突破力と無責任の間|小泉純一郎と橋下徹の原発論を問う
2019年10月29日発信。月刊誌Will掲載の島田洋一氏の論文を引用し、小泉純一郎氏と橋下徹氏の原発・エネルギー政策をめぐる発言を検証し、政治家に必要な突破力、責任感、見識、エネルギー安全保障の重要性を論じる。
2019-10-29
70歳近くまで「あほ」だったと自認する人の、80歳近くになっての思いつきをまともに受け取るわけにはいかないだろう。
以下は、先日発売された月刊誌Willの巻頭に在る連載コラムに、突破力と無責任の間、と題して掲載された、島田洋一氏の論文からである。
政治家は、理念が明確でバランス感覚に優れていると同時に、突破力がなければならない。
難局に当たって闘争心に燃え、打ち合いを恐れぬタイプでなければ、政治の場で何も実現できないだろう。
一方突破力はあっても責任感が稀薄で見識に欠ける政治家は、目隠しをしたヘビー級ボクサーのようなもので、パンチが運よく敵に当たればよいが、いつ味方をなぎ倒すか分からず、足元で寝ている赤ん坊を踏んでしまう恐れもある。
後者の典型が小泉純一郎元首相と橋下徹元大阪府知事・市長だろう。
小泉氏は今夏の関西での講演で、例によって「日本は原発なしでも電力が余る」と屈託なく断言しつつ、「あの(福島の)事故が起こるまでは原発に疑いを持っていなかった」
「現在は太陽光や風力発電などで15%の電力が賄われている」「原発の大義名分にだまされた私があほやねん。そうと分かれば自然エネルギーでやっていこう」と関西弁を交えつつ気炎を上げ、上機嫌で会場を後にした。
しかし小泉氏も認める通り、現在太陽光、風力で賄われる発電比率は15%に過ぎない(しかも安定供給可能なベースロ-ド電源にはなり得ない)。
残り85%の大部分は火力発電すなわち石油、天然ガスに頼っている。
日本の場合石油はほぼ全量が輸入で、うち中東産が87%を占める。
目下ペルシャ湾を挟むサウジアラビアとイランの間で緊張が高まっており、本格戦争となれば中東石油は瞬時に途絶する。
天然ガスもほぼ全量が輸入。
うち中東産が23%で、石油ほどの偏りはないが、途絶分を他で埋められる保証はない。
この点、中東依存度が石油で22%、天然ガスに至っては0%のアメリカとは大きく事情が異なる。
原発にリスクが伴うことは、小泉氏に言われるまでもなく誰もが知っている。
管理惻の緩みは厳しく正さねばならない。
しかし、氏は聞き流していたのだろうが、かつて原発に関し小泉総理大臣にレクチャーした人々は、上記のようなエネルギー安全保障の観点も力説したはずである。
70歳近くまで「あほ」だったと自認する人の、80歳近くになっての思いつきをまともに受け取るわけにはいかないだろう。
橋下氏はかつて大阪府知事・市長時代、「安全性を誰も確認していないのに原発再稼働など許されない」
「こんなことを許すなら民主党政権を倒さねばならない」と勇ましく見得を切っていたが、2012年、酷暑の大阪で電力不足が現実化した途端、一転、福井県の原発をすぐに再稼働しろと叫び、夏の電力消費のピークが過ぎると、二転、すぐ原発を止めろと主張した過去がある。
原発再稼働や新増設には膨大な政治エネルギーがいる。
迎合政治家の都合で簡単に動かしたり止めたりできるものではない。
沖縄の米軍普天間基地移設に関する鳩山由紀夫元首相の、「最低でも県外」から「抑止力について学んだ。辺野古しかない」を経て、再び「辺野古はダメ」云々と同レベルの思慮なきふらつきだと批判の声が上がったのも無理はない。
橋下氏は「最大の論点は原発がなくても電力は足りるのか足りないのかだった」と当時を振り返り、「そしたら『大阪府市エネルギー戦略会議』のメンバーで、原発なしでも電力は足りると言い続けていた飯田哲也さんが(政府の『需給検証委員会』で)大惨敗した。
結局、原発がなければ電力は全く足りないという結論だった。
僕にしてみれば『ハアーつ?』て感じ。
飯田さんも元通産官僚の古賀茂明さんも、原発が動かなくても電力は足りるから、ここで原発を再稼働させなくてもいいと、ずっと僕に言い続けてきて、僕はそれを前提に原発再稼働阻止の実行プロセスを構築していたのに。
少しくらい足りないという程度だったら踏ん張っていたけど、全く足りないという結果だった」とあっけらかんと述べている。
橋下氏の場合も小泉氏同様、中東情勢など国際政治の動きは全く目に入っていない。
政争の渦中に進んで飛び込み、確信ありげに戦闘的言動を誇示する橋下氏だが、その実、軽佻浮薄な一部評論家に踊らされていただけと言うのである。
「ハアーつ?」はこちらのセリフだ。
弁が立ち、物怖じしない小泉、橋下氏らが意義あるテーマとよいブレーンを見つけ、持ち前の突破力をプラスの方向に活用できれば、日本の未来を切り開く大きな武器になるだろう。
しかし当人らに、よいブレーン、悪いブレーンを見分ける力がいつまでも無いようなら、いかんともしがたい。
一般人の側が彼らの言動を厳しく見定める眼力を持つ他ないだろう。