中国に引きずられるな――武漢ウイルスが暴いた国際相互依存の脆弱性
武漢で発生した新型ウイルスは、国際的相互依存の脆弱性を世界に突きつけた。
世界経済と人的交流が中国抜きには回らなくなっていた現実、そして中国が非常時においても利己的な国益と宣伝に走っている危険を、神谷万丈氏の論文を基に考察する。
2020-04-09
中国の武漢という、国際的相互依存の中心点の一つで発生した新型ウイルスは、何万人もの命を奪い、何十億もの人々に自宅に閉じこもることを強いている。
以下は今日の産経新聞「正論」に、「現実を見据えて世界と協調せよ」と題して掲載された、防衛大学校教授、神谷万丈氏の論文からである。
今や世界は、新型コロナウイルス一色である。
だが、国際政治の現実そのものが変わったわけではない。
国際政治学者の目から見れば、今回の騒動が私たちに突きつけているものは、相互依存関係をいかに管理するかという、国際協調の難しさである。
20世紀後半以降の世界では、交通、運輸、情報通信を中心とした技術進歩によって、国際的な相互依存関係が飛躍的に増大してきた。
それは国際経済の拡大と発展を促した。
しかし同時に、世界に、過去には存在しなかった脆弱性をもたらしてきたのである。
今回のウイルス禍によって、私たちはそのことを思い知らされた。
世界中の国々が、まるで鎖国のように人の流れを止め合った。
モノの流れも滞り始めた。
世界の株価は暴落した。
年頭には想像もできなかった事態を目の当たりにして、私たちは、それまで当たり前だと思っていた日々の生活が、実はどれほど国際的な相互依存の上に成り立っていたのかを知ったのである。
日本や世界の経済が、好むと好まざるとにかかわらず、中国との相互依存抜きでは回らなくなっていることも、改めて明らかになった。
今日、中国は「世界の工場」である。
2019年には一人当たりGDPが1万ドルを突破し、「世界の市場」としての重要性も増していた。
その中国経済が大減速し、各国と中国との経済関係が滞ったことは、世界経済に深刻な打撃を与えている。
しかし、それ以上に深刻なのは人的被害の拡大である。
中国の武漢という、国際的相互依存の中心点の一つで発生した新型ウイルスは、国境を越えた人の移動に乗って、世界中へ急速に広がった。
そして何万人もの命を奪い、何十億もの人々に自宅に閉じこもることを強いている。
各国は水際対策として入国制限に踏み切った。
だが、それは国際的相互依存関係に、さらに大きな打撃を与えている。
つい先日まで、一泊三日の弾丸出張さえできたワシントンやパリが、今や何と遠い場所になってしまったことか。
さらに重大なのは、このような非常時にもかかわらず、利己的な国益に基づいた対外姿勢を修正できていない国があることである。
特に看過できないのは、中国の言動である。
中国の対日姿勢は、今回の騒動の発生後も、ほとんど変わっていないように見える。
中国の公船は、尖閣諸島周辺で依然として領海侵入を繰り返している。
力によって国際秩序の現状を変更したいという中国の利己的な願望が、今も日本に向けられ続けているのである。
また中国外交部は3月26日、中国籍でありながら1980年代半ば以降、日本で研究を続けている北海道教育大学教授が、スパイ容疑で中国当局に10カ月以上拘束され続けていることを認めた。
昨年9月に中国専攻の北海道大学教授が中国当局に拘束されたことに続くものである。
中国は、そのシャープパワーを日本にも向けている。
そして日本に、言論の自由をはじめとするリベラルな価値を、どこまで本気で守る意思があるのかを試し続けているように見える。
中国に引きずられてはならない。
今回の問題発生当時、中国には情報隠蔽や初動対応の遅れが目立った。
国際社会と協力して問題に立ち向かうという姿勢は乏しかった。
最近では、早期に適切な対応ができず、事態をパンデミックに至らせた責任については口をつぐんでいる。
その一方で、国内での対策成功や世界への貢献についての宣伝ばかりを強めている。
発生源の特定にも前向きではない。
そこにあるのは、やはり狭い利己的な国益の考慮である。
そのような国に引きずられ、各国が自国中心主義に走ってしまえば、治療薬の開発も遅れる。
パンデミックの早期終息も望めない。
世界経済の停滞も長引くだろう。
だが、国際協調を欲するあまり、狭い国益に基づいて行動する国の存在から目をそらすことも、また危険きわまりない。
国際政治においては、理想をできる限り追求しながら、現実から目をそらさないことが肝要である。
今、私たちに求められているのも、まさにその態度である。