日銀よ、FRBに負けずカネを刷れ――コロナ恐慌と劇症デフレを防ぐための金融政策

2020年5月16日の産経新聞に掲載された田村秀男氏の論文を紹介し、FRBによる空前のドル資金発行、リーマン・ショック後の教訓、日銀の金融政策、円高リスク、そしてコロナ恐慌と劇症デフレを防ぐために必要な国債発行と日銀買い入れの連携を論じる。

2020-05-18
FRBが猛烈な勢いでドル資金を発行している。
危機勃発後、5月初旬までの2ヵ月間のドル増量規模は、2008年9月の金融危機「リーマン・ショック」後の2.5倍、まさに空前絶後である。
以下は、5月16日の産経新聞に、「日銀よ、FRBに負けずカネを刷れ」と題して掲載された田村秀男氏の論文からである。
彼は、財務省の受け売りの経済論、財政論を語る人間がほとんどの日本の経済関係で生計を立てている人間の中で、数少ない本物の経済記者である。
この論文は、経済論、財政論では、今、最も重要な論文である。
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米連邦準備制度理事会、FRBが猛烈な勢いでドル資金を発行している。
中国発の新型コロナウイルス恐慌を克服するためだ。
危機勃発後、5月初旬までの2ヵ月間のドル増量規模は、2008年9月の金融危機「リーマン・ショック」後の2.5倍、まさに空前絶後である。
ここで設問。
①そんなにカネを刷っても米国は悪性インフレにならないのか。
②日本経済にプラスなのか。
答えを先に言おう。
①高インフレの恐れなし。
②日銀がカネを刷り負けると、日本のコロナ不況は加速する。
一国のカネの総量は「マネーストック」と呼ばれ、世の中に出回る現金と、現金に準じた性格を持つ預金の合計額で表される。
他方で、私たちの暮らす経済の金額規模は、総生産量に価格を掛け合わせた国内総生産、GDPで表される。
マネーストックはGDPに連動する。
生産量が下がるのにカネだけが増えると物価が上昇する計算になり、この場合は悪性インフレに陥る。
第一次世界大戦後のドイツ、通貨を乱発した近年の中南米やアフリカの一部は典型例である。
ばかげたことに、わが国でも悪性インフレが起きかねないと、日銀による通貨発行や日銀の国債買い入れを否定する論法が、財務省御用学者、メディア界でもまかり通っている。
要は、生産能力に比べて需要が不足しているとき、中央銀行がカネを刷っても、このカネの大部分はマネーストックにならない。
中央銀行はカネを刷って、金融機関から主に国債を買い上げ、カネは金融機関が中央銀行に持つ当座預金口座に振り込まれる。
金融機関がこのカネを企業や家計に融資すれば、預金となって還流するので、カネの総量、マネーストックが増える。
しかし、デフレや金融危機によって将来が見通せない場合、銀行は貸し出しを減らそうとする。
企業や家計も、やりくりできる限り借金を避けようとする。
コロナショックを受けた日米などでは、実質GDPを意味する生産量が年率で数十%も萎縮する。
銀行貸し出し減でカネの総量は減る。
帰結はデフレだ。
リーマン・ショック後にFRBはドル資金をそれまでの4倍も刷ったが、デフレを避けるのがやっとで、インフレ率は低いままで終始した。
コロナショックの今、FRBが当面、無制限に国債を買ってカネを刷っても、インフレ率は上がらないどころか、デフレ圧力を和らげるのが精いっぱいだろう。
FRBのパウエル議長は、トランプ政権による国債増発支援を明確に宣言している。
トランプ政権は、3兆~4兆ドル規模の財政支出によって、カネの裏付けのある需要、有効需要を増やそうとしている。
FRBのカネ刷り増しは、国債増発と結びつくことによってこそ、デフレ恐慌を阻止できる。
日本はどうか。
本欄の前回では、外国からの借金に頼る米国にはドル不安のリスクがつきまとい、外貨準備に制約される中国は財政・金融の拡大には限界がある一方、カネという資源が世界一有り余っている日本は、コロナ恐慌を楽々と克服できると論じた。
ただし、条件がある。
日銀がFRBに対してカネを刷り負けないことだ。
負けると、大幅な円高になってしまい、仮にコロナ禍が過ぎても、日本経済は劇症デフレの淵に沈みかねない。
実際に、それが起きたのが、2008年9月のリーマン・ショックだった。
グラフは、リーマン危機後のFRBドル資金発行1ドル当たりの日銀資金発行、ソロスチャート、そしてそれぞれの資産の推移である。
中央銀行は、国債などの資産を買い入れるためにカネを刷る。
リーマン危機後、FRBは猛スピードでドルを刷りまくったが、日銀の白川方明総裁、当時は円を刷らない。
ソロスチャートの円レートは急激に下がり続ける。
市場では急激な円高局面に突入した。
2012年12月にアベノミクスが始まり、日銀は異次元金融緩和に踏み切った。
ソロスチャートは反転し、超円高が円安局面に切り替わった。
そのあと、1ドル110円前後の水準で為替相場は安定するようになった。
コロナショック当初、日銀はもたついたが、4月27日になって「上限なしの国債購入」を宣言した。
国債金利をゼロ%で維持するためだという。
カネ余りの金融機関の国債需要は大きいので、日銀買い入れは少なくとも国債金利をゼロにできる。
ソロスチャートは、リーマン危機後と同じ勾配を描き、円高を指し示している。
政府は100兆円規模の国債発行、日銀は100兆円買い入れで連携すべきなのだ。
編集委員。

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