新型コロナが突き付けた中国依存リスクとサプライチェーン再構築の必要性

細川昌彦氏の月刊誌「正論」論文をもとに、新型コロナウイルス騒動が日本経済に突き付けた中国依存リスクを論じる。中国人観光客、レアアース、医薬品、自動車部品、サプライチェーン、半導体をめぐる脆弱性を検証し、中国リスクを構造的に見直す好機として捉えるべきことを示す。

2020-04-07
しかし日本が忘れてはならないのは、この過程で中国に過度に依存している脆弱性があぶり出されたことだ。
中国に依存するリスクが突き付けられたのだ。
以下は月刊誌「正論」に、中国依存の見直し日本の好機に、と題して掲載された中部大学特任教授細川昌彦の論文からである。
新型コロナウイルス騒動で世界経済、日本経済に激震が走っている。
当初、中国で感染拡大から強権的な街の封鎖に至り、経済活動全般が停止に追い込まれ、日本経済も大打撃となった。
水際対策から中国人観光客は激減し、インバウンド、訪日外国人旅行客、需要はみるみる消えていった。
生産活動も日本各地で中国からの材料・部品が届かず生産できない、中国工場への部品・材料の輸出もストップするなど、さまざまな深刻な影響が出ている。
しかも当初の中国から、今や欧州、米国への世界的な広がりを見せている。
世の中の関心はいかに大規模な経済対策で経済を回復させるかに注がれている。
今は当面の乗り切りに精一杯だ。
しかし日本が忘れてはならないのは、この過程で中国に過度に依存している脆弱性があぶり出されたことだ。
中国に依存するリスクが突き付けられたのだ。
そうした日本が直面している中国リスクは今回のような感染症だけではない。
仮に新型コロナウイルスが収束に向かっても、これまでと同じように中国リスクを抱えたままでは今回の教訓が生かされない。
むしろ中国リスクに向き合って、この構造問題に取り組む好機とすべきだろう。
中国人観光客も“武器”に
日本が抱える中国リスクはこの十年で大きく高まった。
最近、「エコノミック・ステイトクラフト」という言葉が流布している。
これは国家の地政学的な戦略目標を達成するため、軍事力ではなく、経済的手段を用いて実現する手法を言う。
中国は2011年以降、経済発展の自信を深め対外強硬路線をとるようになり、「エコノミック・ステイトクラフト」を露骨に多用するようになった。
2017年には韓国のTHAAD、終末高高度防衛、ミサイル配備問題で韓国企業に対する不買運動や観光客の渡航制限を実施するなど、一方的な経済制裁を頻繁に繰り返している。
こうした中国依存リスクが深刻になったのが、2010年の尖閣諸島問題に端を発した中国によるレアアースの供給制限であった。
中国にレアアースを頼っていた産業は深刻な事態に陥り、他国からの代替供給に奔走したり、レアアースの使用削減に取り組んだ。
その結果、依存度は低下したものの、依然6割以上は依存せざるを得ない状況を脱却できていない。
このレアアースが最近また注目され出した背景は、米中対立だ。
米国にとってもミサイルの精密誘導装置や戦闘機のレーダーなど軍事用途にも使われ、大きな懸念材料になっていることから、安全保障の問題として中国への依存脱却を急いでいる。
国防権限法でも国内生産への支援や代替供給、備蓄などに巨額の予算をつぎ込んでいる。
昨年、習近平国家主席が江西省の磁石メーカーを視察訪問したことに端を発して、レアアースを対米交渉のカードに使おうとしているとの憶測も飛び交った。
日本もこうした米中の駆け引きに巻き込まれるリスクを当然考えておくべきだ。
レアアースと似た状況があるのは医薬品だ。
世界の製薬会社の多くの医薬品が、その原料として中国で生産された有効成分に依存しているのだ。
新型コロナの感染拡大によって中国工場が稼働を停止したことで、原料を調達できず、医薬品が不足していることが米紙でも報道された。
日本にとっても要注意で、原料供給の多角化など備えを急がなければならない。
中国人観光客もそうだ。
今回の新型コロナウイルス騒動でも、中国による団体旅行の禁止で中国人観光客に依存する観光業や小売業は大打撃を受けている。
