北朝鮮の核攻撃と空のブースターを同列に論じるな――イージス・アショア停止が露呈した日本の歪んだ国防思想
北朝鮮による核攻撃で数十万人の命が奪われる危険と、迎撃ミサイルから切り離された空のブースターが落下する危険を、同列に論じることは根本的に間違っている。
イージス・アショア配備計画の停止によって生じる国防上の空白、自衛隊の疲弊、米軍撤退の可能性、中国・北朝鮮・ロシアの脅威を踏まえ、櫻井よしこ氏が敵基地攻撃を可能にする政策転換と国防予算の増額を訴える。
2020-06-26
北朝鮮から核攻撃を受ける危険と、1.8メートル程の空のタンクですが、これが落下してくる危険を同列に論じる点が、そもそも間違いです。
櫻井よしこさんは、最澄が定義した国の宝である。
それも至上の宝である。
櫻井よしこさんの連載コラム「ルネッサンス」は、高山正之と共に、毎週、週刊新潮の掉尾を飾っている。
以下は昨日発売された週刊新潮に、「敵基地攻撃を可能に、政策転換を図れ」と題して掲載された論文からである。
朝日新聞は、もはや論外だが……今朝、ネットに、コロナ後に増益している世界の企業100社の中に、日本企業が3社しか入っていない事を嬉々として取り上げている記事があった。
見れば、朝日新聞デジタル。
朝日新聞は芯から腐っている。
日本企業が3社しか掲載されていない事、大半が米中の企業である事、3社がランクインしている中に韓国企業がある事も、嬉々として報じていた。
日本が世界に誇る企業群の中で、たった3社しかコロナ後の増益企業にランクインしていない事が、嬉しくてしかたがない気持ち、韓国が同数である事も嬉しくて仕方がない気持ちが、文面に横溢していた。
こんな新聞は論外としても、実態は日本国営放送局であるNHKの報道番組は、以下の極めて至極当然な視点と同様の意見を、唯の一度も開陳した事が無い。
大半の民放も同様であろう。
彼らこそ、日本の不全の元凶である。
見出し以外の文中強調は私。
中国は水のように「侵略の手」を伸ばす。
水は低地に隈なく流れ込む。
中国は弱い所に隈なく入り込む。
米国が武漢ウイルス禍で混乱し、11月の大統領選挙で動きが鈍い現在、中国の侵略の手は、日本周辺でも大胆に動いている。
その状況下の6月15日、河野太郎防衛大臣が唐突に、「イージス・アショアの配備計画を停止します」と発表した。
陸上配備型イージス・システム(イージス・アショア)は、日本がどうしても進めなければならない二正面作戦、中国及び北朝鮮の脅威への対処を充実させるために、2017年12月に導入を決定したものだ。
秋田県秋田市と山口県萩市の陸上自衛隊の基地・演習場に配備すれば、日本列島全体を防護できる。
イージス・アショア2基で北朝鮮のミサイルを捕捉し、迎撃ミサイルも巡航ミサイルのトマホークも発射できる。
強力な守りと、強力な反撃能力の双方を持てる、とされた。
さらに、イージス・アショアによって北朝鮮のミサイルへの対応能力が整えば、手持ちのイージス艦7隻は、南西諸島で尖閣、沖縄を脅かす中国用に振り向けることも可能になる。
同計画は、しかし、河野氏の突然の判断で大幅修正に追い込まれた。
計画変更の理由に、河野氏は年来の秋田、山口両県に対する説明と現実が異なることを挙げた。
万が一、敵のミサイル攻撃があり、イージス・アショアから迎撃ミサイルを発射した場合、ミサイル本体は高く飛んで宇宙空間で敵ミサイルを破壊するが、途中で切り離されるブースター(第一段ロケット)が自衛隊の演習場内におさまらず、民有地に落下することが判明した。
ブースターは必ず演習場内に落ちるため安心だ、と今まで地元に説明してきたが、それが事実でないことが判明したために停止する、というのだ。
元外務副大臣の佐藤正久氏が指摘した。
「北朝鮮から核攻撃を受ける危険と、ミサイルを打ち上げるブースター、1.8メートル程の空のタンクですが、これが落下してくる危険を同列に論じる点がそもそも間違いです」
歪んだ国防思想
この空タンクが民家を直撃する可能性はゼロではないが、限りなくゼロに近い一方、北朝鮮の核は、広島に落とされた核爆弾の10倍以上の殺傷能力を持つ。
そうした強力な核兵器を運ぶ「スカッド」「ノドン」両ミサイルは、日本全土を射程におさめているではないか。
