情報「5重の壁」 政府の動き鈍く…「週刊朝日」今週号。…正に読むべし週刊誌なのである。

原子力安全委員会専門委員の奈良林直・北海道大学大学院教授は、今の政府の対応をこうみる。
 
「原発には放射能を防ぐ 『5重の壁』〈注〉があると言われてきました。今回の津波で残念ながら破られましたが、代わりにより強固だったのが情報伝達の『5重の壁』です」
 
メーカーと東京電力、原子力安全・保安院、原子力安全委員会、官邸という五つの関係機関の問で意思疎通が悪く、知恵が集まらないうえに、判断に時間がかかっているという。前出の代谷委員が言う。
 
「原子炉の状況について、保安院から安全委員会に明確にお伝えいただいたことはありません」
 
こうした「壁」にじゃまされて、意思疎通はこんなに複雑な経路をたどっているという。
 
例えば、東芝や日立製作所などのメーカーが東電に提案しても、それを東電や保安院がチェックし、さらに原子力安全委員会がダブルチェックして、問題があれば保安院から東電、メーカーに戻され、それが繰り返されてから、やっと官邸に届いて、ようやくゴーサインが出るといった具合のようです」(奈良林氏)
 
その影響はすでに表れている。
 
東京電力は4月4日から、高濃度の放射能汚染水の保管場所を確保するため、比較的汚染度の低い水1万1500トンを海へ放出した。この結果、全国漁業協同組合連合会は激しく抗議し、来電の勝俣会長が陳謝した。
 
しかし、この汚染水は、動かない冷却システムに代わって原子炉に注入した冷却水が漏れ出たものだ。これからも出るし、保管場所がなくなればまた海に流さなければならない。
 
これでは悪循環です。汚染水は安価に入手できる除去装置で浄化してから、再び冷却水として炉心に注入すればいい。そうすれば、冷却水を新たに調達する必要もないし、汚染水を海へ流す必要もなくなります」 (同)
 
先週、問題になった作業用トンネルから海への汚染水流出も同じだ。コンクリートからおがくず、新聞紙まで投げ入れても止まらず、凝固剤でようやく止めた。しかし、汚染水自体は処理されないまま残っている。再び増えてあふれ出ないか、不安な日々が続く。
 
いずれも目先の問題に対処するだけで、根本的な問題に向き合えていない
 
そもそも、炉心安定に不可欠な冷却システムは一体いつ、どうやって回復するのか。東電や保安院は会見で、冷却システムがある建屋の地階が汚染水につかってぃることでシステム自体に近づけず、めどが立たないとしている。

収束させないと 見放される原発

 
しかし、ある専門家は、「冷却ポンプが地下にあることは事前にわかってぃた。あれほど大量の水を原子炉に注入したのだから、いずれ地下に水があふれてポンプが水没することは十分予想できたはずだ」と指摘する。
 
ここでも奈良林氏らは、外付けの冷却システムの新設を政府に提案している (25ペー図参照)。
 
圧力容器へ冷却水を送ったり、容器内の水を受けたりするためのタンクには、マンションの屋上などにある受水槽を使う。
一つの容量は小さくても、つなげればいい。何よりマンション用ならすぐに調達できる。
同じく冷却器にも、ビルの屋上などに設置されている市販品を使う

 
発電所の冷却装置は原子炉のフルパワー時を想定して巨大な装置になっていますが、福島第一の各原子炉の燃料はすでにO・2%程度の熱量しかありません。コンクリートブロックや鉄板を重ねて遮蔽すれば、市販の装置で十分です」(奈良林氏)
 
加えて、放射性ヨウ素やセシウムを除去する「放射能浄化装置」を組み込めば、汚染除去が同時にできる。塩分の蒸留装置まで組み込めば、事故直後に海水を注入したことで炉内に付着しているはずの塩分を取り除くこともできる
 
「発注してトラックに積み込み、原発敷地内で設営しても1ヵ月程度でできるはず。事故直後に始めていれば、今ごろはもうできているのですが」そう言って、奈良林氏は苦笑した。 

「想定外の、未曽有の天災だった」-今回の原発事故について、東電も保安院もよくこの表現を使う。
 
大手メーカーの元原子力プラント設計者は指摘する。
 
すべての交流電源が喪失して、冷却システムがダウンすることを想定していなかったのは、日本の原子力発電所の設計と建設を進めてきた自負と責任からも痛恨です。この事態を何とか収束させなければ、結果的に原子力が国民から見放されてしまいかねません
 
奈良林氏も、かつて東芝の研究者として原発トラブルに対応した経験を踏まえて、こう話す。
 
原子力防災の基本思想に『深層防護』という言葉があります。ある手段がダメだった時を想定して、あらかじめ次の手段を用意して多段的に対策を施すことなのですが、今回は目の前で起きたことにかかりきりになって、まるで『もぐらたたき』です

果たしてこの現状で、住民が「一時帰宅」できる日は来るのだろうか。

黒字化は芥川。

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