中国国内の「禁止語」と亡命者の内紛――言論統制と民主化の難題を語る『WiLL』対談
2022-11-30
以下は、2022年11月25日発売の月刊『WiLL』2023年1月号に、呪い殺したい 習近平独裁!と題して掲載された、阿古智子 東京大学教授、 譚璐美 作家、 楊 逸 作家、 劉燕子 中国文学者の4人による対談特集からである。
何度も言及するようにWiLLとHanadaは、本物の論文が満載されていながら980円!なのである。
今、世界最高の月刊誌であると言っても全く過言ではない。
本稿は日本国民のみならず世界中の人達が必読。
老若男女、わけても若い人たち全員が必読である。
今、中国で起きている現象を既にして予感させていた箇所もある。
見出し以外の文中強調は私。
中国国内の「禁止語」
劉
中国の言論空間は、習近平政権の過酷な文化統制によって限りなく狭まっています。
一党独裁の思想・イデオロギーを浸透させるために禁書・禁言システムがデジタル技術によって発展し、焚書坑儒(書物を焼き捨て、懦学者を生き埋めにすること)は歴代王朝をはるかに上回っている。
楊
おっしゃるとおり。
たとえば、天安門事件(1989年6月4日)につながりそうな文言、ないし「8964」という数字は、中国のネット検閲に引っかかる「禁止語」になっています。
また、中国語では翡翠の「翠」の字が「習近平が二度死ぬ」という意味になることから同じく禁止語になっている。
とにかく思想と言論弾圧は「翠」という単なる一文字が使えなくなるほど、いっそう厳しくなっています。
譚
今後は、ますます天安門事件を知らない世代が増えていくことでしょう。
ある米国の高校で、クラスのなかに一人だけ中国人がいたそうですが、先生が天安門事件の話をした途端、「天安門事件があったなんて、そんなの嘘だ! アメリカの陰謀だ!」と、かたくなに言い張ったそうです。
天安門事件当時、海外へ亡命した元学生リーダーの封従徳は、現在でも米国各地の大学から呼ばれて講演していますが、中国人留学生から、「あなた方はなぜ政治的騒乱を起こしたのか?なぜ人民解放軍兵士を焼き殺して橋から吊るしたのか?」と、決まって質問されると嘆いていました。
若い中国人は中国のプロパガンダを本気で信じているんですね。
亡命先でも内ゲバが
阿古
やはり言論空間の自由をどうやって確保するかが問題です。
私は、良質な本を中国語で中国人に向けて出版していくことが必要で、そのために出版社を日本につくるべきだと思っています。
いまは台湾がその役割を担っていますが、台湾も検閲が厳しくなってきています。
楊
ただ私は、中国人に民主主義を教えたり、中国人が民主主義国家に住んだりしても、共産党政権はつづくと思うんですよね。
私はこれまで何度も中国人としての自分を反省してきましたが、中国人コミュニティの利権争いはどうもほかより激しいように見て取れます。
譚
まったく同感です。
私は天安門事件が起きた翌年の1990年、海外へ亡命した人々を追って米国とフランスへ取材に行きました。
米国のプリンストン高等研究所には50人近い亡命者が滞在していましたが、実際に会ってみて、学生リー・ダーと若手作家、中高年の知識人たちが3派に分かれて連日議論に熱中し、天安門事件を引き起こした責任を互いになすり合い、時には乱闘騒ぎまで引き起こしている光景を目の当たりにしました。
民主化を求めて天安門事件を起こした学生たちも、じつは 中国の伝統文化にどっぷり浸かっているんです。
楊
どこへいっても”内ゲバ”を繰り返すわけですね。
譚
趙紫陽総書記の側近で、元体制改革委員会主任だった政治家の陳一諮は、「これが中国人の実情です。バラバラなのですよ!」と笑い飛ばし、「だからこそ改革が必要なのです」と。
孫文は「中国人は砂のような民族だ」といいましたが、中国人がバラバラ
で内ゲバ体質なのは宿命です。 天安門事件から5~10年経つと民主化運動はしぼんでいくわけですが、欧米の団体から資金援助がくると亡命者たちは元気を取り戻し、再び議論を始めます。
しかしその議論は、「どのような民主的な政権をつくるか」ではなく、「政権をとったら自分は何のポストに就くのか」です(笑)。
「オレは外務大臣がいい」「僕は経済大臣がいい」といった大議論の果て、殴り合いに発展することもある。
だから、いまの政権が崩壊すれば平和的な政権が誕生するわけではなく、次の政権になっても権力闘争が繰り返されるわけです。
この稿続く。