ズーム会議を監視する中国当局――ネットに潜む中国の影と世界規模の言論操作
中国当局はWeChatを通じて民主化活動家を監視し、TikTokによる情報収集の危険性も指摘されている。
矢板明夫氏が、天安門事件の追悼集会を中断したZoom、中国共産党と関連する大量のTwitterアカウント、ネット空間に浸透する中国の言論操作を取り上げ、日本政府と社会の危機意識の欠如に警鐘を鳴らす。
2020-06-30
中国の言論弾圧に加担したことで、ズーム社に対し、世界中から批判が殺到した。
また、今回の事件で明らかになったのは、中国の治安当局はズーム社のオンライン会議の内容を監視しているということだ。
以下は、「ネットに潜む中国の影」と題して、月刊誌WiLLに掲載された矢板明夫氏の連載コラムからである。
月刊誌WiLLは、日本国民のみならず、世界中の人たちが必読である。
まだ購読されていない人たちは、今すぐに最寄りの書店に向かわなければならない。
何故なら、本稿のような本物の論文が満載されているからである。
それでいながら、価格はたったの920円、消費税込みなのだから。
数年前、中国の警察に一時拘束された北京の民主化活動家から聞いた話だ。
深夜、自宅から警察施設に連れ出され、取り調べ室らしき部屋に入ると、壁にスクリーンがあり、そこには自分の携帯電話に入っているメッセージアプリケーション「微信(WeChat)」の画面が映し出されていた。
その約半年前に、複数の友人らと交わしたやり取りが大きく表示され、「政府批判」にあたる部分は赤線でチェックされていた。
「これだけの証拠があれば、あなたを今すぐにでも国家転覆罪で逮捕できる」と、警察官に脅迫された。
携帯電話のアプリを通じて、自分の言動が監視されていたことを初めて知ったこの活動家は、とても恐ろしく感じたという。
微信は中国企業が開発、運営しているアプリなので、そこでやり取りされる情報を中国の治安当局に把握されることは、当然と言えば当然だ。
今、中国とビジネスを展開する日本企業の関係者の携帯電話には、ほとんど「微信」がダウンロードされている。
「使いやすい」と絶賛する日本人も少なくない。
彼らは、自分の個人情報が中国当局に筒抜けになり、場合によっては企業秘密が盗まれるかもしれないことを、あまり意識していないようだ。
微信よりもっと厄介だと言われるのが、同じく中国企業が開発したTikTokというショートムービー・プラットフォームのアプリだ。
誰でも音楽に合わせて簡単に魅力的な動画をつくることができるため、アジアを中心とした若い世代から人気を集めている。
愛用者の年齢は低く、日本では中高生を中心に使っている人が多い。
台湾のIT専門家によれば、TikTokをダウンロードすれば、携帯電話の中のデータが盗まれる可能性があり、使用者の現在の居場所も特定できる。
ここ数年、ものすごい勢いで世界中に普及し、ユーザーはすでに15億人を超えた。
「中国がTikTokを利用して、さまざまなデータを集めているはずだ」と言った。
危険なのは、中国の製品だけではない。
日本の企業がオンライン会議などで愛用している、米ビデオ会議サービス「ズーム(Zoom)」も、中国の治安当局の影響下にあることが明らかになった。
6月4日、米国在住の民主化活動家らがZoomを使って、31年前の1989年のこの日に起きた、民主化運動が弾圧された天安門事件の犠牲者を追悼するオンライン集会を開き、米国や欧州、香港、中国国内の活動家ら数百人が参加した。
しかし、この会議は中断してしまった。
世界各地に住む天安門事件の元学生リーダーや、人権派弁護士らのZoomのアカウントが、急に使えなくなったのだ。
後にZoomの広報担当者は、メディアの取材に対し、「中国当局から圧力を受けて通信サービスを中断した」と認めた。
「会議は中国の国内法に違反した可能性があるからだ」というのが理由で、「当社は事業を行っている国や地域の法律に従わなければならない」と釈明したが、中国の言論弾圧に加担したことで、Zoom社に対し、世界中から批判が殺到した。
また、今回の事件で明らかになったのは、中国の治安当局はZoom社のオンライン会議の内容を監視しているということだ。
同社を利用している世界中の企業の内部会議を、中国当局が、その気になればすべて把握できるかもしれない。
「中国に進出していないソーシャルメディアを利用すればよい」といった声も聞かれるが、実はそれも安心できない。
米ソーシャルメディア大手のTwitter社は6月中旬、言論操作を行ったとして、中国共産党に関連しているとされる17万余りのアカウントを削除したと発表した。
17万余りのアカウントのうち、約2万が中国政府の政策などを称賛する書き込みを投稿し、残る約15万のアカウントは、その投稿を拡散させたという。
実はTwitter社は、昨年夏も同じ理由で、約20万アカウントのうち936のアカウントを削除していた。
今回の17万アカウントは、その後に新たに登録したものだ。
GoogleやFacebookにも同じように、中国による言論操作アカウントが数多く登録されていることは、言うまでもない。
私たちが日頃、インターネットで接する情報は、こうした中国側の「人海戦術」によってつくられたフェイクニュースである可能性がある。
欧米や台湾では最近、インターネットから中国当局による浸透を一掃する「浄化作戦」を開始し、中国の影響下にあるソフトやアプリの使用禁止などの対策を取り始めたが、日本政府と社会は、まだ問題の深刻さを全く認識していないのが実態だ。