武漢ウイルスは安全保障問題である――日本は緊急事態条項と日米同盟の戦力維持を急げ

平和安全保障研究所理事長・西原正氏の産経新聞「正論」を基に、武漢ウイルスが単なる感染症問題ではなく国家安全保障上の重大脅威であることを論じる。緊急事態宣言の限界、憲法への緊急事態条項追加、日米同盟の戦力維持、中国の「マスク外交」への警戒、そして武漢で実際に何が起きたのかを明確にさせる必要性を指摘する。

2020-04-15
東日本大震災で苦い経験をしたように、内閣が緊急事態を発令できる権限を、現憲法、第73条に追加しておくべきである。
以下は、今日の産経新聞「正論」に、「武漢ウイルスは安全保障問題だ」と題して掲載された、平和安全保障研究所理事長、西原正氏の論文からである。
現在、世界180カ国以上で猛威を振るう中国武漢市発の新型コロナウイルスは、190万人を超す感染者と10万人を超す死者を出し、感染の加速は、多くの国で医療崩壊を発生させようとしている。
トランプ米大統領は、「自分は戦時大統領だ」と言い、マクロン仏大統領はテレビ演説で、「我々は新型コロナウイルスと戦争状態にある」と述べた。
日本も遅ればせながら、「緊急事態宣言」を発令した。
国家安全保障の目的は、国民の安全である。
新型コロナは、感染力、致死力において、国家安全保障にとっての一大脅威である。
初めての緊急事態宣言。
安倍晋三内閣が発令した宣言は、第二次世界大戦後の日本で初めてであり、宣言の発令には躊躇があったようだ。
東京、大阪などの大都市で、新型コロナの感染拡大が急速に進んでいる時、後手になった感じは否めない。
日本医師会はすでに4月1日に、「感染爆発が起こってからでは遅い」と、医療崩壊を懸念し、「医療危機的状況宣言」を出していたし、小池百合子都知事も、早期の宣言を要請していた。
しかしこの宣言は、感染患者の収容施設に関する項目を除いては強制力のないもので、「国民の協力を要請」する形になっている。
これで目指す成果を得ることができればよいのだが、不安を伴う。
きわめて日本的な、優しい緊急事態宣言である。
しかもこの宣言の基になった「改正新型インフルエンザ等対策特別措置法」は、恒久的なものではない。
東日本大震災で苦い経験をしたように、内閣が緊急事態を発令できる権限を、現憲法、第73条に追加しておくべきである。
日本の新型コロナ対策が甘いことは、海外でも知られている。
自由を尊重する民主主義国日本が、緊急事態には自由を一時期放棄してでも、切迫する安全保障問題を迅速に処理する能力を示すことが、日本が国際社会で指導力を発揮することに繋がる。
日米同盟の戦力低下を抑えよ。
日本の国防という点で懸念されるのは、感染拡大によって日米の戦闘能力に支障をきたしたり、日本の安全が脅かされたりすることである。
米韓は両軍から新型コロナの感染者が出て、3月に予定していた合同演習を中止した。
韓国軍は、9000人の兵員を自主隔離したといわれる。
さらにインド太平洋地域に配備されている米海軍の原子力空母4隻から、感染者が出た。
うち1隻では、感染者を含む約4000人の乗組員が、グアムで下船させられたという。
そうしたことを受けて、在日米軍司令部が4月6日、関東地域を対象に公衆衛生緊急事態宣言を出したのは、必要な動きであった。
感染拡大は、在日米軍および自衛隊にも起こりうることで、日米は常に所定の戦力の維持に努めなければならない。
日米同盟の戦力が低下すれば、中国がその「空白」を衝いて、西太平洋で無遠慮に振る舞い、尖閣諸島、台湾、南シナ海などでの立場を強めようとするであろう。
新型コロナの感染拡大は、これまでも悪化していた米中関係を、今後一層悪化させ、日本の対米、対中外交を複雑にさせそうである。
それは、新型コロナの発生に関する陰謀説から、「マスク外交」に至る相互不信の深化にある。
米国のオブライエン大統領補佐官が3月11日、「中国が新型コロナの発症を隠蔽していたがために、世界の対応が2カ月遅れ、被害が増大した」と非難した。
新型コロナは、武漢市の市場のコウモリからヒトに伝染したことになっているが、米国は市場近くの感染症関連の研究所から病菌が漏れたとの疑念を持っているようだ。
これに対して中国は、米軍が病原体を持ち込んだと、根拠を示さずに反論して、関係を悪化させた。
米中関係悪化にどう対処。
さらに米国は、中国が武漢での感染者や死者の数字を過少に公表していると非難している。
米国は、中国が世界中に新型コロナを撒き散らした後に、多くの感染国に医療チームと大量のマスクを送る「マスク外交」をするのも気に食わない。
「マスク外交」の後ろにある中国の覇権意欲を警戒している。
「放火犯が消火チームを演じている」と揶揄する米学者もいる。
中国の新型コロナ発生に関する国際的責任と併せて、国内的責任も重要である。
新型コロナの発症公表が遅れたこと、および米中対立が激化したことは、中国共産党内で反習近平の権力闘争を生むかもしれない。
その結果、習国家主席の訪日が瓦解するかもしれない。
今後、米中関係が悪化する予測のなかで、日本が中国との友好を選択し、習主席の訪日の実現を目指すのは、日米同盟にとって望ましいことだろうか。
新型コロナの発生で、情勢が変わった。
日本は米国とともに、中国に対して、武漢で実際に何が起きたのかを明確にさせるべきである。
さらに言えば、日本は米国やヨーロッパの自由民主主義陣営とともに、中国の「マスク外交」を批判することが、長期的に日本の安全保障に役に立つと考えるべきである。
にしはらまさし。

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