはさらに値を下げてきた。
この時、「いえ、それでもやはり無理です。帰ります」と突っ撥ねればよかったんです。
そうすれば確実に値は下がった。
でも僕はその瞬間、「ここまできたら諦めるのはもったいない」と思ってしまったんです。
その時点で負けでした。
実際、想定よりも高い金額で買ってしまった。
帰りの飛行機で、「やっぱり失敗だったかな」と悔やんだものです。
トランプ氏もビジネスマンですから、その辺りの交渉事には慣れているはずですが。
その意味で、彼は非常に正直な人なんでしょうね。
遠藤
老獪さという面では、習近平氏が一枚上手でした。
やはり、「中華の知恵」を知らなければ中国の戦略を理解することは難しい。
世界の通信インフラを制覇
籾井
ただ、鉄鉱山を買った話には続きがありまして、僕が退社後に三井物産は購入額以上で売却してしっかりと利益をあげているんです。
なのでビジネスをやってきた者としての勘ですが、トランプ氏のことですから対中国の第四弾がまだあるのはないか。
’国益第一の彼’が、このままでは終わるとは思えません。
遠藤
私もそれに期待しています。
逆に、このまま終わってしまってはそれこそ後戻りできない重大な事態になってしまうからです。
いま、事態は相当深刻化しています。
たとえば、通信機器と音声やデータを電波でやりとりする基地局のシェアを見ると、ファーウェイが27.9%、ZTEが13%と中国が4割強を占めてしまっている。
その他はエリクソンが26.6%、ノキアが23.3%と、なんとアメリカ企業が1社も入っていない。
これが現実なんです。
軍事も含めて多様な分野で活用される次世代移動通信技術「5G」の必須特許数でも、ファーウェイが世界一を占めている。
もし標準必須特許(標準規格の製品をつくるために欠かせない特許)をファーウェイが取得すれば、ファーウェイの規格が国際標準となって5G世界の覇権を握ることになります。
AIやloT(モノのインターネット)が急速に普及する世の中で、中国が世界全体のあらゆる通信インフラを抑えてしまう。
これはとてつもない恐ろしさです。
籾井
トランプ氏がたびたび言う「Make America Great Againというのは、「中国を凌駕する」という意味も含んでいますね。
中国に覇権を握られてはならないと。
遠藤
中国は国家戦略「中国製造2025」を掲げ、二〇二五年までに中国がハイテク製品のキー・パーツである半導体の七〇%を国産化するなど、5Gを基本としたデジタル経済で世界覇権を狙っています。
同時に宇宙開発に力を注ぎ、二〇二四年には中国の参加を排除した国際宇宙ステーションの寿命が尽きるので、その前の二〇二二年までに中国独自の宇宙ステーションを稼動させようとしている。
建国百周年の二〇四九年までには、経済規模GDPにおいてのみならず、ハイテク界においても必ずアメリカを凌駕して世界を制する野望を掲げています。
こうした脅威に初めて目を向け、阻止しようとしたのがトランプ氏です。
いま止めなければ手遅れになってしまう。
この稿続く。