拭えぬ中国への不信感――武漢ウイルスが明示した米中対立の本質
新型コロナウイルスをめぐる中国の初動対応、情報隠蔽、WHOの中立性を欠いた対応は、国際社会に中国への深い不信感を抱かせた。問題の本質は、単なる貿易戦争ではなく、自由主義陣営と全体主義陣営の価値観の戦いである。
2020-03-08
初動対応の杜撰さ、情報隠蔽、明らかに中立性を欠いたWHOの対応を見て、中国に任せていたらとんでもないことになる、と国際社会も警戒を強めている
以下は前章の続きである。
拭えぬ中国への不信感
新型コロナウイルスに話を戻すと、米国は一月三十日、中国全土を対象に「渡航中止・退避」勧告を出し、翌三十一日には、中国に過去十四日以内に滞在した外国人は入国拒否の措置を取った。
この米国の対応に追随し、百力国以上が中国からの渡航者に制限を加えている。
中国はこの措置に反発、二月七日に習氏はトランプ氏と電話で会談、「WHOは専門的な角度から各国に過剰反応をやめるように呼びかけている」「中国全土で最も厳格な措置をとっている」と措置の緩和を要請した。
会談後、トランプ氏はツイッターで「習主席が主導する対応策は成功するだろう」「支援するため中国と緊密に連携している!」とリップサービスはしたものの、渡航制限措置緩和には応じなかった。
米国に、もはや拭い難い中国への不信感があることの表れだろう。
米国だけではない。
初動対応の杜撰さ、情報隠蔽、明らかに中立性を欠いたWHOの対応を見て、中国に任せていたらとんでもないことになる、と国際社会も警戒を強めている。
習政権は今回のウイルスへの対応で、中国共産党が全く進歩していなかったことを世界に露呈した。
彼らは17年前のSARS(重症急性呼吸器症候群)の経験から何も学んでいない。
いや、むしろ当時よりも後退しており、当時の胡錦濤国家主席は、今回の習氏の大失態との比較で、それなりに努力したと評価されているくらいである。
今回の新型コロナウイルス問題は、貿易戦争に端を発した米中の対立が貿易問題に留まらない、もっと重要な「価値観の戦い」なのだということ、つまり自由主義陣営と全体主義陣営の依って立つ基本的価値観がどれほど異なっているかということを明示した。
米中対決を鮮やかに印象づけた最初の動きは2017年、トランプ大統領が「国家安全保障戦略」で中国を非難したときである。
ブッシュ政権、オバマ政権では米国の敵はテロリストであると定義されており、中国はむしろテロ情報を提供してくれる国として位置づけられていた。
しかし、2017年の「国家安全保障戦略」では180度転換し、米国の本当の敵はテロリストではなく、国家である中国、ロシアだとされ、両国を「米国とは正反対の価値観と関心で世界を創り上げようとする国々」と位置づけ、とりわけ中国は「インド・太平洋海域で米国にとって代わろうと目論んでいる、中国は他国の主権を脅かすことで勢力を拡大する」などと強い表現で非難し、警戒心を強く打ち出した。
香港で死因不明の遺体が
第2段階は翌2018年5月、米海軍が主催する大規模軍事演習「リムパック」(環太平洋合同演習)で中国を排除したときだ。
日本の自衛隊を含め20数ヵ国が参加し、中国もこれまで招待されていたが、2018年は招待を取り消した。
中国は軍事演習を行っているハワイ沖の近くまで情報収集艦を派遣し、演習を監視するという、大変無礼な行動に出た。
米国が中国を突き放したのとは対照的に、ロシアは中国に急接近する。
同年九月に行われたロシア軍による軍事演習「ボストーク2018」に人民解放軍が招待されたのである。
冷戦後最大規模の軍事演習で、戦車など軍用車両三万六千台、軍用航空機一千機、戦艦八十隻が投入され、参加した兵員は延べ三十万人。
そこに三千二百人の人民解放軍兵士が参加した。
人民解放軍がロシアの国土に足を踏み入れたのは史上初のことだった。
ロシア側は人民解放軍を歓迎するスピーチのなかで、「わが同盟軍・人民解放軍」と言った。
つまり、軍事で中露が結びつき、米国に対抗するという構図ができあがったのだ。
そして第三段階は、米国の警戒心をより具体的に打ち出した同2018年のマイク・ペンス米副大統領の演説だ(小誌2019年1月号収録)。
中国は軍事的にかつてないほど大胆な挑戦を続けており、ロボット、バイオ、人工知能の分野においても優位に立ち、支配を確立するために、如何なる手段を講じても米国の技術や知的財産を盗み取ろうとしていると強く非難。
中国の言論弾圧、宗教弾圧にも触れ、国民全員を監視する中国は、社会をジョージ・オーウェルの『1984年』の世界にしようとしていると喝破した。
米中貿易戦争がエスカレートしていくなかで、2019年6月、香港で大規模なデモが起き、中国共産党による異常な弾圧が、世界に映像で流れた。
これは『週刊新潮』の連載にも書いたが、香港では昨年6月のデモ以来、4ヵ月間で、自殺案件は256件、その他に2,537件の死因不明の遺体が発見されている。
これは11月13日付の香港保安局発表の統計だ。
公式発表で、死因不明の遺体が日々平均して21体も発見されているという。
この稿続く。