北朝鮮の悪魔の攻撃を受ければ、数十万人の命が奪われかねないのだ。
大きく異なる二つの危険性、ドンガラのブースターと核兵器を積んだミサイルを、同レベルに置いて論ずる姿勢に、日本独特の歪んだ国防思想がある。
現実を見ることなしに、希望的観測で判断する悪癖だ。
政治家もメディアも、もっと現実に沿って考えなければならない。
佐藤氏は、さらに強調した。
「たとえば防衛省にはPAC3が配備されています。首都がミサイル攻撃を受ける場合、イージス艦などが宇宙空間で、つまり上層で迎撃できればよいのですが、撃ち逃がして地上に近い下層で迎撃する場合はPAC3が働きます。そのとき撃ち落としたミサイルの残骸などは新宿区に落下する危険性が大きい。こういうことを正直に国民に言うべきです。その上でどんな態勢を作れば、『新宿区に残骸落下』などの事態を防げるのか、具体的に示すべきです。もっと広い用地を買収したり、海岸沿いに迎撃ミサイル基地用のスペースを確保するなど、国民被害最小化の手はあるのです」
一方で、自民党安全保障調査会会長で元防衛大臣の小野寺五典氏は、政府はイージス・アショアの配備中止を決めたわけではないと語る。
「イージス・システムは現在も作っています。秋田、山口を代替できる適切な地があれば、そこに据えることも可能ですが、海上スペースも有力な候補です」
考えられるのは、①海上構造物に据えつける、②海上自衛隊のイージス艦に載せる、である。
海上設置の場合と陸上設置の場合、同じイージス・システムでも仕様が異なるとの指摘があるが、システムを作っている現段階では、修正は可能だという。
技術的に修正可能だとしても、日本には、もうひとつ難題がある。
自衛隊の疲弊である。
とりわけ海上自衛隊は、隊員も船も足りない。
充足率91.7%で、最重要の訓練日数さえ、短縮につぐ短縮が起きている。
イージス・アショアの導入には、そもそも海自の負担軽減という目的があった。
いま、その導入が否定されるとして、小野寺氏の指摘するように海上に設置、またはイージス艦にシステムを載せる場合、海自の現有勢力では難しいだろう。
「投資」感覚
河野氏の判断で、日本列島全体の守りに穴を開けることになってはならない。
そのために、まず政府は、何としてでも国民・国土を守る決意を明確に示すことだ。
侵略に毅然と対処する決意を、強く打ち出すときだ。
それが、国防の穴を塞ぐ第一歩だ。
その点で、河野氏の発言は極めて不適切だ。
氏は、イージス・アショア見直しについて、「投資としても合理性がない。潔くやめよう」と語っている。
無論、予算の無駄遣いは許されないが、国防をカネの多寡で論ずることは愚かである。
わが国の隣りには北朝鮮や中国がいて、ロシアが中国と共同で、尖閣諸島海域でわが国領土を奪うかのような動きに出ている。
目的達成のために、最終的に軍事力行使をためらわない、こんな国々に囲まれている限り、損得勘定を超えて、可能な限りの国防努力が必要だ。
氏は防衛大臣として、省内の売店のレジ袋中止やエコバッグ推奨に力を入れているそうだが、国土や国を奪われてしまえば終わりなのである。
防衛大臣なら、「投資」感覚でイージス・アショア配備停止を宣言するのでなく、その結果、ポッカリ開いてしまう国防の穴を具体的に埋める案を示す責任を果たせ。
6月に入って、トランプ大統領は、9月までに独駐留米軍9500人を削減して、2万5000人に縮小するよう指示した。
ドイツからの撤兵は、米議会の強い反対で一応見合わせることになったが、元駐独大使のグレネル氏は、6月11日の「フィナンシャル・タイムズ」紙に、この決定は「アフガニスタン、シリア、イラク、韓国、日本など多くの国から米軍を撤退させるという枠の中でとらえるべきだ」と語っている。
米国の大方針は変わらないということだ。
ここで明確に確認しておこう。
日米安保条約は国際条約であり、責任ある国として、米国も日本もきちんと守るだろう。
だが、中国に対処するには、日本自身、責任ある国として国防力を養わなければならない。
その国家意志を示すためにも、河野氏の言葉とは逆に、安倍晋三首相は国防予算を増やし、敵基地攻撃を可能にする新たな政策を提示することだ。