米中5G戦争と中国の世界支配構想
櫻井よしこ氏の論考をもとに、ウィリアム・バー米司法長官が語った中国への危機感、5G技術覇権をめぐる米中対立、半導体産業と武漢における日本企業の関与を取り上げる。中国は世界征服ではなく世界所有を目指しているという認識から、日本が米国と共に戦うべき理由を論じる。
2020-04-21
米司法長官のウイリアム・バー氏は、ロシアは世界征服を試みたが、中国は世界を所有しようとしている、ロシアよりも中国への対処の方が難しい、と認めた。
氏は、ロシアは世界征服を試みたが、中国は世界を所有しようとしている、ロシアよりも中国への対処の方が難しい、と認めたのだ。
と題して2/14に発信した章を再発信する。
以下は、高山正之と共に昨日発売された週刊新潮の掉尾を飾る、櫻井よしこさんの連載コラムからである。
櫻井よしこさんは、最澄が定義した「国宝」そのものの一人である事は、何度も言及してきたとおり。
NHKは、政府が何便にも分けて用意したチャーター機で帰国した武漢在住の日本人とは一体、どんな人達なのかについては、全く報道しなかったに等しい。
報道したのは、武漢にある大学に留学しているという女子大生へのインタビュー。
私は、武漢に留学に値する大学があるのか、と思いながら観ていたのだが。
NHKは、日本の半導体関連の一流企業の技術者が数百人規模で武漢で働いている事は、全く報道しなかった。
櫻井よしこさんは真のジャーナリストである。
だが、NHKの報道に携わっている社員には、報道番組を担当するに値するジャーナリストは、ただの一人もいないと言っても過言ではない。
米中5G戦争、日本は米国とともに戦え。
新型コロナウイルス問題発生以降、初めての米中首脳電話会談が2月7日に行われ、習近平国家主席はトランプ大統領に、米国の措置の緩和を求めた。
米国は、1月30日に中国全土への米国民の渡航禁止を決定、翌日には過去14日以内に中国に滞在歴のある外国人入国の一時拒否を発表した。
中国は、国際社会の一連の厳しい反応は「米国が恐怖心を創りだし、世界に広めた」からだと考えている。
トランプ氏は習氏の対応に賛辞を送りはしたが、渡航禁止措置の緩和には応じなかった。
今回の武漢ウイルス問題は、中国共産党一党支配体制の特質を鋭く抉り出した。
その醜い特質故に、中国は他国との共存共栄よりも覇権を追求し、世界を不幸の罠に落とし入れる。
そう警告しているのが、トランプ政権である。
2月6日、米司法長官のウイリアム・バー氏が、ワシントンの有力シンクタンク、戦略国際問題研究所、CSISで、トランプ政権が抱く危機感について極めて率直に語った。
氏は、ロシアは世界征服を試みたが、中国は世界を所有しようとしている、ロシアよりも中国への対処の方が難しい、と認めたのだ。
中国問題専門家としてCIA、中央情報局、に勤務するのが夢だったというバー氏は、中国の特徴をゼロサムゲームの国だと看破した。
日本や米国、欧州諸国のように「ウィンウィン」を目指すのではなく、「いずれ資本主義に終焉をもたらす」のが中国の意図だとの分析は、的を射ている。
ちなみにポンペオ国務長官も1月30日、中国共産党は「現代における最大の脅威」と語った。
両氏の厳しい認識は、歯の浮くような習氏への礼讃とは裏腹の、トランプ氏の本心だと見てよいのではないか。
バー氏は、米国の直面する課題を二つ挙げた。
①中国の経済、技術発展を圧倒的に有利にしている知的財産の窃盗行為をどう止めるか。
②中国が5G分野で技術覇権確立に血眼になっている現実に、米国及び同盟国はどう対処すべきか。
である。
世界シェアの40%を押さえる。
ここでは①は省く。
②について、バー氏の危機感は深刻で、日本は政府も産業界も、米国の意図を正確に理解しておかなければならない。
5Gの技術は、人間にたとえれば、体幹とそれを支える頭脳・神経組織全体のようなものだ。
5Gを基盤とするインターネットが構築されれば、それは世界機能の中枢を担う技術となる。
全ての産業が、次世代産業基盤としての5Gネットワークに依存せざるを得ないだろう。
