バイデン親子とウクライナ疑惑――ブリスマ、ショーキン検事総長解任、トランプ弾劾をめぐる重大な二重基準
トランプ大統領はウクライナへの支援を利用してバイデン氏の調査を迫ったとして弾劾訴追された。
一方、副大統領だったバイデン氏は、息子ハンター氏が役員を務めていたブリスマをめぐる疑惑の中、米国の融資保証を条件としてウクライナのショーキン検事総長解任を要求していた。
スチール文書、ロシア疑惑、ディープステート、ウクライナ疑惑をめぐる報道の二重基準を記録した
2020-07-09
バイデン親子とウクライナ疑惑――ブリスマ、ショーキン検事総長解任、トランプ弾劾をめぐる重大な二重基準
以下は前章の続きである。
本稿は、「トランプの敵――そのおぞましい素顔」と題して月刊誌『WiLL』に掲載された、渡辺惣樹氏の論文からである。
渡辺惣樹氏は、世界有数の日米近現代史研究家である。
本論文は、日本国民のみならず、世界中の人々が必読である。
NHKなどの報道番組を視聴し、朝日新聞などを購読しているだけでは決して知ることのできない、米国政治の深部に関わる事実と論点が記されているからである。
トランプ大統領が2016年の大統領選挙で掲げた「Drain the Swamp」は、ワシントンに根を張る政官財の癒着、軍産複合体、情報機関、官僚組織、主要メディア、巨大な利権団体に立ち向かうという宣言だった。
そのため、トランプ政権の歩みは、既存の権力構造との激しい戦いになった。
渡辺氏は、それらの既成勢力を、米国社会に巣くう「怪物」と表現している。
第一の怪物は、オバマ政権の中枢に入り込み、他国への軍事介入や体制転換を推進してきたネオコン勢力だった。
第二の怪物は、政府組織内部の反トランプ官僚、情報機関、軍産複合体、そして彼らの情報を増幅した主要メディアだった。
第三の怪物は、政治家本人やその家族の立場を利用し、巨額の利益を得てきたと疑われる民主党の金権政治家だった。
この第三の怪物を象徴するものとして、渡辺氏が取り上げたのが、バイデン親子とウクライナの天然ガス会社ブリスマ・ホールディングスをめぐる問題である。
なお、原文の「M16」は英国秘密情報部を意味する「MI6」に訂正した。
また、原文ではバイデン氏が「軍事支援」を人質にしたと記されているが、正確には米国による約10億ドルの融資保証であり、公開版では「融資保証」に改めた。
退治された四つの怪物
トランプ大統領に退治された多くの怪物を振り返ってみよう。
その筆頭は、オバマ政権に巣くっていたネオコン勢力だった。
ネオコンについては、拙著『アメリカ民主党の崩壊』(PHP研究所)で詳述したが、要するに、ロシアを敵視する干渉主義者、国際主義者の集団であり、気に入らない国のレジームチェンジ、すなわち体制転換をも厭わない人々である。
彼らは、イラク、エジプト、リビアなどへの介入と体制転換を推進した。
トランプ大統領は、無益な対外介入を止め、ロシアのプーチン政権とも必要な折り合いをつける外交へと切り替えた。
オバマ政権とヒラリー・クリントン氏の外交を否定し、ネオコンを政権中枢から排除したのである。
第二の怪物は、ディープステート、すなわちネオコン系の実務官僚組織と主要メディアだった。
民主党は、ヒラリー・クリントン氏が2016年の大統領選挙に敗れると、元英国秘密情報部MI6のクリストファー・スチール氏が作成した、いわゆるスチール文書を利用してトランプ大統領を追及した。
スチール文書には、トランプ氏がロシアのプーチン大統領の影響下にあるとする数々の情報が記載されていた。
渡辺氏は、この文書を「トランプはプーチンの傀儡であるとする偽書」と断じている。
これを大きな根拠として、トランプ陣営とロシア政府との共謀を追及する、いわゆるロシア疑惑が展開された。
FBIの捜査に続き、ロバート・ミュラー特別検察官の捜査チームが、トランプ陣営とロシア政府との関係を長期間にわたって調査した。
しかし、トランプ陣営がロシア政府と共謀したとして刑事訴追するに足る事実は認定されなかった。
トランプ氏とプーチン氏の共謀は確実であるかのように報道し続けてきた、CNNに代表される主要メディアの信用は大きく傷ついた。
