NHK世論調査は何を大きく報じ、何を小さく扱うのか――政権支持率・政党支持率・新型コロナ・香港報道を問う
NHKの世論調査で安倍政権の支持率低下が大きく報じられる一方、自民党支持率が35.5%へ3.3ポイント上昇し、立憲民主党支持率が4.2%へ0.7ポイント低下したことの扱いが小さいと感じたことから、世論調査、新型コロナ、中国、香港・周庭氏をめぐるNHK報道の姿勢を批判的に検討する。
2020年8月11日
熱戦が続くパ・リーグのプロ野球中継2試合の合間に、NHKの「ニュース7」と「ニュースウオッチ9」を観ていた。
NHKの世論調査と、その結果の報道の仕方について、私は以前から強い疑問を持っている。
この日は、それが特に顕著だったように思った。
安倍政権に対する支持率が2ポイント下がったことは、見出しに取り上げて大きく報道する。
ところが、民主主義社会において極めて重要な政党支持率を見ると、自民党に対する支持率は3.3ポイント上昇して35.5%となっていた。
一方、野党第一党である立憲民主党の支持率は0.7ポイント低下して4.2%だった。
私は、この二つの数字こそ政治報道上きわめて重要だと考える。
にもかかわらず、安倍政権の支持率低下と同じような大きさで見出しに取り上げられることはない。
ここに私は、NHKの政治報道における選択の問題を見る。
世論調査とは数字を発表するだけのものではない。
どの数字を見出しにするか。
どの数字を繰り返すか。
どの数字を小さく扱うか。
その編集判断自体が、視聴者に政治状況をどのように認識させるかに影響する。
私は当時、安倍政権の支持率低下について、朝日新聞やNHKをはじめとするテレビ報道が安倍政権を継続的に厳しく批判してきたことの影響も考える必要があると思っていた。
もちろん、政権支持率の低下をすべてメディア報道の結果だと証明することはできない。
しかし、報道機関が長期間にわたって何を強調し、何を批判し続けるかが、世論形成に全く影響しないと考えることもできない。
【新型コロナ報道への疑問】
私は新型コロナウイルスをめぐる報道についても、当時強い疑問を持っていた。
感染者数そのものは連日のように大きく報道される。
しかし、その感染がどのような場所で発生したのか。
重症者は何人なのか。
無症状または軽症の感染者はどの程度なのか。
検査件数はどの程度なのか。
死亡者数との関係はどうなのか。
そうした具体的な内訳が、感染者数という一つの数字ほど大きく伝えられていないように私には見えた。
私は、感染者数だけを連日大きく伝えれば、国民が実際の危険度を判断するために必要な情報が不足するのではないかと考えた。
新型コロナは重大な感染症である。
だからこそ、数字を恐怖の材料として扱うのではなく、その数字が何を意味するのかを説明することが報道機関の責務である。
【中国に対する批判は十分だったのか】
また、感染拡大初期から、私はNHKの報道に中国政府への厳しい検証姿勢が乏しいと感じていた。
新型ウイルスが最初に大規模流行したのは中国・武漢だった。
その初動対応、情報公開、世界への通知のあり方については、本来、徹底的な検証が必要だった。
しかし私には、中国政府の責任を厳しく問うことよりも、トランプ政権が中国批判を強めた際に、
「大統領選挙を意識したものだ」
という説明を繰り返すことの方が目立っているように見えた。
もちろん、米国大統領選挙という政治的要素が存在した可能性は検討されてよい。
だが、それとは別に、中国政府の初動や情報公開をめぐる問題そのものを検証しなければならない。
その後、米政権の複数の高官が相次いで中国政策について厳しい姿勢を公式に示し、米中関係が構造的な対立へ向かっていることが明らかになるにつれて、「選挙対策」という説明だけでは処理できない状況になったと私は見ていた。
【香港・周庭氏逮捕をどう報じたか】
そして香港である。
2020年8月、民主活動家の周庭氏が逮捕された。
新聞経営者の黎智英氏らも逮捕された。
私は、香港国家安全維持法の施行後に起きたこれらの出来事に対し、NHKが中国政府を明確な主語として、十分な厳しさで批判しているようには感じられなかった。
番組に出演した大学教授やキャスターは、
「声を上げ続けることが大切だ」
という趣旨の発言をしていた。
しかし私は、そこで一番重要なのは、
「誰に対して声を上げるのか」
を明確にすることだと考えた。
香港国家安全維持法を制定・施行し、その政治的枠組みを作った主体を具体的に示さず、「声を上げることが大事」とだけ言っても、問題の所在は曖昧になる。
私はそこに大きな違和感を覚えた。
日本の政権に対しては明確な主語を置いて批判する。
一方、中国政府が関係する問題では、主語が曖昧になる。
もしそのような違いが存在するのであれば、報道機関自身が説明すべきである。
【世論調査も編集である】
私がこの日、最も問題視したのは、最初に述べた世論調査の扱いだった。
安倍政権の支持率が2ポイント下がった。
それは報道すべき数字である。
しかし同じ調査で、自民党支持率が3.3ポイント上がって35.5%になった。
立憲民主党支持率は0.7ポイント下がって4.2%になった。
これも同じように重要な数字である。
政権支持率だけを大きく扱い、政党支持率の大きな変化を同じ重さで扱わないのであれば、視聴者が受け取る政治状況の印象は変わる。
報道機関には編集権がある。
しかし編集権とは、報道機関自身の政治的傾向や希望に沿って現実を組み替えてよいという権利ではない。
何を大きく扱ったのか。
何を小さく扱ったのか。
その理由を、自ら常に検証する必要がある。
私は2020年8月11日、NHKの世論調査報道を観ながら、改めてそのことを強く感じたのである。