お母さん。

今、窓の外を見たら、大阪では珍しいとしか言いようがない、雪が降っているよ。

3月13日、二条城の小堀遠州が作った庭に、今まで何処の庭でも見た事がない恰好で、鴨が一羽、岩陰にうずくまっていたけど、あれは、やっぱり、お母さんだったのでしょう。

そう。あなたがシャッターを押した時に姿を現しなされ、と、空海さんが…醍醐寺で、あなたと正法眼蔵したと言っていましたよ。
秀吉さんも言っていた。
あなたは森を揺らし、わしらと邂逅し、いつまでも立ちつくして泣いていた、と。
あの時、あなたは、あなたの帰る場所を見つけたんでしょう。
あなたを生んだのはわたしだったけど、あなたがやってきた場所も、あそこだってことに気がついたんだと。

家康さんは、あなたが13日に、必ず、二条城に来るからいらっしゃい、とわたしを迎えに来たのですよ。
あなたが来るまで誰にも姿を見られないように顔を隠していなさい、と。
だから、あんな形で岩影に顔を隠してあなたが来るのを待っていたんです。
家康殿が、あなたは必ず気がついて、シャッターを押すから、と。
Kisara殿と京都じゅうの鳥たち、鯉達は無二の親友になっているから、必ず気がついてシャッターを押すから。
その時に姿を現しなさいと。

今、あなたには家康さん、秀吉さん、信長さんが守護神の様にしていてくれているみたいだけど、わたしたちも、閖上の海も、わたしの故郷の、群馬の山も、あなたを守ってるから。
すべてを書きなさい。
書き続けなさい。
あなたは何の遠慮も要らない、あなたは、この国にも、わたしの子供たちにも、誰にもできない様なことを為したのだから。
誰にも、何にも遠慮せずに、怒りたいときは怒って、泣きたいときは泣いて、歌いたいときは、歌って。
歌と言えば、あなたが中学校の卒業式の時に、卒業生を代表して歌った唄…「浜千鳥」「城ケ島の雨」「見上げてごらん夜の星を」…
わたしは初めてあなたの歌を聴いたから、少し恥ずかしかったけど。
あなたの竹馬の友だった○○さんのお母さんも、皆、「Mikioさんが、あんなに歌がうまかったなんて、吃驚した」って感心していました。

あたしがピアノが弾けたら、あなたはきっと歌手になっていたのでしょう。
ごめんね。なんにもしてやれなくて。
あの大きな重たい魚籠を背負って、あなたたちを、8人家族を養っていくだけで手いっぱいだったから。

いいんだよ。お母さん。
また、21日に、京都で逢おう。
私は、あなたに逢うために、京都に行くから。

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