見えない戦線――長野聖火リレーにおける組織動員と中国共産党「五毛党」のネット世論工作

2008年の北京五輪聖火リレー長野開催で見られた中国人留学生の組織的動員と、中国共産党に有利なネット世論を形成する「五毛党」「網絡評論員」をめぐる高山正之氏・坂東忠信氏の対談を収録する。
現実社会における集団動員と、インターネット上の世論誘導が、どのように中国共産党の政治目的に利用されているのかを考える。

2020-07-07
以下は前章の続きである。
本章で取り上げられている「長野五輪」は、1998年の長野冬季オリンピックではない。
正しくは、2008年4月26日に長野市で行われた北京オリンピックの聖火リレーである。
善光寺は当初、聖火リレー出発式の会場に予定されていたが、中国によるチベット弾圧への懸念などから辞退した。
当日は、数千人の中国人留学生らがチャーターバスで長野へ向かい、中国国旗を掲げて聖火リレーを支持した。
チベット支援者や中国政府への抗議者との間では、一部で小競り合いが発生し、5人が逮捕され、中国側の支持者4人が負傷したと報じられている。
ただし、対談で語られている「約5000人から8000人」「日当5000円と弁当が支給された」という主張については、今回参照できた公的記録および主要報道からは確認できなかった。
したがって、本稿では坂東忠信氏の発言として収録し、独立して確認された事実とは区別する。
また、「五毛党」は単一組織の正式名称ではなく、中国政府や共産党に有利なネット上の書き込みを行う人々を指す俗称である。
一般には「網絡評論員」、すなわちネット評論員と呼ばれ、「書き込み1件につき五毛、0.5元が支払われた」という説明が名称の由来とされている。
しかし、全員が書き込みごとに報酬を受け取る一つの統一組織であると確認されているわけではない。
一方、中国共産党中央政法委員会が2018年以降、ネット上の宣伝、世論誘導、イデオロギー闘争を担う「政法網宣鉄軍」を組織的に整備する方針を示したことは、中国政府機関の資料から確認できる。
以下の発言は、高山正之氏と坂東忠信氏の見解として掲載する。
【ネット工作員の暗躍】
坂東
中国人は、日本国内でもさまざまな組織作りを進めており、その体制はほぼ完成しています。
2008年の北京オリンピック聖火リレーが長野市で行われた際、日本在住のチベット人や、チベット人弾圧に反対する日本人が、チベット旗を掲げて沿道に立っていました。
そこへ、多くの中国人が中国国旗を持って集まりました。
双方の一部が衝突し、日本人も巻き込まれる騒ぎへと発展しました。
このとき集まった中国人の多くは留学生であり、組織的な行動でした。
約5000人から8000人が集まり、日当5000円と弁当が出たと聞いています。
各大学には中国人留学生の学友会があり、それらを通して学生が動員されたと私は見ています。
中国の教育行政や在外公館の教育部門が、留学生組織に影響を及ぼしているとも考えています。
長野のときにも、そうした組織が背後で動いていたと私は認識しています。
もう一つ、ネット工作を行う集団として、「五毛党」が大きな注目を集めています。
一般に「網絡評論員」、すなわちネット評論員と呼ばれる人々です。
中国共産党を利する書き込みやコメントを投稿したり、共産党に批判的な書き込みを報告したりする。
書き込み1件につき五毛、0.5元が支払われるといわれたことから、「五毛党」と呼ばれるようになりました。
当初から一つの確固とした全国組織が存在したというより、地方政府、行政機関、大学などが、それぞれにネット評論員を配置してきたとされています。
その後、中国共産党中央政法委員会は、ネット上の宣伝と世論誘導を担う組織を強化しました。
ネットがイデオロギー闘争の主戦場になったとして、ネット上の発言を監視し、政府に批判的な動きを早期に発見し、共産党に有利な世論を形成する体制を整えてきたのです。
中国政府にとっては、暴動や反政府運動によって国家が混乱する前に、ネット上でその芽を発見し、摘み取ることが治安維持につながるという考え方なのでしょう。
高山
日本国内でも活動しているのではないか。
中国共産党の傲慢さや問題行動を伝える書き込みが出ると、それを即座に打ち消すような内容が投稿される。
例えば、「中国中心のサプライチェーンを切り離すべきときだ」と書かれる。
すると、「そうは言っても、中国との経済関係は必要だ」といった、表面上は中立や均衡を装う意見が大量に出てくる。
その中には、五毛党によるものもあるのではないか。
坂東
その可能性はあるでしょう。
インターネットであれば、世界中のどこからでもアクセスできます。
書き込みを行う人員を養成するプログラムも存在するとされています。
知識の習得に2日、実践演習に1日、合計3日をかけて訓練するというものです。
ほかにも、特別内部訓練として合計5日間のプログラムや、選択したコースに応じた補習があるとされています。
習得する内容も多岐にわたります。
ただし、これらの具体的な研修日数や内容については、対談中で坂東氏が紹介した情報であり、本稿が独立して確認したものではない。
この稿続く。

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