もちろん当面の資金繰り対策などの救済は必要だが、根本的には「訪日外国人の3割、消費額の4割が中国人」という過剰依存の構造そのものを見直すべきだろう。
今回も日本が中国からの全面的な入国禁止措置に躊躇した理由の一つだ。
前述した通り、中国による2017年の韓国に対する団体旅行を禁止する報復措置は、韓国経済に大打撃となった。
当面のインバウンド需要に一喜一憂するだけでなく、今後中国が日本に対して中国人観光客を“武器”に使うリスクも考えておくべきだろう。
訪日外国人の数値目標を掲げて量を追う観光行政もそろそろ卒業して、安全保障を考慮に入れるべき段階に来ている。
訪日外国人の分散化、多角化こそ政策目標だろう。
中国国内の工場が稼働停止することによって、さまざまな産業のサプライチェーンにも大きな影響が出た。
サプライチェーンとは原材料・部品の調達から製造、販売までの一連の供給連鎖のことだ。
中国各地の工場が操業再開に動き出したが、なかなかすぐには順調に立ち上がらない。
従業員全員が復帰するまでに時間がかかったり、工場を動かすために必要な部品や材料の調達が十分にできていない。
そして、港湾、トラック輸送など物流も止まって、さまざまな産業で生産活動に支障が生じている。
その結果、中国からの部品調達が遅れ、トイレ、システムキッチンなどの住宅設備メーカーで納期遅延が発生している。
それを受けて住宅販売業者が新築住宅を顧客に引き渡せない事態にもなっている。
こうしたサプライチェーン途絶はさまざまな業界で起こっている。
トランプ米政権による対中関税の影響で、アパレル、家電などで生産拠点を中国から東南アジアなどへシフトする動きが加速していた。
そうした中で、今回の事態が起こったことで、経営戦略としてサプライチェーンの見直しを迫る契機になっている。
効率化追求の代償
自動車産業でもサプライチェーン問題が生じた。
日産自動車は、新型コロナウイルスの感染拡大で中国からの部品が調達しにくくなったとして、九州の完成車工場の一時停止を決めた。
ホンダも埼玉工場の操業制限に追い込まれた。
中国の完成車工場が停止するだけでなく、中国のサプライチェーンの停滞が日本での自動車生産にも影響を及ぼすこととなった。
自動車部品は中国からの輸入が着実に増えている。
そして日本の輸入部品の3分の1程度を占めている。
とはいえ、自動車部品全体で輸入品が占める割合は2~3割とされているので、中国への依存度はそれほど高いわけではない。
問題は、中国に依存しているのがどんな部品かだ。
安全にかかわるエアバッグやブレーキをはじめ、認証を得る必要がある部品が意外と多い。
こうした安全にかかわる部品のサプライヤーを他の工場に変更しようと思っても、認証を得る必要があるため簡単には代替できない。
一部でも代替が困難になると、日本での自動車生産が停止する問題が起きる可能性があるのだ。
自動車産業は完成車メーカーを頂点として、広く一次、二次、三次の部品メーカーに支えられるピラミッド構造のサプライチェーンが基本だ。
自動車メーカーはこうしたサプライチェーンを日本国内だけでなく、東南アジアのタイをはじめグローバルに各拠点で形成してきた。
中国でも自動車生産に際し、日系の部品メーカーに進出してもらったり現地の部品メーカーを育てたりして、広州、武漢などでピラミッド構造のサプライチェーンを丸ごと作ってきた。
その結果、武漢では進出日系企業159社のうち、自動車関連の日系サプライヤーは70社で約半数を占めている。
そうした中国の部品工場の技術力が上がり、低コストで高品質な部品を生産できるようになっていった。
今や武漢での自動車部品の現地調達率は9割にも達している。
この段階までならば、中国リスクの影響は中国での完成車生産だけにとどまっていた。
しかしそこにもう一つの動きが加わった。
グローバルな部品の共通化だ。
品質、価格でベストな自動車部品に絞って、それをグローバルに使って生産するのだ。
こうして中国製部品が中国での完成車だけでなく、他地域の完成車にも使われるようになったのだ。
