中国に命を握られる世界――武漢ウイルスが暴いた医薬品支配の恐怖

櫻井よしこ氏の週刊新潮連載を引き、武漢ウイルスで表面化した医薬品サプライチェーン問題を論じる。中国が医薬品輸出を外交・恫喝の武器とし、米国や日本を含む諸国の国民の命を左右し得る現実を指摘し、中国依存からの脱却を訴える。

2020-03-31
武漢ウイルスで表面化したサプライチェーン問題は、中国が世界の医薬品をコントロールし、わずかな戦略の変更で諸国の国民の命を左右する力を手にした事実も明らかにした。
以下は前章の続きである。
「米国を恫喝」
中国共産党は建国百年の年までに、人類運命共同体である地球の盟主として、世界の諸民族の中にそびえ立つことを目指している。
中華民族の偉大なる復興を切望する彼らは、武漢ウイルスという禍禍しいものは中華世界の産物であってはならないと固く信じている。
禍禍しさや非難されるべき事柄は中国以外の野蛮国の問題であるべきで、中国とは無関係でなければならないと考える。
たとえば戦時においては、中国軍こそ住民を虐殺したが、そのような蛮行は全て日本軍によるものでなければならないと考え、彼らは歴史を捏造した。
同様に彼らは、いまウイルス禍は米国由来でなければならないと決めているのであろう。
世界の盟主たる中国は、むしろ武漢ウイルスを賢く克服したモデル国であり、世界のリーダーたる資格は米国ではなく中国にあると思いを定めているのである。
そこで俄かに浮上したのが、中国の強力な武器としての医薬品である。
先の新華社の社説は、こうも主張した。
「中国は医薬品の輸出規制をすることも可能だ。その場合、米国はコロナウイルスの大海に沈むだろう」
鮮やかな記憶が蘇る。
レアアースだ。
尖閣諸島の海で中国船が海上保安庁の船に体当たりし、中国人船長らの身柄を日本側が確保したとき、中国は日本に対するレアアースの輸出制限に踏み切った。
今回はレアアースの代わりに医薬品だ。
中国の国営メディアの右の発信は、中国政府の意思表示そのものである。
3月11日、フロリダ州選出の共和党上院議員マルコ・ルビオ氏が「FOX NEWS」で警戒心もあらわに語ったのは当然であろう。
ルビオ氏は率直に述べている。
「中国は医薬品供給を断つと言って米国を恫喝できる。その場合、我々が彼らと戦うことは非常に難しくなる」
実情を見ると、ルビオ氏の発言は、米国の置かれた苦しい立場を表現したものといえる。
中国はまさに、世界の医薬品生産の主力にのし上がって久しいのである。
医薬品の研究・開発においては、米国が世界のトップ水準を保っているが、製薬業の主体を担う力はすでに中国に移っている。
たとえば中国の医薬品市場は、2017年に1230億ドル、約13兆5000億円規模だったが、2022年までに1750億ドル、約19兆3000億円規模に成長すると見られている。
他方、米国における薬の製造は下降線を辿る一方だ。
多くの人の命を救ったペニシリンは、米国が製造した最後の主要な医薬品となった。
それ以降、米国は抗生物質の80〜90%、鎮痛・解熱剤の70%、血栓症防止薬としてのヘパリンの40%などを中国に依存してきた。
米国の消費者向け医薬品の主要成分の80%以上が、主に中国からの輸入品だとする統計もある。
諸国民の命を左右。
このような状況下では、中国は特定の医薬品輸出を止めたり、逆に加速したりすることで、相手国に甚大な被害を与えることが出来る。
人命に関わるだけに、レアアースよりも切実な影響を及ぼすだろう。
それだけ中国の立場は有利になるということでもある。
米中貿易戦争の中で焦点のひとつとなったのが、強力な鎮痛薬、合成オピオイドのフェンタニルだった。
効果はモルヒネの100倍とも言われる。
米国の疾病予防センター、CDCの発表では、2017年の米国の薬物過剰摂取による死者は7万人余り、内2万8000人余りがフェンタニルが原因だった。
こうした事態を受けて、2017年10月、トランプ大統領は、フェンタニルをはじめとする鎮痛剤の不正利用の蔓延を防ぐべく、非常事態を宣言した。
2018年12月、トランプ氏がアルゼンチンにおける習近平氏との首脳会談で、フェンタニルの対米輸出を取り締まるよう強く要請したのには十分な理由があったのだ。
だが、トランプ氏が要請しても、中国からのフェンタニルの対米輸出がすぐに減少したわけではない。
中国の科学技術部が、フェンタニルを米国に輸出する企業に助成金を支払い続けていた事実も報道された。
2019年4月になって中国の公安部、国家衛生健康委員会はようやく、フェンタニルの規制を翌月1日から実施すると発表した。
但し、中国側は「米国におけるフェンタニル類物質の主要流入元は中国ではない」との主張を、最後まで取り下げなかった。
中国は、世界の生産量の圧倒的シェアを握るマスクなどを救援物資として与えて、諸国から賛辞を受けている。
しかし、武漢ウイルスで表面化したサプライチェーン問題は、中国が世界の医薬品をコントロールし、わずかな戦略の変更で諸国の国民の命を左右する力を手にした事実も明らかにした。
日本も米国も、あらゆる意味で中国への依存度を急いで下げていかなければならない。

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