さらに、スチール文書の作成費用が、法律事務所などを通じてヒラリー・クリントン陣営と民主党全国委員会側から支払われていたことも明らかになった。
トランプ氏をロシアの傀儡として描いた文書が、実際には大統領選挙でトランプ氏と争った側の資金によって作られていたのである。
当時のFBI長官だったジェームズ・コミー氏は、FBI長官就任以前に、軍需企業ロッキード・マーティン社で上級職を務めていた。
渡辺氏は、ネオコン外交、軍産複合体、政府官僚組織、情報機関、主要メディアの結びつきが、ロシア疑惑によって露見したと論じている。
第三の怪物は、民主党の金権政治家だった。
民主党は、トランプ大統領が、議会の承認したウクライナへの軍事支援を利用して、バイデン氏とその息子に関する問題を調査するようウクライナ政府に圧力をかけたと主張した。
これが、いわゆるウクライナ疑惑である。
民主党が多数を占めていた下院は、2019年12月、トランプ大統領に対する弾劾訴追決議案を可決した。
しかし、上院の弾劾裁判では有罪に必要な票数に達せず、トランプ大統領は無罪となった。
渡辺氏は、反対にウクライナ政府へ明白な圧力をかけていたのは、バイデン氏の側だったと論じている。
バイデン氏の息子ハンター・バイデン氏は、ウクライナの天然ガス会社ブリスマ・ホールディングスの役員に就任し、高額の報酬を得ていた。
ハンター氏がウクライナのエネルギー事業に関する専門的な経験をほとんど持っていなかったにもかかわらず、なぜ高額報酬を受け取る役員に選ばれたのかという疑問は、当然提起されるべきものだった。
当時、ウクライナの検事総長だったヴィクトル・ショーキン氏は、ブリスマとその経営者をめぐる問題に関係する人物として注目されていた。
副大統領だったジョー・バイデン氏は、ウクライナ政府に対し、ショーキン検事総長を解任しなければ、米国による約10億ドルの融資保証を実行しないと迫った。
バイデン氏自身が、後にこの経緯を公の場で語っている。
バイデン氏側は、ショーキン氏の解任要求は、同氏が汚職対策に消極的だったためであり、米国政府、欧州諸国、国際機関の共通方針だったと説明してきた。
一方、渡辺氏は、ハンター氏が役員を務めるブリスマとの関係から、バイデン氏の行動には重大な利益相反の疑いがあったと指摘している。
重要なのは、バイデン氏側の説明だけを無条件に受け入れるのではなく、副大統領の息子が巨額の報酬を得ていた企業と、副大統領本人によるウクライナ政府への圧力との間に、どのような関係があったのかを徹底的に検証することである。
民主党は、トランプ大統領がウクライナ政府にバイデン氏の問題を調査するよう求めたことを、権力の乱用であるとして弾劾訴追した。
しかし、その一方で、バイデン氏本人が、米国の約10億ドルの融資保証を条件として、ウクライナの検事総長解任を要求していた事実は、日本の主要メディアで十分に検証されたとは言い難い。
トランプ大統領に対する疑惑は、連日のように大々的に報道された。
その一方で、ヒラリー陣営によるスチール文書への資金提供、バイデン親子とブリスマとの関係、バイデン氏がウクライナ政府に対して実際に行使した圧力については、同じ規模、同じ執拗さでは報道されなかった。
そこには、民主党、政府官僚、情報機関、軍産複合体、主要メディアによって形成された巨大な既得権益構造が存在する。
トランプ大統領が戦っていた相手は、一つの政党、一人の大統領候補だけではなかった。
米国の政治、行政、外交、安全保障、情報、報道を長年にわたって支配してきた、ワシントンの既成勢力そのものだったのである。
ロシア疑惑でも、ウクライナ疑惑でも、常に問われなければならないのは、誰が疑惑を作り、誰が情報を流し、誰が報道を増幅し、その結果として誰が政治的利益を得たのかということである。
トランプ大統領を弾劾するために適用された厳しい基準が、バイデン氏とその家族にも同じように適用されたのか。
その問いに正面から答えない限り、米国の主要メディアと民主党は、政治的な二重基準を用いたとの批判を免れることはできないのである。
この稿続く。