もし東京都が尖閣諸島を購入していたなら――国有化によって失われた実効支配強化の機会

2012年、石原慎太郎東京都知事は、東京都による尖閣諸島の購入と平和的な公共利用を構想した。
約10万件、14億円を超える寄附が集まったが、野田政権は同年9月11日に三島を国有化した。
東京都の購入計画が実現していれば、日本の実効支配はどのように変わっていたのかを問う。


2020-08-03
2012年4月16日、東京都知事だった石原慎太郎氏は、米国ワシントンでの講演において、東京都が尖閣諸島を購入する構想を公表した。
石原氏は、土地所有者との間で購入に関する合意があると説明し、東京都は同年5月に専管組織を設け、現地調査と具体的な活用計画の検討を開始した。
東京都が検討したのは、自衛隊基地の建設ではなかった。
東京都の報告書には、荒天時に漁民が一時的に避難できる船溜まりと、救助などの緊急連絡に使用する通信機器の整備が明記されている。
この構想に賛同した都民・国民からは、14億8千万円ほどの寄附が寄せられた。
国が三島を取得した後、東京都は寄附金を基金として管理し、現地調査などに使用した分を除く14億2,748万9,460円を、現在も尖閣諸島活用基金として保有している。
日本政府は2012年9月11日、魚釣島、北小島、南小島の三島を取得して国有化した。
政府は、その目的を尖閣諸島の長期にわたる平穏かつ安定的な維持および管理であると説明している。
本稿は、東京都による購入と具体的な公共利用が実現していれば、日本の領有と実効支配を国内外に、より明確に示すことができたのではないかという問いを提起したものである。
引用
「もし東京都が買っていれば…既に土地の所有者と合意し、尖閣諸島に港湾施設を整備するなど、日本の実効支配をより明示することを目指していた」
本文
2020-08-03
もし東京都が買っていれば…既に土地の所有者と合意し、尖閣諸島に港湾施設を整備するなど、日本の実効支配をより明示することを目指していた
以下は前章の続きである。
もし東京都が買っていれば… 
8年前、日本は尖閣諸島の実効支配を確実にするチャンスがあった。
東京都が、一般人が所有し国が借り受けていた尖閣諸島を購入し、有効に活用していくことを提案したのだ。 
2012年4月16日、東京都知事であった石原慎太郎氏は、米国にあるヘリテージ財団主催のシンポジウムで講演し、東京都が尖閣諸島を購入する計画であることを発表した。
既に土地の所有者と合意し、尖閣諸島に港湾施設を整備するなど、日本の実効支配をより明示することを目指していた。 
東京都による尖閣諸島購入計画が伝わると、国内は騒然となった。
特に中国に過度な配慮を続けて来た民主党政権の動揺は測りえないものだった。 
中国も過剰に反応した。
強い抗議を受けた丹羽宇一郎駐中国大使は、「購入が実行されれば日中関係に重大な危機をもたらすことになる」と発言している。
その後、丹羽大使は、中国寄りの発言が目立つようになる。
また、石原知事の持つ夕カ派のイメージに幻惑された一部のメディアと革新勢力は、東京都が買うと自衛隊の基地が作られるなどと吹聴し、国民に対し中国への配慮を求めようとした。
自衛隊配備など、東京都が決められることではないことぐらいわかりそうなものである。
東京都は、尖閣諸島購入が国民の意思であることを示すため、購入資金のための暮金を行い、約10万件、14億7千万円が寄せられた。
東京都は、寄付金を一般会計で受け入れていた。
そのため、募金で得た資金を使い、尖閣諸島を購入するには、都議会による予算利用の承認が必要だった。 
当時の都議会は、民主党系会派が第一党であった。
そのため、都庁知事公室に作られた尖閣諸島問題担当部は、議会が納得するような公共利用を念頭に置いた尖閣諸島活用計画を作成していた。
具体的には、海洋環境の国際的な研究施設を作ることや、石垣市など地元と協力して、漁民が安心して出漁できるように島に通信設備を置き、海が荒れたときに漁民が利用できる船溜まりを島の周辺につくることなどが計画されていた。
国際的な理解や国民の生活を考えた平和的な利用計画だったのだ。 
日本の土地所有制度を熟知している中国は、束京都による土地購入を是が非でも阻止すべく、日本政府に圧力をかけた。
そして、同年7月、国民の支持を受けた束京都の尖閣諸島購入計画の推進に焦った野田挂彦首相は、国が尖閣諸島を購入する意思を表明した。 
