新型コロナが生む北朝鮮の体制危機と中国依存の実態
加藤達也氏の産経新聞コラムをもとに、新型コロナウイルス禍が北朝鮮体制にもたらす危機を考える。制裁による経済悪化、中国との貿易縮小、食料不足、金正恩政権によるエリート層からの収奪、そして習近平が北朝鮮に持参したとされる現金による支援を通じて、北朝鮮の中国依存と体制不安を論じる。
2020-04-07
中国の習近平国家主席が2019年6月の訪朝時、制裁違反で非難される危険を冒して持参した数千万ドルの現金が建設費にあてられたとみられている。
以下は今日の産経新聞に、コロナが生む北の体制危機、と題して掲載された、加藤達也の連載コラムからである。
中国・武漢発の新型コロナウイルスの感染拡大を世界が警戒するなかで、ここのところ北朝鮮への関心が低い。
日本海に短距離弾道ミサイルを撃ち込んで存在感を示そうとしているのだが、すでに世界で7万人近い死者を出してなお終息が見通せない新型コロナとミサイルの試し撃ちでは、スケールが違いすぎる。
危機を演出して注目を集め、その局面を利益に転換するビジネスモデルが通用しなくなった北朝鮮は、体制がいつ、どうなってもおかしくない状況にあるという指摘が多い。
特に今年は金正恩氏が2016年5月の党大会で示した「国家経済発展5ヵ年戦略」の最終年だが、「発展」どころか先行き真っ暗である。
統治用の虎の子を観光資源や製鉄所の開発、住宅供給につぎ込み、逆に最悪を更新する失策のつけをだれに、どのように払わせるか。
今後、北朝鮮の内政や外交が不安定化するとすれば、ポイントはそこだ。
それにしても「制裁で疲弊している」とされる北の経済はどれほど悪いのか。
韓国の中央銀行「韓国銀行」によれば、北朝鮮の2018年実質国内総生産は前年比4.1%減。
マイナスは2年連続となった。
餓死などで数百万人が死亡した「苦難の行軍」の影響が出た1997年、マイナス6.5%、以来21年ぶりの低水準だ。
最大の問題は生殺与奪を握る中国との貿易縮小にある。
北朝鮮の2018年の貿易額は28億4300万ドル。
前年の半分で、貿易の95%を占める中国への輸出も前年比で88.2%減。
外務省関係者は「国連制裁が直撃した」と指摘する。
一方で国連食糧農業機関、FAO、と世界食糧計画、WFP、は今年、2018年11月~2019年10月の穀物生産量は前年度比で12%減の485万トンと推計。
人口の40%が食料不足の計算だ。
ただし北朝鮮側は、同時期の収穫は「大豊作だった」と主張した。
もっとも近年、北は国民に草食家畜飼育を指示している。
つまり食用ウサギを飼えというわけだが、この形で食料問題の自力解決が指示されるのも苦難の行軍以来。
実情は推して知るべしか。
北朝鮮農業をめぐっては米情報機関が注目する特異動向に触れておく。
平安南道順川市に新築したリン肥料工場だ。
「正恩氏が今年、新年初の指導に訪れた最重点経済事業だが、中国の習近平国家主席が2019年6月の訪朝時、制裁違反で非難される危険を冒して持参した数千万ドルの現金が建設費にあてられたとみられている」(米政府筋)。
北が中国のカネでいかに生きながらえているかを示す好例だ。
北朝鮮経済の延命には中朝間の人的往来や物流の完全復旧が不可欠だが、ウイルス流入を恐れる正恩政権が、発生源となった中国を完全に受け入れることは当面、ない。
元北将校の脱北者は筆者にこう解説した。
「経済の悪化とコロナウイルス禍の長期化は、豪奢に暮らす正恩氏にも経済苦をもたらす。正恩氏は生活水準を絶対に下げないから、残るはエリートからの収奪しかないだろう」
そこで正恩氏には3つの収奪策が示される。
①正恩氏への上納高額化
②資産没収の正当化のための恣意的な汚職撲滅運動強化
③食料配給ルートを操作して忠誠心を示すよう手なずける「忠誠心のための食糧」プログラム
である。
北の指導者はこれまで、エリート層に希少な財物を与え、代わりに忠誠心を得てきたといわれた。
ところが今度は財物も出せ、忠誠心も示せというシステムになろうとしているのだろうか。
地球規模で災厄を広げる新型コロナウイルスは、北朝鮮エリート層の正恩氏憎悪や、体制危機を引き起こす導火線となりえるのだ。