中国の恣意的拘束が日中間に広げる不信の火種

産経新聞論説副委員長・佐々木類氏は、北海道教育大の袁克勤教授が中国で反スパイ法違反容疑により拘束されている問題を取り上げ、中国当局による恣意的な身柄拘束が、日中の学術交流やビジネス、二国間関係全体に深刻な不信を広げていると論じている。

2020-05-12
日中を往来する関係者は、学術調査もビジネスもおちおちできないだろう。
両国間に不信の火種が広がっている。
それが自らの国益を損ねていることに中国自身が気づくべきだ。
以下は、今日の産経新聞に、「許されない恣意的な拘束」と題して掲載された、論説副委員長佐々木類の論文からである。
佐々木類氏は現役最高の記者の一人である。
北海道教育大の袁克勤教授(64)が囚われたままだ。
中国国内法の反スパイ法に違反した容疑だ。
昨年5月に行方不明になってから10ヵ月も経過した今年3月下旬、中国政府が袁氏を取り調べ中であると初めて認めた。
スパイ容疑というが、何一つ明らかになっていない。
法の支配に名を借りた問答無用の身柄拘束だとしたら、著しい人権侵害だ。
証拠も開示せずに、だれが信用できるというのか。
袁氏の不透明な身柄拘束は、日中の学術交流のみならず、2国間関係全体にも暗い影を落とすだろう。
袁氏は東アジア国際政治史が専門で、平成元年に起きた中国・天安門事件の際に民主化運動に注力した闘士として知られる。
中国・吉林大卒業後、一橋大で修士、博士号を取得し、6年から四半世紀にわたって北教大一筋に教鞭をとってきた。
日本の、とりわけ北海道の大自然に魅せられた。
何よりも、日本では言論の自由、学問の自由が保障されている。
「父はこの自由が気に入っていた」とカナダに住む長女の袁ケイさんが、国際電話による取材に対し語ってくれた。
医療従事者のケイさんは、新型コロナウイルス対策で激務の日々が続いている。
ケイさんは「証拠も開示しないまま拘束を続けるのは、何らかのシナリオに沿って父を有罪にしようとしているとしか思えない」とも語った。
袁氏は吉林省での実母の葬儀に参列後、妻と路上を歩いていたところを「何者か」に車の中に押し込められたという。
後に釈放された妻から話を聞いたケイさんら家族によると、夫妻は最初、自分たちの身に何が起きたのか理解できなかった。
施設に収容されて初めて、公安当局に強制連行されたと知ったという。
中国外務省の耿爽報道官は3月26日の会見で、袁氏が「犯罪事実に対して包み隠さず自供している」と述べ、「証拠は確かだ」と主張している。
現在は、検察機関が起訴の可否を判断するための捜査を進めているといい、「刑事手続き上の権利は十分に保障されている」と付け加えた。
あくどいのは、捜査への協力を条件に妻を先に釈放し、工作員に仕立て上げたやり方である。
妻は日本に戻った後、袁氏のパソコンや携帯電話などを中国に持ち帰って当局に提出した。
北教大には病気治療で欠勤すると嘘の申告をした。
良心の呵責を感じたという妻は結局、袁氏の家族に洗いざらい打ち明け、当局が認めぬまま、身柄の拘束事実が判明した。
気を付けたいのは、中国による日本人や在留中国人の身柄拘束が、反スパイ法が施行された2014年から目立ち始めた点だ。
社会統制を強める習近平指導部の意向が反映されているのか。
北大教授や伊藤忠商事の社員ら日本人のほか、カナダ人など外国人も多数が拘束された。
反スパイ法が規定するスパイ行為には、「外国機関への国家機密の提供」などに加えて「その他」の条項があり、当局の恣意的な運用を可能としている。
何がスパイ行為に当たるか分からないのだ。
日中を往来する関係者は、学術調査もビジネスもおちおちできないだろう。
両国間に不信の火種が広がっている。
それが自らの国益を損ねていることに中国自身が気づくべきだ。

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