<正論>世界史にとどめるべき皇室文化|平川祐弘氏が論じる日本の国体と正統な皇位継承

2026年5月19日の産経新聞「正論」欄に掲載された、東京大学名誉教授・平川祐弘氏の論考を紹介する。日本が世界史にとどめるべき誇りとして皇室文化を位置づけ、国体=国柄、天皇の権威、旧宮家男系男子の皇族復帰、女系天皇につながる議論への警戒について論じる。

以下は5/19の産経新聞からである。
<正論>世界史にとどめるべき皇室文化
東京大学名誉教授・平川祐弘
2026/5/19
孫は渡米中、野球見物で大谷翔平のホームランを見た、世界一と頗(すこぶ)るご満足である。
大当たりだ。
だがそれで日本人を誇るのは児戯にひとしい。
ではわが国はほかに誇るべき何があるのか。
昭和十年代の小学校で「万世一系の皇統」は世界無比と私は習った。
昔から日本人は易姓革命の伝統がある隣国中国の皇帝制との比較でわが国柄を自覚してきた。
中学二年、玉音放送で戦いが終った時はほっとした。
占領下でも皇室が御安泰で国体が護持されたことは子供心にも有り難かった。
国体とは国柄のことで、人民共和国といいながら皇帝制ともいえる隣国で習近平国家主席に万一の事があったら、選挙制も無い大中華の国にはどんな混乱が生じる事か。
英仏は大作家、米は政治家
大国といわれるほどの国は歴史に名を留(とど)める偉人がいる。
イギリス人は「大英帝国は植民地インドを失おうともシェイクスピアがいる。
『ハムレット』『オセロ』の著者は世界一の劇詩人だ」と誇る。
フランス作家ジッドは「貴国には誰が」と問われて「ヴィクトル・ユゴー、エラース」と答えた。
『レ・ミゼラブル』の作者ユゴーは世界的大作家で、日本の子供もジャン・ヴァルジャンが活躍する「ああ無情」の大小説を読み耽(ふけ)っている。
ただそれに「エラース(残念ながら)」とジッドが足したのは、シェイクスピアには及ばないが、という含意である。
価値観は国により違う。
アメリカで政治家は尊敬され文士は小馬鹿にされる。
江藤淳はそれを感じて憮然(ぶぜん)とした。
かの国ではフランクリン・ルーズベルトが二十世紀最大の政治家だともてはやされる。
それで私も気詰まりを覚えた。
彼は日本に先に手を出させ「真珠湾を忘れるな」と大合唱をおこさせることで全米国民を第二次大戦に参戦させた悪賢い大統領だったからだ。
ライシャワー教授は米国人に明治天皇をリンカーンと比較し、明治神宮をリンカーン記念堂とならべて説明した。
その時はほっとした。
その『ザ・ジャパニーズ』が出た一九七七年、米国で名の知られた日本の政治家は依然としてトージョーで、その名前を言われるたびに日本人留学生は肩身が狭かった。
(しかし私は後に東條英機被告とキーナン検事の東京裁判における論争を読み直して東條を見直した。
彼は少しも責任を避けず、ハル・ノートの無法を指摘し、天皇陛下のご仁徳を頌(しょう)し、堂々としていたからである)。
日本の誇りは国体=国柄
昭和二十年代に高等教育を受けた私たちの世代は、米仏で学んだ人は共和制がいいように主張し、英国で学んだ人は君主制を擁護した。
しかし米国大統領がニクソンのように政治スキャンダルを、クリントンのように性的スキャンダルをひき起こすと、大統領が一身に国家の権力と共に権威の体現者でもあるところから、その下半身が連日マスコミに報道されると米国民全体がげんなりして動揺する。
その時私は、権力は総理大臣に委ねられ、その結果、政治闘争で泥まみれになるが、権威は天皇がそれとは別に保全する日本は非常にすぐれた国柄だと見直した。
いまや日本では国会でも民間でも、また週刊誌でも、皇室典範改正が話題である。
喫緊の課題は正当な皇位継承者を確保し、増やすことだ。
旧宮家の男系男子を皇族として復帰することとし、正統な皇位継承権はその次の(つまり、生まれながらの皇族となる)世代から与えるべきだというのが妥当だろう。
英国と同様、日本も元旦の新聞などで皇位継承者の写真と順位を明示すべきだ。
現存宮家の内親王ないし女王への入り婿案は、身位の混乱を招くから避けるべきだろう。
自民党の小林鷹之政調会長が支持するらしい、女性皇族の結婚後の活躍に「皇族の身分保持」が必要とする説は根拠が希薄だ。
女性宮家の創出は皇室の歴史と縁もゆかりもない。
こうした案は女性皇族の配偶者や子も皇族にすべきだという議論につながり、将来的に女系天皇への一里塚となる可能性もあり、皇統破壊につながる。
正統な皇位継承のために
高市早苗総理は「旧宮家復帰を優先」とした。
世界に名の知れた現代の日本女性はタカイチだが、その人の意見を尊重したい。
ちなみに日本女性で海外に広く名の知れた人は高市以前は千年前の紫式部だ。
これは百年前ウェイリーの手でThe Tale of Genjiの優れた英訳が出たお蔭(かげ)である。
皇室典範に書かれていないが、天皇は「伊勢の宮居を拝みて」まず祭事を執り行う。
それをしたくないという方が現れたときには皇位継承は不可とすることを明記する。
それというのも天皇に権力がなくとも権威が保たれてきたのは、天皇が伝統的な宗教文化の継承者であるからであり、天皇が日本の象徴であるのは日本国民の永生の象徴でもあるからである。
(ひらかわ すけひろ)

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