かつて自動車産業は国内でピラミッド構造が完結していたが、グローバル化の進展で、サプライチェーン自体がグローバルになっていったのだ。
こうして中国リスクはグローバルな生産体制にまで及ぶようになった。
このリスクはまず日産の九州工場で顕在化した。
これは、ある意味、“ゴーン改革”の結果とも言える。
国内での系列取引からコストカットの効率を重視した経営に大きく舵を切って、中国、韓国からの部品輸入を増やした。
重要部品であっても中国の1社に依存することがコスト効率のうえで得策だとの判断もあっただろう。
中国からの輸送リードタイムが短い九州工場では、在庫をなるべく持たないオペレーションにしていたようだ。
今回真っ先に影響が現れるのも自然なことだ。
そしてしばらくするとホンダにも同様の影響が出た。
類似のサプライチェーンを作り出して、武漢での部品の一部を日本の完成車工場にも持ってきていたからだ。
日本の自動車メーカーは2007年の新潟県中越沖地震、2011年の東日本大震災、2016年の熊本地震と、国内では苦い経験を積んできた。
その結果、膨大なサプライヤーマップ、供給元一覧、を整備して「見える化」を進めてきたり、工場の分散化、仕入れ先の多様化など、コスト高になることを覚悟でリスク対策を講じてきたと見られていた。
他方、グローバル化の進展で効率重視に追い込まれ、グローバルに見れば生産体制のリスクが高くなっていたのも事実だ。
経済効率を追求した生産体制にするか、リスク分散を重視するかはトレードオフ、二律背反、の関係にある。
どちらをどう重視するかは経営判断だ。
今後はそのバランスを再検討して、中国リスクを踏まえて代替部品の供給の備えなど見直しが必要だろう。
半導体で米中対立のリスク
今、感染症の陰でもう一つのリスクが浮上してきている。
米中テクノ冷戦、技術覇権争い、による安全保障リスクだ。
その主戦場は半導体で、日本の関係業界は要注意だ。
先日、武漢からチャーター便で日本人数百人が帰国した。
そのうち約半数は自動車関連の従事者であったが、残り半数の大半は半導体関連だった。
日本の半導体製造装置メーカーの技術者がそうした工場の建設とメンテナンスに関わっているのだ。
もちろん中国市場を開拓するビジネスとして取り組むのは当然である。
現時点でこのこと自体が問題になるものではない。
ただし今後も問題ないと考えていては危険だ。
中国は半導体産業を猛然と育成しようとしている。
半導体産業は「中国製造2025」の最重点産業で、2025年までに自給率7割を目指している。
武漢はその中核拠点と位置付けられ、韓国、台湾の技術をもとに巨大工場の建設を進めている。
中国半導体大手の「紫光集団」は中国メーカーとしては初めて高性能な三次元NAND型フラッシュメモリーの量産に乗り出した。
この半導体工場の一部の生産ラインは完成してすでに稼働している。
武漢を封鎖してもこの工場には労働者と部材を投入して稼働し続け、中国政府が例外扱いする特別の重要拠点だ。
2018年4月、中国通信機器大手の「ZTE」が米国の制裁発動によって、インテル、クアルコムから半導体の供給を受けられなくなって、主力事業の停止に追い込まれ悲鳴を上げた苦い経験から、中国は半導体の内製化にアクセルを踏んだ。
さらに同年10月、中国の国策半導体メーカー「福建省晋華集成電路」、JHICC、が米国の制裁発動によって半導体製造装置の輸出規制を受けて大打撃となったことに懲りたようだ。
2014年からの第一期には2兆円の基金で半導体チップに投資し、2019年10月に発表した第二期計画では3.2兆円の基金で半導体製造装置に投資する。
こうした資金力を武器に技術と人材の取り込みを加速している。
高度な半導体人材を抱える台湾からは3000人を超える技術者が流出して歯止めがかからないという。
今後も中長期で米中対立が続くことを前提に、中国は米国依存を脱却するために自前生産に躍起となっている。
この稿続く。

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