近年は、国有地にするより東京都が買っていたほうが良かったという声をよく聞く。 
東京都が所有する島となれば、中国が日本政府に圧力をかけても、東京都の利用計画を止めることはできない。
特に環境保護や海洋利用のための拠点となれば、世界の注目を集め日本の実効支配が認識されることになり、当時考えられる最善の策であったのだ。 
この年の7月、五島列島福江島の玉之浦に、100隻を超える中国漁船が台風の緊急避難を名目に進入した。
中国船によって地先の海を占領された五島の人々は、怯えながら退去を待つしかなす術がなかった。
同年8月にさらに、2回、玉之浦は中国船により占領されている。
これも中国による圧力であったと考えられる。
また同年8月には、丹羽大使の公用車が北京市街を走行中に襲われ、日本国旗を抜き取られるという屈辱的な行為を受けた。 
ついに中国に追いつめられた野田政権は、9月11日、国有化に踏み切った。
これに乗じた中国は官主導によるデモを組織し、反日で国内世論を統一することを目指した。
国有化直後、中国の青島で起きたデモや日系スーパーマーケットの焼き討ち事件は、当局の扇動であったとも疑われている。 
その後も中国は、徐々に既成事実を重ねて有利な立場を得ようとする「サラミ戦術」を取り続けた。
2014年には、小笠原諸島の海域にサンゴの密漁船といわれる212隻もの漁船が押し寄せ、小笠原の海を荒らしまわった。
当然ながら、中国の遠洋漁船団は、当局の許可、あるいは指示なしに動くことは無い。
この時、海保が逮捕できた中国人船長は、わずか十人。
また、この時、中国漁船は海底を攪拌し、漁網を大量に投棄したため、漁場の再生には長い時間がかかると考えられている。
この稿続く。
資料注
本文は2020年8月3日の原文を一字一句変更せず、そのまま掲載した。
第一に、石原慎太郎東京都知事が尖閣諸島購入構想を表明したのは、米国時間の2012年4月16日である。
東京都の公式ページでは、同年4月に石原氏が東京都による購入と活用を発表したと記録されている。
当時の国会質問主意書にも、石原氏が土地所有者の同意を得ていると発言したことが記録されている。
第二に、東京都と土地所有者との合意は、最終的な売買契約ではなく、石原氏自身の後日の説明によれば「口約束の域」を出ず、覚書の交換には至っていなかった。
石原氏は、それでも地権者との間に信頼関係に基づく合意があったとの認識を示していた。
第三に、東京都が計画していたのは、大規模な港湾や軍事基地ではない。
東京都の報告書が明記している中心的な施設は、荒天時に漁民が一時避難する船溜まりと、救助などの緊急連絡に使用する通信機器である。
第四に、寄附件数と金額は時点によって変化している。
東京都の最終的な報告では、寄附金は約14億8千万円であり、そのうち約8千万円が現地調査や啓発事業などに充てられ、14億2,748万9,460円が基金として積み立てられている。
東京都は2026年現在も、この基金を尖閣諸島活用のため国に託すことを毎年提案している。
第五に、日本政府が2012年9月11日に取得したのは、魚釣島、北小島、南小島の三島である。
第六に、2012年7月、台風からの避難を理由として、福江島の玉之浦港に106隻の中国漁船が入港したことが報じられている。
これを中国政府による政治的圧力と見る部分は、本稿における著者の分析である。
第七に、2012年8月27日、北京を走行していた丹羽宇一郎駐中国大使の公用車が襲われ、掲げられていた日本国旗が奪われた事件は、国会資料にも記録されている。
第八に、2014年10月30日、海上保安庁は小笠原諸島から伊豆諸島にかけて、中国サンゴ漁船とみられる外国漁船を212隻確認した。
小笠原諸島周辺海域では10隻を検挙し、同年に沖縄および鹿児島県沖を含めて検挙した中国サンゴ漁船は16隻だった。
第九に、本文中の「夕カ派」は「タカ派」、「暮金」は「募金」、「束京都」は「東京都」、「野田挂彦」は「野田佳彦」の誤植と考えられる。
原典保存のため、本文には訂正を加えていない。
第十に、反日デモや日系店舗への襲撃が中国当局によって組織、扇動されたとする部分、中国漁船団の行動を中国当局の指示と見る部分は、本稿における著者の分析および評価である。

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