新型コロナ・ショックを逆手に取る中国と「一帯一路」の危険

田村秀男氏の月刊誌「正論」論文をもとに、新型コロナウイルス・ショック後の中国経済と習近平政権の膨張主義を考える。リーマン・ショック後に中国が急拡大した事例、一帯一路による欧州浸透、イタリア北部への中国資本と人的流入、中国経済の構造的脆弱性を通じて、「自国経済ファースト」の必要性を論じる。

2020-04-07
1年前の3月、習国家主席は訪問先のローマでイタリアのコンテ首相と会談し、「一帯一路」協力の覚書を交わし、主要先進7ヵ国、G7のメンバーを初めて一帯一路に組み込んだ。
以下は月刊誌「正論」今月号に、いまこそ徹底せよ「自国経済ファースト」、と題して掲載された田村秀男氏の論文からである。
彼は今、日本でも有数の経済評論家である。
悪性ウイルスというものは試練によって態様を変え、さらなる脅威となって復活する。
人、情報と市場を強力に統制する中国の全体主義モデルはどうだろう。
新型コロナウイルス・ショックは金融危機に直面していた中国経済の息の根を止めるのだろうか。
いや、逆になるかもしれない。
2008年9月のリーマン・ショック後、世界でいち早く回復し、経済、政治・軍事で急速な膨張を遂げたことを思い起こせば、新型コロナウイルス・ショックはリーマン以上に共産党独裁国家の影響力拡大のきっかけになってもおかしくない。
実際に、習近平政権はなりふり構わずウイルス禍封じ込め宣言を急ぐ。
金融市場崩壊の先進国、石油価格暴落の産油国を尻目に、自国経済のV字型回復の道を誇示すれば、行き場を失った世界の巨大な余剰マネー、技術や、自信を失った経営トップや政治指導者たちを吸い寄せられると踏むからだ。
すべてが逆さまに見えるルイス・キャロル作「鏡の国のアリス」の不思議世界とも言うべきか。
新型コロナウイルス・ショックの元凶が救世主となる。
世界保健機関、WHOは3月11日に中国湖北省武漢発の新型コロナウイルスをパンデミック、世界的大流行、だと宣言したが、その2日後にはテドロス事務局長が「欧州がパンデミックの中心になった」と断じた。
チャイナマネー依存のエチオピア出身で、新型コロナウイルス発生以来、習近平政権の対策を擁護してきたテドロス氏らしい発言だが、日を追うごとにもっともらしく見えてきた。
18日にはドイツのメルケル首相が新型コロナウイルスについて悲痛な声で「第二次大戦以来の試練」と述べ、19日にはイタリアの新型コロナウイルスによる死者がとうとう発生源中国を上回った。
同日、習政権は勝ち誇るかのように湖北省の新規感染者の発生がゼロになったと発表した。
その前には、欧州などへの支援を相次いで打ち出した。
イタリアやイランに医療支援団を派遣し、フランス、ギリシャ、セルビアなどに防疫物資の支援を約束した。
習氏はスペインのサンチェス大統領と電話会談し、「力の及ぶ限り」の支援を表明した。
欧州はユーラシア大陸とその周辺を網羅する習政権の拡大中華経済圏構想「一帯一路」の西端に位置する。
1年前の3月、習国家主席は訪問先のローマでイタリアのコンテ首相と会談し、「一帯一路」協力の覚書を交わし、主要先進7ヵ国、G7のメンバーを初めて一帯一路に組み込んだ。
とりわけシルクロードの起点、イタリア北部は中国の欧州攻略拠点が並ぶ。
中国資本はアドリア海に面するトリエステ港の機能強化に向け、ターミナルや周辺の鉄道網の整備を引き受ける。
ジェノバ近郊では世界最大級のコンテナ船が入港できるターミナルの建設に着手済みだ。
ミラノなどイタリア北部にはもともとブランド物などの生産請負いビジネスを見込んで数十万人もの中国人が住み着いている。
結果は新型コロナウイルス感染症の蔓延である。
死に体だった膨張主義
一帯一路に代表される習近平政権の中国膨張主義は実のところ、新型コロナウイルス・ショック前に挫折しかねなかった。
2018年初めから始まった国内経済の減速が米中貿易戦争によって高進したからだ。
武漢発コロナは経済力衰退を決定づけ、習政権はますます一帯一路推進のゆとりはなくなるとみなされがちだが、転んでもただでは起きない。
むしろ焼け太りを狙うが、詳しくは後述する。
まずは中国経済の構造的な脆弱性を説明しよう。
グラフ1は中国の自動車とセメント生産の各月までの年間生産量の前年同期比増減率の推移である。
自動車は中国工業部門の要で、セメント生産は国内総生産、GDP、の5割前後を占める固定資産投資、土地代を除く上物投資、の主材である。
いずれも2017年3月にピークアウトし、セメント生産は2018年初めに、自動車は2018年秋に前年比マイナスに落ち込んだ。
セメント生産は昨年後半にプラスに転じたが、年間の増加率は6%弱で生産規模は2015年の水準にとどかない。
自動車生産はまさに奈落の底に転落という格好で、今年2月までの年間は前年比28%減である。
GDPを支える自動車生産と固定資産投資が低調である以上、中国経済実質成長率が当局発表の6%台というのは嘘だろう。
習政権は金融緩和によって景気刺激策を打ってきたと日本経済新聞などがしばしば報じるのだが、正確とは言えない。
利下げはあるが、極めて小幅だ。
量の面ではむしろ金融引き締めを行っている。
グラフ2を見ればよい。
中国人民銀行は経済成長のために欠かせない人民元資金を発行して、金融機関に流し込むのだが、2018年初め以降は伸びを抑え、昨年は年間を通じて前年比マイナスが続いた。
量的引き締めの原因は人民銀行の外貨資産の減少による。
人民銀行の通貨発行は、中国に流入する外貨の買い上げを伴っている。
流入外貨が増えないと人民元発行量を増やせない。
人民元発行残高に対する外貨資産の割合をみると、外貨資産比率は100%を割っているのだが、70%のラインを最低限にしている。
金融の量的緩和、つまり人民元資金追加発行のためには7割の比率を下げるしかないが、それは人民元の信用にかかわりかねない。
中国の外貨流入源の主力は対米貿易黒字である。
トランプ政権は対中赤字を減らすべく、対中貿易戦争を仕掛けてきた。
大幅な対米黒字削減は金融政策を大きく制約しかねない。
しかも、習政権は資本逃避に悩まされており、対外借り入れを増やさないと外貨を確保できず金融が成り立たなくなる。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です


上の計算式の答えを入力してください