清潔のコストは高い――コロナ危機に直面して、日本人も「ニッポンファースト」と言うしかない
清潔を維持するには大きなコストがかかり、かつて世界では貧乏と不潔が同居していた。
日下公人氏が、日本の健康保険制度と製薬産業、米中対立、中国への研究アイデア流出を論じ、コロナ危機に直面した日本人は「ニッポンファースト」と言うしかないと説く。
2020-06-30
清潔のコストは高い。
だから当時は世界中が不潔だった。
清潔は金持ちだけが独占していて、貧乏と不潔は同居していた。
以下は、「ニッポンファースト」と言おうと題して、月刊誌WiLLに掲載された日下公人氏の連載コラムからである。
月刊誌WiLLは、日本国民のみならず、世界中の人たちが必読である。
まだ購読されていない人たちは、今すぐに最寄りの書店に向かわなければならない。
何故なら、本稿のような本物の論文が満載されているからである。
それでいながら、価格はたったの920円、消費税込みなのだから。
幸か不幸か、2020年初頭からコロナの問題が発生して、ポストコロナをいろいろと議論する時代が始まろうとしている。
まずは「コロナは天災か人災か」だが、その後に残るのは、中国とアメリカの戦いの話になる。
アメリカでは、民主党と共和党の人が集って、習近平の中国に賠償金を要求しようとか、取り立てようとか、中国がすでに保有しているアメリカ国債の償還をストップしようとか、いろいろ言っている。
11月に迫っているトランプ大統領の選挙に、どう影響するかが大問題である。
思い出すのは幕末の頃、水戸藩士の藤田東湖は、日本と日本人の精神をたたえて、「発しては万朶の桜となり……凝っては百錬の鉄となる」に続けて、「我々は神州清潔の民」と表現したことだ。
*筆者註:世の中を正すための正義とか誠の心、考えを持ち、断じてそれを行う気迫、気構えを持つ*
清潔は小学校の頃はさんざん強調されたので、それを言われると急に格調が下がったように感じるかもしれないが、なかなかどうして、そうではなかったことがコロナ騒動の今ならわかる。
清潔のコストは高い。
だから当時は世界中が不潔だった。
清潔は金持ちだけが独占していて、貧乏と不潔は同居していた。
子供たちが友人を「バイキン」と名づけて差別するのには、それなりの理由があった。
その頃、村の医者が、「気の毒な人をなくすのは簡単だ。薬よりカネを配ればよい」と話すのを横で聞いて、「医学より経済か」と思ったが、今は本当にそうなった。
日本は憲法で不戦と決めているので、その分、財政には巨大な余裕がある。
日本の健康保険の普及率がほぼ100%というのは、世界七不思議の一つだが、健康保険が普及すると、まず難病・奇病がなくなった。
それは、保険による統計が整備され、すぐに発見されたからだ。
また、統計があれば、製薬会社の努力がそこに集中するということもある。
売上高の予測が成立するから、売れる薬は量産され、安くなる。
また、化学が進歩すると、新薬の構造式を見て、どんな薬効を期待して開発されたものかがわかるようになる。
それが売れていれば、類似品をつくる会社が出てくる。
そこで、特許戦争や広告戦争が始まる。
製薬会社は大規模ほど有利だというので、大合併が進む。
薬の相似化は会社の相似化になり、また、ジェネリックの復活にもなる。
そもそも薬効とは何なのか。
「鰯の頭も信心から」というのは、どの程度まで本当なのかと考えているうちに、バイキンのほうが変化して、コロナは四種類に分化するとか、人間が考える「対策」の先へ変化しているから、「考えるコロナ」があるのではないかとかで、問題は人間が考えているよりも先へ先へ進んでいる。
もともとウイルスとは、顕微鏡では見えないくらいの微生物という意味だから、野口英世がいくら顕微鏡を覗いても何も見えなかったはずだが、教科書にはそれは書いていない。
ロックフェラーが建てた大学の一角に野口英世の銅像が建っているのは、研究の功績にではなく、むしろ〈白人に負けじ〉と新分野に挑戦した意気込みに対するものかもしれない。
往時の日本人はそんな気持ちでここを訪れたと思うが、今はだいぶ違っている。
フランス革命が一段落した時、生き残った人たちが顔を見合わせて、「なんだか口がうまいのばかり生き残ったナ」と言ったという話があるが、それが近代の始まりである。
近代は新語が多い。
で、口のうまい今の日本人は何と言うのか。
それとも、金ができた日本人は、もう何も言わないのだろうか。
それは人さまざまだと思うが、学者はともかく研究費が欲しい。
研究テーマも欲しい。
一刻も早く成果を上げなくてはと思うところへ、中国から新研究のお誘いがかかる。
そこで、日頃温めているテーマがあれば、その話をする。
教えているのか、アイデアを盗られているのかは不明だが、そんなところから日中共同の研究が花を咲かせるのはよくわかる話で、次は、中国がつくる共同研究会に名を連ねる人がたくさん現れる話になる。
その次は、トランプ大統領が怒ってアイデアの流出を止めるが、その時の看板は「アメリカファースト」である。
日本は何歩も遅れて、「学問に国境はないが、学者には国境がある」と、ようやく言っている。
コロナ危機に直面して、日本人も「ニッポンファースト」と言うしかないだろう。