トランプが退治した四つの「怪物」――ネオコン、ディープステート、ロシア疑惑、そして民主党金権政治

トランプ大統領は、ワシントンに巣くうどのような勢力と戦ったのか。
ネオコン外交、ディープステート、ヒラリー陣営の資金で作成されたスチール文書、ロシア疑惑、ウクライナ疑惑、バイデン親子とブリスマをめぐる問題について、渡辺惣樹氏が論じた2020年7月9日の記録。


2020-07-09
トランプが退治した四つの「怪物」――ネオコン、ディープステート、ロシア疑惑、そして民主党金権政治
以下は前章の続きである。
本稿は、「トランプの敵――そのおぞましい素顔」と題して月刊誌『WiLL』に掲載された、渡辺惣樹氏の論文からである。
渡辺惣樹氏は、世界有数の日米近現代史研究家である。
本論文は、日本国民のみならず、世界中の人々が必読である。
NHKなどの報道番組を視聴し、朝日新聞などを購読しているだけでは決して知ることのできない、米国政治の深部に関わる事実と論点の数々が記されているからである。
トランプ大統領が2016年の大統領選挙で掲げた「Drain the Swamp」という言葉は、単なる選挙用の標語ではなかった。
それは、ワシントンに根を張る政官財の癒着、軍産複合体、情報機関、官僚組織、メディア、巨大な利権団体が形成してきた構造に立ち向かうという宣言だった。
そのため、トランプ政権の歩みは、既存の権力構造から激しい抵抗を受け続けるものとなった。
渡辺氏は、この既存勢力を「怪物」と表現し、トランプ大統領によって退治された四つの怪物を論じている。
第一は、オバマ政権とヒラリー・クリントン氏の外交政策に深く関与し、他国の体制転換を推し進めてきたネオコン勢力である。
第二は、政府組織内部の反トランプ官僚と、彼らの情報を増幅してきた主要メディアである。
第三は、政権と家族の地位を利用して利益を得てきたと渡辺氏が論じる、民主党の金権政治家である。
本稿は、その三つの「怪物」を、スチール文書、ロシア疑惑、ミュラー捜査、ウクライナ疑惑、バイデン親子とブリスマをめぐる問題から明らかにするものである。
なお、原稿中の「M16」は、英国秘密情報部を意味する「MI6」に訂正した。
退治された四つの怪物
トランプ大統領に退治された多くの怪物を振り返ってみよう。
その筆頭は、オバマ政権に巣くっていたネオコン勢力だった。
ネオコンについては、拙著『アメリカ民主党の崩壊』(PHP研究所)で詳述したが、要するに、ロシア嫌いの干渉主義者、国際主義者のグループで、気に入らない国のレジームチェンジ、すなわち体制転換をも厭わない人々である。
彼らは、イラク、エジプト、あるいはリビアのレジームチェンジを仕掛けた。
トランプ大統領は、無益な対外介入を止め、ロシアのプーチン政権との折り合いをつける外交へと切り替えた。
オバマ政権とヒラリー・クリントン氏の外交を完全に否定し、ネオコンを政権中枢から排除した。
第二の怪物は、ディープステート、すなわちネオコン系の実務官僚組織とメディアだった。
民主党は、ヒラリー・クリントン氏が2016年の大統領選挙に敗れると、元英国秘密情報部MI6のクリストファー・スチール氏が作成した、いわゆるスチール文書を使い、トランプ大統領を追及した。
スチール文書は、トランプ氏がプーチン大統領の影響下にあるとする数々の情報を記載した文書だった。
渡辺氏は、これを「トランプはプーチンの傀儡であるとする偽書」と断じている。
これを出発点として、トランプ陣営とロシアとの共謀をめぐる、いわゆるロシアゲートが展開された。
FBIによる捜査に続き、ロバート・ミュラー特別検察官の捜査チームが、トランプ陣営とロシアとの関係を長期間にわたって調査した。
