中国の「医療外交」と健康シルクロード――権威主義の優位を誇示する異形の大国
産経新聞は、中国が新型コロナウイルス禍の中で、医療物資の輸出や専門家派遣を通じて「健康シルクロード」を進め、共産党独裁体制の優位を誇示しようとしている実態を報じた。中国は初動の情報隠蔽により世界へ感染を拡大させたにもかかわらず、医療外交を利用して「体制の優位」を喧伝している。本稿は、一帯一路の医療版としての中国の戦略と、台湾やドイツに見られる民主主義陣営の反転攻勢を問う。
2020-05-09
共産党独裁を維持したままグローバル化の波に乗り、世界第2位の国内総生産、GDPをたたき出す「異形の大国」と化した中国。
産経新聞は、今、日本のみならず、世界においても最もまともな新聞である。
購読者の人たちは、今朝の産経新聞を読んで、私の評の正しさを痛感したはずである。
見出し以外の文中強調は私。
「医療外交」に走る中国。
権威主義の優位、誇示。
マスク211億枚、防護服1億900万着、ゴーグル3294万個、患者用モニター11万台、赤外線温度計929万個。
これは、新型コロナウイルス対策として、中国が3月1日から4月25日の2ヵ月弱の間に輸出した医療物資の数量である。
中国税関総署幹部が記者会見で明らかにした。
健康シルクロード。
「健康シルクロード」構想と中国は称している。
かねて推し進めていた巨大経済圏構想「一帯一路」の医療版である。
その狙いは、習近平国家主席が4月27日の会議で強調した言葉によく表れている。
「わが国が感染の予防、抑制を力強く進めることができたのは、共産党の指導と社会主義制度の優位性が比類なき役割を発揮したからだ」
中国は湖北省武漢市での新型コロナ発生当初、情報統制に躍起となって初動に失敗し、世界に感染を拡大させた。
諸外国からの批判をかわすのみならず、「コロナ後」の世界秩序を見越して、「体制の優位」を喧伝しようというわけだ。
共産党独裁を維持したままグローバル化の波に乗り、世界第2位の国内総生産、GDPをたたき出す「異形の大国」と化した中国。
支援や協力の名を借り、一帯一路を通じて覇権を目指す戦略は、世界がコロナ危機にある中でも何ら変わっていない。
150ヵ国、機関に物資。
中国は3月に入って国内での流行ピークが過ぎるや否や、医療外交に動いた。
中国外務省によると、4月22日までに医療物資を送った相手先は、150以上の国と国際機関。
中国紙の経済日報、電子版によれば、5月6日までに中国が医療専門家チームを派遣したのは、19ヵ国に上る。
中国が意識する「体制の競争」で、独裁や権威主義が民主主義よりも優位だというのは当たらない。
米国やイタリア、英国などがコロナ封じ込めに失敗し、多大な犠牲を出したのは確かだが、感染者数の上位10ヵ国には、権威主義のロシアやイランも入っている。
イラン指導部には、初期の患者情報を隠蔽し、感染拡大を許した疑惑が出ている。
2月11日の革命記念日に大規模な祝賀パレードを行うためだ。
イランやロシアでは、長期の強権統治に対する不満がコロナ禍で増幅され、破裂する可能性すら指摘されている。
「今日、何十億もの人々が手を洗うのは、石鹸警察を恐れているからでなく、事実を理解しているからだ」
イスラエルの著名歴史家、ユヴァル・ノア・ハラリ氏は、英紙フィナンシャル・タイムズへの寄稿でこう述べる。
石鹸で手を洗うのは強制されたからでなく、ウイルスや細菌に関する知識があるためだ。
コロナのような公衆衛生上の戦いでも、科学や公権力に対する「信頼」こそが重要であると。
民主主義の逆襲。
自由と民主主義、法の支配を信奉する日本にとって、この意味で参考になるのは台湾やドイツだろう。
中国の圧力で世界保健機関、WHOから締め出されている台湾は、先手の防疫を成功させた。
1月23日には中国との人的往来を実質的に中断し、海外帰りの人や感染者、濃厚接触者の14日間隔離を早期に徹底した。
全般的な外出制限などを行っていないにもかかわらず、5月6日時点の死者を6人に抑えている。
ドイツは、大規模な検査態勢をとって、感染者の隔離や感染ルート追跡を行った。
致死率は、イタリアやフランスよりも大幅に低い。
メルケル独首相は、2021年秋の任期満了で退任すると表明し、レームダック化を指摘されていたが、誠実かつ科学的に各種制限への協力を訴え、メルケル氏の支持率は6割超まで回復した。
「健康シルクロード」の磁力に引きつけられ、中国接近を加速させる国はありそうだ。
東南アジア諸国連合、ASEAN加盟国では、米中との距離の取り方に濃淡があるものの、現地外交筋は中国の医療外交について、
「おおむね好意的に捉えられている」
と話す。
南アフリカの外交専門家も独メディアに、
「アフリカ諸国の選択肢は多くない」
と語った。
しかし、一帯一路が小国を「借金漬け」にして信頼を失ってきたのと同様、中国の医療外交にもつまずきが出ている。
スペインやオランダなど欧州諸国では、中国製医療品に相次いで不良品が見つかり、問題化している。
中国大使らが行う「宣伝」に、批判が強まる。
民主主義陣営の盟主であるべき米国は、WHOで中国が幅をきかせる現状を猛批判し、反転攻勢ののろしを上げ始めた。
北京、三塚聖平。
シンガポール、森浩。
カイロ、佐藤貢生。
外信部、宮下日出男。