国連憲章「旧敵国条項」で日本を脅すならず者国家――中国・北朝鮮に「正義の刃」を持たせるな

2024-01-16
以下は高山正之の最新刊『変見自在 安倍晋三を葬ったのは誰か』からである。
本書は、週刊新潮の高名な連載コラムを書籍化したシリーズの最新刊だが、原文には更に磨きがかけられ、より一層読みやすくなっている。
この一冊だけでも、彼はノーベル文学賞に値する。
日本国民のみならず、世界中の人たちが必読。
「旧敵国条項」で日本を脅す ならず者国家
少し前、核兵器廃絶を訴えてノーベル平和賞を受賞したNGOの代表、ベアトリス・フィンが来日した。
唯一の被爆国である日本に同情しているのかと思えば、随分と刺々しかった。
日本が彼女の勧める核兵器禁止条約を拒否した。
それが気に入らなかった。
理由は明白だ。
日本はマッカーサー憲法によって、核兵器もまともな軍隊も持てない。
日本が自国を守るためには米国の核の傘が必要だが、核兵器禁止条約に加われば、その米国の核の傘からも抜けなければならない。
条約を批准しないもう一つの理由は、唯一の被爆国としての権利である。
日本には、核兵器の脅威から自国を守るために、他のどの国にも先んじて核兵器を持つ権利がある。
さらに日本は、非人道的な原爆を投下した米国に、二発の核兵器で報復する権利も留保し続けている。
トルーマンの原爆で殺された20万人のうち、8割は女性と子供、すなわち国際法上の非戦闘員だった。
加えて米国は、長崎で「プルトニウムの人体実験」を行ったことを認めている(米国エネルギー省)。
米国は、この野蛮な行為について、いまだに謝罪していない。
日本国民は、あの時、戦争の仇を討つと誓った。
日本人が、その誓いを捨てなければならない理由はない。
事情も理解せず、私の面子を潰すような不義理は許さないと怒りを露わにしたフィンの捨て台詞は、凄まじかった。
「日本は、広島、長崎に続いて、三発目を食らうことになる」
彼女に差別意識がないのであれば、日本で油を売っていないで、すぐさまモスクワへ飛び、核兵器の使用をちらつかせているウラジーミル・プーチンに、その思いをぶつけるべきだろう。
彼女は付け焼き刃で皮肉な女だが、「日本は三発目を食らう」という言葉そのものは、決して荒唐無稽ではない。
その根拠となるのが、国連憲章の「旧敵国条項」である。
旧敵国とは、先の大戦で連合国と戦ったドイツ、ハンガリー、フィンランド、日本などの国々を指す。
この昔話のような条項の深刻さを知りたければ、国連憲章第53条を見ればいい。
連合国と戦った国に対しては、「武力制裁」を加えることができると定めている。
例えば、今、ウクライナに侵攻しているロシアを見てみる。
この国は、かつて日本が降伏した後に日本へ侵攻し、今のウクライナで行っているのと同じように、住民を好き勝手に強姦し、略奪し、殺害した。
その上、南樺太から北方四島に至る日本の領土まで奪い取った。
ロシアは、共産主義を拒否した東欧諸国の市民に向かって平然と銃を撃ち、戦車で轢き殺すことも厭わなかった。
国連憲章第53条は、このような悪い国に「軍事制裁を加える場合」、各国が協力し、その制裁を実行するには安全保障理事会の承認を得ればよいと定めている。
今回も、本来ならばそうなるはずだった。
しかし、ロシアが安全保障理事会の常任理事国として拒否権を行使したため、実現しなかった。
ところが第53条には、第二項がある。
日本やドイツのような旧敵国であるならば、その国を脅威と感じた国は「安全保障理事会の承認なしに武力制裁を加える」ことができる。
旧敵国は、生まれながらのならず者国家であると決めつけられている。
ロシアや北朝鮮が二つに割れたような国を想像すればよい。
そんな国がまた悪事を働いたならば、勝手に正義のリンチを加えてよいと書かれているのである。
例えば、日本が敵基地攻撃用のミサイルを配備したとする。
中国や北朝鮮が、それを日本帝国復活の兆しだと見なせば、日本に核兵器を雨あられと降らせてもよい。
しかも、それは国連憲章が認めた正当な行為と見なされる。
「いやいや、旧敵国条項は30年前に国連総会で廃止され、今では死文化している」という人もいる。
しかし、安全保障理事会はいまだに、その廃止を決議していない。
それどころか、中国の楊潔篪は、尖閣諸島をめぐって「お前たちは中国の旧敵国でありながら、中国の領土を奪おうとしている」と、旧敵国条項を使う気すら見せている。
北朝鮮も然りである。
そんなならず者国家にとって、旧敵国条項は「正義の刃」なのである。
それなのに日本では、首相が「非核三原則があるから、核兵器については議論もしない」と核による報復を否定し、野党は敵基地攻撃などとんでもないと愚かなことを言う。
三発目を食らっても、日本に報復する意思がないのならば、中国も北朝鮮も躊躇しない。
こういう狂気は、間違いなく日本海の向こう側から来ているのではないか。
(2022年6月9日号)

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