「恐怖」はウイルスより早く感染する――ジャック・アタリが暗示した「今は戦時中である」という世界再編

映画『コンティジョン』が描いた感染拡大と、そのキャッチコピーである「恐怖はウイルスより早く感染する」の意味を考察する。
ジャック・アタリの「経済は全く新しい方向に設定し直す必要がある」という発言を手掛かりに、コロナ禍の背後で進む世界秩序と経済社会の抜本的な変革を問う。

2020-07-01
「経済は全く新しい方向に設定し直す必要がある。戦時中の経済では、自動車から爆弾や戦闘機へ、企業は生産を切り替えなければならなかった」と語った。
それは、「今は戦時中である」ことを暗に教えてくれたのだ。
以下は前章の続きである。
河添恵子さんは、今、世界最高の気鋭の作家であると言っても、全く過言ではない。
「恐怖」はウイルスより早く感染
さらに、このコロナ禍にあって、2011年に公開された映画『Contagion(コンティジョン)』も、「予言なのか、予告なのか」と話題になっている。
『ニューヨーク・タイムズ』によると、昨年の段階ではアクセス数はワーナー・ブラザーズの作品中270位だったが、今年3月には『ハリー・ポッター』シリーズに次ぐ2位に躍り出た。
日本でもアクセス数が急増している。
ストーリーは、以下のようなものである。
新型ウイルスが驚異的なスピードで拡散し、世界中が大パニックに陥る。
マスクをする習慣がない米国人もマスクをし、そして買いだめに走る。
感染者0号は、出張で香港を訪れた米国人女性で、「豚のウイルスとコウモリのウイルスが、ヒトの体内に侵入し、呼吸器の細胞や中枢神経細胞の受容体と結合」することで、致死性の高い新型ウイルスが発生した、という設定だ。
WHO、世界保健機関の職員や疫学者が、感染拡大を阻止するために奮闘する。
映画の内容もさることながら、私は、そのキャッチコピーに強く反応した。
――「恐怖」は、ウイルスより早く感染する。
ウイルスよりも「恐怖」のほうが、人を支配する、特別かつ確実な「感染力」を持った魔物ではないか、と。
補足すると、直接会わなくても、「恐怖」には「感染力」がある。
『コンティジョン』の脚本を手掛けたスコット・バーンズ氏が、どのような背景を持った人物かを調べてみた。
アル・ゴア元副大統領が登場し、アカデミー長編ドキュメンタリー映画賞を受賞した『不都合な真実』の製作に関わるなど、大物のようだ。
『New York』誌のVultureに、最近のインタビュー記事が掲載されていた。
バーンズ氏は、こう語っている。
「この映画をつくるにあたって、疫学者やピューリッツァー賞を受賞した科学ジャーナリストなどに会って、たっぷりと話を聞いた」
「撮影前の2009年にも、米国では新型インフルエンザの大流行が起きたから、これも大いに参考になった」
「監督のソダーバーグ氏も、WHOにヒアリングしたり、米国疾病予防管理センター、CDCに足を運んだりして、リサーチもしっかりした」
さらに、「自分のソーシャルメディアに、よく分からない人からの書き込みがある」と語っている。
それは、「『未来に旅行できるのか』『神へのアクセスを持っているのか』『イルミナティ、秘密結社の一員なのか』とか、そうした奇妙なたわごとなどが書かれていた」というものだった。
世界権力の中枢と「近い」ことは、『不都合な真実』の製作に関わったことから推測できるが、未来を旅行したり、神にアクセスしたりする能力があるとは、私は思わない(笑)。
バーンズ氏は、インタビューで、「ただ言えることは、何が起こっているのか、次に何が起こるのかについての洞察力を持っているかどうかなんだ」と語っている。
また、「映画の構想、そして脚本を書く時、特にウイルスについて欠かせない三つの要素がある」と語った。
その三つとは、「感染経路」「潜伏期間」「死亡率」である。
「この三つのうち、どれかが少し変わるだけでも、映画の印象が変わる」と語っていた。
ノンフィクション作家である私は、誇張して物を書くことはできないが、そこが小説や脚本家の醍醐味なのだと、改めて思った。
ただ、例えば、それほど危険なウイルスではなく、感染者の極少数が死亡する例年のインフルエンザと変わらない新型ウイルスだったとしても、著名人のあっけない死が報じられれば、「死へのイメージ」が強化される。
また、「新たな感染者がまた〇人」「感染力が強い」「医療現場が崩壊しかねない」とマスメディアや識者が繰り返し報じれば、「恐怖」の伝染につながっていく。
NHKのEテレが、4月11日土曜日午後11時から、「緊急対談 パンデミックが変える世界――海外の知性が語る展望――」という番組を放送した。
同番組には、フランスの歴代大統領のブレーンであり、経済学者、思想家として著名なジャック・アタリが、オピニオンリーダーの一人として出演していた。
アタリは、ディープステート、国際金融資本・ユダヤ系左派の一員とされる。
アタリの発言からは、これからの世界がどうなっていくのかについて、さまざまなサインを読み取ることができる。
番組では、「経済は全く新しい方向に設定し直す必要がある。戦時中の経済では、自動車から爆弾や戦闘機へ、企業は生産を切り替えなければならなかった」と語った。
それは、「今は戦時中である」ことを暗に教えてくれたのだ。
さらに、「歴史を見ると、人類は恐怖を感じる時にのみ大きく進化する」とも語っている。
前述の映画『コンティジョン』のキャッチコピーと同様、「恐怖という精神状態が一番洗脳しやすい」ことを、冷酷にもさらりと言ってのけた。
さらに、アタリは、「人は未来について考える力が乏しく、忘れっぽい」とも語った。
これは、「恐怖という状況を持続させることで、新しい世界に転換していく」という意味なのだろうか。
不幸中の幸いとして、日本では、現時点で「殺人レベルの高い武漢ウイルス」が深く広く浸透したとは言い難い。
疫学者ら専門家は、「日本は防疫で優等生だったが、感染の第二波もある」と語る。
しかし、そのような近視眼的な警鐘にだけとらわれると、「中国発の大恐慌」の余波をまともに受けることにもなりかねない。
日本は、ウイルスが怖い、すなわち潜在意識の中で恐怖を煽られる。
そして、ステイホームという優しいスローガンによって、経済活動を自粛させられる。
「陽性になったら周囲に迷惑をかける、恥ずかしい」と考え、ルールを順守する日本人だからである。
続いて、テレワーク、ソーシャルディスタンスによって、経済が弱体化し、企業と被雇用者をはじめとする人間関係が切り離される。
その先には、企業倒産や大量解雇、失職、中小企業の経営者らの自殺増加といった流れがある。
日本は、このような流れによって抜本的な変革を促される、謀略の中にあるのではないか。
アタリは、「コロナは世界秩序を完全に変えるだろう」と語った。
一世紀近く世界を見続けてきた米国の超大物、ヘンリー・キッシンジャー元国務長官も、「今までの時代には戻らない」と語っている。
世界の秩序が抜本的に変わっていく、あるいは変えていくという動きや発言が、先進国のスタンダードになっている。
原爆を投下され、多くの尊い命を失った70余年前の敗戦国・日本とは異なる。
しかし、新たな100年の秩序が本格始動するまで、我々日本人は、真綿で首を絞められたまま、「薄暗いトンネル」の中を歩いていくのだろうか。
この稿続く。

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