しかし、トランプ陣営がロシア政府と共謀したとして刑事訴追するに足る事実は認定されず、捜査は2019年3月に終了した。
その結果、トランプ氏とプーチン氏の共謀は確実であるかのように訴え続けてきた、CNNに代表される主要メディアの信用は大きく傷ついた。
さらに、スチール文書の作成費用が、法律事務所などを通じてヒラリー陣営と民主党全国委員会側から支払われていたことも明らかになった。
トランプ氏をロシアの傀儡として描いた文書が、実際にはトランプ氏と大統領選挙を争った側の資金によって作成されていたのである。
当時のFBI長官だったジェームズ・コミー氏は、FBI長官就任以前に、軍需企業ロッキード・マーティン社で上級職を務めていた。
渡辺氏は、この経歴とFBIによるロシア疑惑捜査を重ね合わせ、ネオコン外交、軍産複合体、政府官僚組織が結びついた、いわゆるディープステートの存在が露見したと論じている。
第三の怪物は、民主党の金権政治家だった。
民主党は、「トランプ大統領が、議会の承認したウクライナへの軍事支援を利用して、バイデン氏の不正を調査するようウクライナ政府に圧力をかけた」と主張した。
これが、いわゆるウクライナ疑惑である。
民主党が多数を占めていた米国下院は、2019年12月、トランプ大統領に対する弾劾訴追決議案を可決した。
しかし、弾劾裁判を行った上院では有罪に必要な票数に達せず、トランプ大統領は無罪となった。
渡辺氏は、反対にウクライナ政府へ圧力をかけていたのは、バイデン氏の側だったと論じている。
バイデン氏の息子ハンター・バイデン氏は、ウクライナの天然ガス会社ブリスマ・ホールディングスの役員に就任し、高額の報酬を得ていた。
当時ウクライナの検事総長だったヴィクトル・ショーキン氏は、ブリスマをめぐる問題に関係する人物として国際的に注目された。
副大統領だったバイデン氏は、ウクライナ政府に対し、ショーキン検事総長を解任しなければ米国からの融資保証を実行しないと伝えたことを、後に自ら公の場で語っている。
バイデン氏側は、ショーキン氏の解任は、汚職対策が不十分であるとの米国政府や欧州諸国の共通方針に基づくものだったと説明した。
一方、渡辺氏は、ハンター氏が役員を務めるブリスマとの関係から、バイデン氏の行動には重大な利益相反の疑いがあったと指摘している。
トランプ大統領を弾劾に追い込もうとした民主党は、トランプ氏がウクライナ政府に圧力をかけたと主張した。
しかし、その一方で、バイデン氏自身が、米国の融資保証を条件としてウクライナの検事総長の解任を要求していた事実については、日本の主要メディアで十分に検証されたとは言い難い。
ロシア疑惑でもウクライナ疑惑でも、トランプ大統領を非難する情報は大々的に報道された。
一方、ヒラリー陣営によるスチール文書への資金提供や、バイデン親子とブリスマの関係については、同じ規模、同じ執拗さで報道されることはなかった。
そこに、渡辺氏が指摘した、民主党、官僚組織、情報機関、主要メディアが形成する巨大な権力構造が存在する。
トランプ大統領が戦っていたのは、一人の選挙候補者や一つの政党だけではない。
米国の政治、行政、外交、情報、報道を長年にわたって支配し、互いに利益を分け合ってきた既成勢力そのものだったのである。
トランプ氏が排除しようとした「ワシントンの汚泥」は、大統領選挙に勝利しただけで消滅するものではなかった。
既得権益を失うことを恐れた勢力は、ロシア疑惑、弾劾、メディアによる連日の批判を通じて、選挙で選ばれた大統領を政権の座から引きずり下ろそうとした。
その攻防こそが、トランプ政権の3年半を貫いていた、米国政治の本質だったのである。
この稿続く。

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