PB黒字化目標というドグマ|高市政権は財政主導路線に転向できるか
2026年5月9日の産経新聞に掲載された田村秀男氏の論考を紹介する。
日本経済を長年停滞させてきたPB黒字化目標というドグマを批判し、高市政権が財政主導による経済再生へ転換できるかを問う必読の論文である。
以下は5/9、産経新聞に掲載された記事からである。
日本国民全員が必読。
見出し以外の文中強調は私。
PB黒字化目標というドグマ。
高市政権は財政主導路線に転向できるか。
田村秀男の経済正解。
2026/5/9。
日本経済は長年にわたってドグマ、すなわち教義に縛られてきた。
それは、国家財政の政策経費は税収の範囲内にとどめるべきだという基礎的財政収支、プライマリーバランス、PBの黒字化目標である。
主要国の中では、日本だけが掲げている。
その結果は、恐るべき経済の停滞である。
高市早苗政権は改廃を目指すが、財務省や既存メディアが抵抗勢力として立ちはだかる。
PBを巡る攻防の場は、経済財政諮問会議、議長=高市首相、が議論する「経済財政運営と改革の基本方針」、いわゆる骨太の方針である。
財務官僚はそこに「PB黒字化」目標を書き込むよう工作し、閣議決定させる。
それを振りかざして各省庁の予算要求を査定し、年末に政府予算案を仕上げる。
PB黒字化目標自体は、平成9年度に当時の橋本龍太郎政権が導入し、平成13年度に始まった骨太の方針で定着した。
昨年10月発足の高市政権の下での令和8年度予算も、石破茂前政権時の骨太の方針に従わされた。
民間から吸い上げた税収のすべてを政策経費に充当して民間に還元しないと、国内需要は萎縮し景気は下押しされる。
その結果、大型補正予算による「経済対策」を打つことが、政府・与党の秋の恒例行事となってきた。
大型補正は、その場しのぎのバラマキであり、民間には投資意欲が戻らない。
税収は減る一方で財政支出だけが突出するため、PB赤字と政府債務残高だけが膨らむ。
それを理由に、財務官僚は時の政権に政策支出を削減させ、消費税増税をのませてきた。
需要低迷のために実質賃金は落ち込み、現役世代の窮乏化が進む。
◎PB目標取り下げは財政規律の放棄?
高市政権はPB黒字化目標を取り外すことができるのか。
抵抗勢力はいくつかの「殺し文句」を用意している。
とりわけ既存メディアが盛んに報じるのは、PB目標がなくなると、金融市場から財政規律の放棄と見なされ、国債の信認が失われ、政府債務の利払いが膨らむという論理である。
首相も支持グループの自民党若手議員たちも、これを無視はできない。
だからこそ、積極財政に「責任ある」という冠をかぶせた。
首相自身、PB単年度目標を複数年度目標に切り替える妥協策も公言するが、歯切れが悪い。
そもそもPB黒字化には何の効能があるのだろうか。
PB目標がなければ、その国の経済は成長できないのかというと、むしろ成長の道を閉ざしている。
PB目標を国家基本政策とは無縁とした方が財政の自由度が高まり、経済活性化をもたらすのではないか。
◎米中は歳出拡大も経済崩れず。
グラフは、日本と、PB目標のない米国、中国のPB赤字の名目国内総生産、GDP比と消費者物価指数の推移を追っている。
原データは国際通貨基金、IMF見通しによる。
PB赤字のGDP比は、日米中とも、2020年に爆発的に広がった新型コロナウイルス禍に対処するための大型財政出動で急拡大したが、日本は21年以降、同比率を急減させている。
PB黒字化目標に従って、緊縮財政路線に回帰したためだ。
米国も徐々にPB赤字GDP比が減っているが、26年はコロナ前より高めだ。
25年に復活したトランプ政権は大型減税を打ち出したばかりか、国防支出を増やしている。
今年1~3月期の米実質経済成長率は前期比年率2%増と拡大基調が続く。
人工知能、AIやデータセンターの関連投資が盛んで、海外からの対米投融資も増えている。
2月末の対イラン攻撃後も、米金融市場は揺らがない。
中国の習近平政権は、21年後半に始まった不動産バブル崩壊の底が見えない中、政府の大型補助政策により、電気自動車、EV、先端半導体、AIへの投資奨励策を取り、PB赤字のGDP比は22年以降増加基調にある。
中国のGDPについて、IMFは水増し疑惑のある中国当局発表値に依拠する。
真のGDPに対するPB赤字比はもっと大きいだろう。
それでもEVは世界市場シェアを高め、AIも米国に対抗する実力を見せる。
規制だらけとはいえ、PB赤字拡大が中国の金融不安を引き起こす兆しはうかがえない。
今や、PB赤字のGDP比を左右するのは物価上昇である。
日本の目覚ましいPB赤字GDP比の減少には、エネルギーコストに押された物価を反映する名目GDPと税収増が大きく寄与している。
その礎は積極財政が築いた。
20年の一律10万円の現金給付などが、コロナ後の景気回復を導いた。
以上のことから、どうみてもPB黒字化は国民経済にとっては邪魔でしかない。
高市政権はPB黒字化の呪縛を断ち切って、財政主導の経済再生へと力強く踏み出すべきではないか。
編集委員。
