労働新聞三十年、紙媒体の終焉、そして最後の連載—古田博司の痛快なる自画像
2019年7月6日発信。
月刊誌WiLL八月号掲載、古田博司氏の新連載「たたかうエピクロス、先見者と詐欺師の実像」冒頭部を紹介する一篇。
北朝鮮の労働新聞を三十年間取り続けて二百七十万円損をしたという豪快なユーモアを交えつつ、紙媒体の衰退、読者の変化、病との向き合い、そして文人として生きる覚悟を率直かつ痛快に綴っている。
2019-07-06
北朝鮮の労働新聞を30年間取り続けて270万円損をしたからどっこいどっこいというところ
以下は月刊誌WiLL8月号に、たたかうエピクロス、先見者と詐欺師の実像、と題して掲載された古田博司氏の論文からである。
朝日新聞を購読していた5年前の8月まで私が彼を全く知らなかった事は既述のとおり。
彼が大器晩成の典型の様な人で、見事なユーモアの持ち主であること、世界有数の朝鮮半島通の、戦後の日本が生んだ本物の学者の一人であることも既述のとおりである。
この章でも読者は皆、何度か吹き出すはずである。
新連載のご挨拶
さて新連載ということなのだが、何を書くのがよいのか色々と考えてみた。
もう何をじたばたしたとて、あと20年で紙媒体は極限まで縮小するだろう。
筑波大学の学生にレポートを課したところ、「先生、ぼく本読むの嫌いなんです」と、平然と言われるような時代である。
前の連載のように少し高尚なものを書いたところで、本誌編集長から、「あの~、誰も読んでないみたいなんですけど……」と言われて、また言い訳するのも難儀である。
図々しく38回も、ネットの知識だけで旧約聖書を読み解くなどという強気も失せた。
資本タダで200万円ほど儲かっただろうか、北朝鮮の労働新聞を30年間取り続けて270万円損をしたからどっこいどっこいというところ、それにネットの効用を説いて紙媒体を自ら潰しにかかっているのだから世話はない。
そして肺がんを患った。
手術はしたが、もう肺気腫になっている。
白くて硬くて、ひどい臓器だと医者もあきれていたくらいだから、あと長くて10年くらい生きられれば御の字だと思う。
そこで何を書くかだが、本にもならないし、なっても売れないだろうし、書いているうちに紙媒体がどんどん縮んでいって、『WILL』誌もなくなってしまうかもしれない。
第一、 私なりに良いものを書こうとしても読者がつかない。
人よりカッコいいことを言うので、雑誌の権威くらいにはなるだろうか。
でも、「筑波大学名誉教授」なんていう虚飾だけが光るのも面白くない。
そこでだ。
読者に相談なのだが、読者をまったく顧みない連載というのはどうだろうか。
「今までもそうだったろう!」という声が聞こえてきそうだが、そんなことはない。
今までは自分なりに、徹頭徹尾読者のことばかり考えてきた。
難しい漢字は、イヤだったが開いた。
ほんとうは私は漢文文化人なのだ。
おまけに美文家である。
ウソだと思うなら、むかし岩波書店で書いた『東アジアの思想風景』をご覧あれ。
これもまったく売れなかったが、今書棚にあるのをひもとくと実に文章が美しく懐かしい。
Z会の国語入試問題集に毎年載るほどである。
で、どういう連載にするかだが、のちに病院で酸素のハナ輪を鼻孔につっこまれるはずだから、雑誌を持ち上げ真上目線で自分がゲラゲラ笑って、ゲホゲホ咳き込んで雑誌をベッドから落とすような、そういう内容にしようかと思う。
たぶん最後の連載になるので、心身ともにすこやかになるように、虚しくならないような書きものにしたいものである。
なにしろ私の幼いころからなりたかったものは文人であり、それはもう叶ったのだからじたばたすることは何もない。
この項続く。