5Gネットワークは2025年まで、即ちあと5年で、23兆ドル、約2530兆円を生み出すと見られている。
誰よりも早く、5Gネットワークを確立した国が勝つ。
最も進んでいる中国は、すでに世界シェアの40%を押さえている。
3Gから4Gへの発展は、情報通信を1メガビット/秒から20メガビット/秒に加速させた。
4Gでは米国が先行し、米国は4G技術から生み出された多くの利益の恩恵を受けた。
だが、いま、米国は5G技術という最重要産業で、史上初めて遅れをとっている。
米国の強い危機感を反映しているのが、現在進行中の米中貿易戦争だ。
彼らはまさに、中国に押し潰されないために、猛然と反撃を開始しているのである。
5G技術は、半導体、光ファイバー、レアアースの三つがなければ構築できない。
そこに焦点を絞る形で、米国は5G技術に必要な半導体の輸出などを禁じた。
驚愕した中国は、米国が売らないなら自前で調達すると決意し、これまた猛然と半導体の製造にとりかかった。
「中国はすでに米国製の半導体に替えて自国産の半導体を使い始めた。現在、質的にこちらが優位を保っているが、中国は世界の半導体の半分を消費する国だ。製造規模から考えて、質的劣勢は速やかに改善されると思われる」
と、バー氏は語る。
この間にも、中国は5Gのシェアのさらなる拡大に向け、なりふり構わない。
世界における5Gのインフラ産業は、現在760億ドル、約8兆3600億円規模だが、中国はシェア拡大のために1000億ドル、約11兆円を準備した。
つまり、中国の5G技術でインフラ整備をする全ての国や企業に、基地局建設からあらゆるインフラ整備、技術の習得まで、受け入れ側の資金負担なしに5G基盤整備を、中国政府が世話してやるということだ。
中国が準備したのは資金だけではない。
5万人に上る技術者を、中国政府の費用で世界中どこにでも派遣する体制を整えた。
最初は中国側の大きな持ち出しでも、その5G基盤を導入したが最後、将来における中国の優位性は保証されたも同然だ。
中国は意のままに世界をコントロールし、まさに世界を所有する結果になる。
そう考えれば、11兆円など安いものだ。
「日本企業が助けている」。
「戦いは激しく厳しい。5年以内に決着がつく。問題は米国と同盟諸国が協力し、中国に降伏しなくて済むような長期的に強い立場を築けるか、である」
とバー氏。
現実は生易しくない。
中国が5Gの基地局を10万箇所に建設済みなのに対して、米国は5Gのインフラに必要なCバンドの転用について議論中で、基地局の整備も7万から8万局にとどまっているという。
もっと情けないことに、米国にはファーウェイの技術に取って替る技術がない。
そこでバー氏は、驚くような提案をしてみせた。
現在、世界でファーウェイに対抗できるのは、フィンランドのノキアとスウェーデンのエリクソンだけだ。
ノキアの世界シェアは17%、エリクソンは13%だ。
両社は信頼に値する企業であるが、ファーウェイのように大きなシェアも、国内に巨大市場を持っているわけでもない。
そこで米国が資本参加で経営権の所有を検討し、中国に立ち向かう力を結集すべきだというのだ。
米国の危機感はここまで強い。
日本はどうするのか。
新型コロナウイルス問題で、武漢市から多くの日本人が帰国した。
武漢は自動車産業の集積地だが、実は半導体産業の中心地でもある。
そこで日本の一流企業の技術者が数百人規模で働いていた。
中部大学特任教授の細川昌彦氏が指摘する。
「中国は国運を賭けて、米国抜きの5G技術のインフラを世界に建設しようとしています。必要な半導体全ての自力生産を目指しています。それを日本企業が助けている。今回帰国した数百人のうち約半分が半導体関連の技術者であったことが、そのことを示しています。これで日米関係は大丈夫かと真剣に憂えています」
日本よ、大丈夫ではないぞ。
米中の戦いは、これからも長く続く。
中国との経済交流は大事だが、中国を助け、米国の足下を揺るがすような対中協力は、戦略的にわが国の国益に反する。
産業界も経団連も、日本国の立場を長期的視野で考えることだ。