眠れぬ夜が、ひとつの作品を連れて来た――沖澤のどか、ボストン交響楽団、ドヴォルザーク第7番
眠れぬ夜が、ひとつの作品を連れて来た。
翌朝4時から大谷翔平の試合をライブで観ようと思っていた。
だから当初は、夜9時にはもう眠ろうと思っていた。
実際、その頃には眠気も来ていた。
だが、さすがに9時に寝るのは少し早すぎるかと思い、10時半にベッドに入った。
ところが、そのわずかなずれが、かえって寝つきを悪くしてしまった。
眠れないのなら、仕事をするしかない。
そう思ってPCに向かったことが、結果として、実にありがたい発見につながった。
沖澤のどかが、数日前にボストン交響楽団を指揮していたのである。
曲はドヴォルザークの交響曲第7番。
そして有難いことに、その演奏がYouTubeに掲載されていた。
私は直ちに、この音楽に見合う写真集を探した。
選んだのは、2022年5月2日、三室戸寺のツツジをα99でARW撮影したもの。
そして、2022年4月30日、同じくα99でARW撮影した奈良公園と萬葉植物園の写真である。
主役は、奈良公園の鹿たち。
そして、大根の花に夢中になって舞い続ける蝶たち。
さらに、三室戸寺の春を埋め尽くすツツジである。
時間は40分51秒。
ドヴォルザークの第7交響曲は、ただ美しいだけの音楽ではない。
深い陰影があり、内側から湧き上がる力があり、祖国への思いと、人生の重みがある。
その音楽を、若き日本人指揮者・沖澤のどかが、世界最高峰のひとつであるボストン交響楽団とともに鳴らしている。
この事実だけでも、私は大きな喜びを覚える。
そして、その音楽に、奈良の鹿、春の花、蝶たち、三室戸寺のツツジを合わせることは、私にとって、自然であり、必然であった。
鹿は、ただ可愛い存在ではない。
奈良という土地の歴史そのものであり、日本人の自然観そのものでもある。
蝶は、ただ小さな昆虫ではない。
花に向かってひたすら飛び続けるその姿の中に、生命の歓喜がある。
ツツジは、ただ春の花ではない。
一斉に咲き誇るその色彩の中に、日本の春が持つ、あの圧倒的な祝祭感がある。
眠れぬ夜がなければ、この組み合わせには辿り着かなかったかもしれない。
大谷翔平の試合を観ようとしていた夜に、沖澤のどかとボストン交響楽団のドヴォルザークに出会い、そこから、奈良公園、萬葉植物園、三室戸寺の春へとつながっていった。
偶然のようでいて、こういう時、私はやはり、作品というものは向こうからやって来るのだと思う。
2022年春の写真たちが、2026年の今、沖澤のどかのドヴォルザーク第7番と出会った。
鹿たちが歩き、蝶たちが花に舞い、ツツジが燃えるように咲き、音楽は深く流れていく。
これは、眠れぬ夜が私に与えてくれた、ひとつの贈り物である。