中国の「国恥教育」と民主化への道――洗脳教育の根深さ、日本での交流に希望を託す『WiLL』対談

2022-11-30
以下は、2022年11月25日発売の月刊『WiLL』2023年1月号に、呪い殺したい 習近平独裁!と題して掲載された、阿古智子 東京大学教授、 譚璐美 作家、 楊 逸 作家、 劉燕子 中国文学者の4人による対談特集からである。
何度も言及するようにWiLLとHanadaは、本物の論文が満載されていながら980円!なのである。
今、世界最高の月刊誌であると言っても全く過言ではない。
本稿は日本国民のみならず世界中の人達が必読。
老若男女、わけても若い人たち全員が必読である。
今、中国で起きている現象を既にして予感させていた箇所もある。
見出し以外の文中強調は私。
中国人は覚醒しない
劉 
私も幼いころに毛沢東を賛美する歌や共産主義を礼賛するスローガンを聞いて育ちましたが、いまでもメロディーを聞くと口ずさんでしまい、体が勝手に動いてしまいます。
それほどまでに洗脳教育は恐ろしいんです。
楊 
そのとおり。
だから魯迅のいう”うたた寝”から目覚めても、中国人は覚醒しない。 
私と同じく来日して30年以上たった中国人のなかには、自由を求めて日本に来ても、日本の中国人社会で生きている人が少なからずいます。
生活も仕事も日本人と接することが少なく、日本語も自由に話せない。
彼らが思っている民主主義とは、中国の学校で教えているような概念と変わらないようです。
そのような民主活動家が中国に真の民主国家を築くことができるかは疑問ですし、権力を握っても習近平とは五十歩百歩の差なんじやないかと思います。
劉 
鄧小平の改革開放から40年以上経ったいま、海外に留学して中国に戻る中国人は数えきれないくらいいるのに、中国の政治の進歩や民主主義の発展には少しも役に立っていません。
日本や米国に行っても技術を学ぶだけで、自由や民主主義には見向きもせずに帰国してしまう。
楊 
海外で、現地の暮らしや文化に溶け込んで暮らす、本当の意味で「中国人社会を脱した」中国人の多くは、中国関係の利権に対して欲がなく、政治にもあまり興味を持っていないかもしれません。
中国人社会に「寄生」するような中国人、あるいは新たに出てきた留学生には「人権とは」「歴史とは」「憲法とは」「公民とは」などの講座を開いて、民主主義的な価値観を教えたほうがいいと思います。
元凶は「国恥教育」
譯 
さきほど洗脳教育の話がありましたけど、中国人には戦争で外国に侵略されたことを。国恥やとして、その屈辱を決して忘れないという「国恥意識」があります。
そのなかで、中国が南シナ海での領有権を主張するため、地図上に独自に設定した9本の境界線を引いた「9段線」というものがある。
その9段線について、米国の大学教授である中国人のワン・チョン氏が北京の大学に招聘されて講演したとき、「9段線は正しいと思うか」と質問したところ、すべての学生が「正しい」と答えたそうです。 
私は確認のため、日本の有名大学の中国人教授に「南シナ海の南沙諸島は、中国の領土だと思いますか?」と聞いてみると、「あまり大っぴらに言えませんが……じつは本心ではそう思っています」と申し訳なさそうに答えた。
その教授は40代で、人柄が誠実で、教養高く、だれからも好かれる研究者でした。 
さらに、20~30代の中国人留学生数人にも聞いてみると、「中国では、小学校からそう教えられ、テレビや新聞などでも中国のものだと見聞きしてきました。日本に留学してから別の考え方もあるのだと知りましたが、幼いころから教えこまれたことは、なかなか考えを改められないのですよ」と。 
日本にいる留学生全員が9段線を信じているとは思いませんが、中国が尖閣諸島に軍事侵攻を開始しても、日本国内にいる中国人のなかにも賛成する人が少なくないわけです。
その実、9段線の最南端だと中国が主張する南沙諸島のジェームズ礁は暗礁であって、国際海洋法条約では「島」とは認められず、従って領海だと主張できない。
彼らは勉強不足でそんな事実も知らないのです。
どんなに立派な日本人の先生が民主主義を教えても、本を読ませても、中国の学生は覚醒しない。
これはなかなか難しい問題ですね。
阿古 
私は、そういう中国の悲観的な部分も共有しますが、その現状を何とかいい方向に変えたいと思っています。
自分の大学院の学生のほとんどは中国から来ていますが、学生たちが中国でジャーナリスト活動や本の出版ができなくなった公共知識人たちと交流すると、ものすごく衝撃を受けています。
そうした活動を通じて、中国人に民主主義の良さを伝えていきたい。
孫文の時代から、日本は中国に良いものを植えつけて変えようとしてきたわけですが、日本こそが中国をいい方向に変えることができると信じています。 
冒頭で、劉さんのご友人が「中国人の血が流れるこの片腕を切り落としたい」といっていたといいましが、それはすごく悲しい話です。
やはり種族的に中国というものを排他的にまとめてしまうのはよくありません。
たしかに、いまの共産党政権には多くの問題点がありますが、中国の血が入っていても、日本に住むことでいろいろな価値観が見えてくると信じています。
逆に、中国が悪者のように話してしまうと、やはり他人事になってしまい、彼らに良い影響を与えられません。
譚 
私は主として日中近現代史をテーマに本を書いていますが、過去には嘉納治五郎など日本人の教育者が、阿古さんと同じスタンスで中国に影響を与えましたね。
東京帝国大学の法学教授だった寺尾亨博士も、自分の年金をフイにしてまで、孫文の革命に多大な貢献をしました。
劉 
阿古さんの地道な活動は暗闇のなかの光です。
中国で生まれ育った自分自身も、日本にきて自由に触れましたが、30年たってようやく毒を振り払えたくらいですから。
この稿続く。

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