欧州で始まった脱グローバル化――中国依存を断ち、国家主導で産業を取り戻す時代へ
産経新聞パリ支局長・三井美奈氏の連載コラムを引き、新型コロナウイルス禍で露呈した欧州の中国依存、マスク不足、国内生産回帰、脱グローバル化、そして国家主導経済への急速な転換を論じる。
2020-06-09
最近の世論調査によると、「グローバル化を食い止めよ」と答えた人は65%。
「たとえ商品価格が上がっても、国内生産すべきだ」という人は89%にのぼった。
以下は、「国家主導」急速に進む欧州、と題して、今日の産経新聞に掲載されたパリ支局長三井美奈の連載コラムからである。
彼女も、今、もっともまともな新聞である産経新聞の市価を高めている本物の記者である。
見出し以外の文中強調は私。
新型コロナウイルスでフランスの外出禁止令は約2ヵ月続いた。
食品買い出し以外、家にこもる日々。
筆者自身も相当へこみ、「コロナ鬱」寸前だった。
助けてくれたのは、近所の魚屋だ。
飲食店閉鎖で売れなくなったヒラメやカキを毎朝、店に並べていた。
店の経営も苦しいだろうに、マダムは「ブルターニュの海から魚が届く限り、店は開ける」と明るく笑った。
苦境の漁師を支えようとする心意気が伝わり、客の列はどんどん長くなった。
みんながこんな経験をすると、国民の価値観まで、がらりと変わる。
マクロン大統領は日ごろ、「フランスを改革し、もっと強くする」が持論だったのに、国際競争力どころか、輸入が止まると、必需品すら入手困難になった。
「この国はどうなっているのか」と、だれもが唖然とした。
その象徴は「マスク騒動」だ。
10年前の新型インフルエンザ流行後、17億枚が国家備蓄されたはずなのに、いつの間にか消えていた。
政府の説明によると、「アジアから輸入すればよい」と安易に考えていたらしい。
国産の製造能力は、需要の1割しかなかった。
マクロン氏は視察先の病院で、医師や看護師から「装備も人員も全然足りない」と詰め寄られた。
マスク増産のため、服飾品の高級ブランドまで動員した。
それでも国民に行き渡らず、「手作りマスク」運動が全国に広がった。
「産業をフランスに取り戻せ」という主張は、いまや国中に満ちている。
最近の世論調査によると、「グローバル化を食い止めよ」と答えた人は65%。
「たとえ商品価格が上がっても、国内生産すべきだ」という人は89%にのぼった。
心理学者のジュリア・ドヒュネス氏は「生命を支える医療、国内産業を大事にしろ、と求める声が強まった。経済効率は二の次、という考えだ」と話す。
ドイツでも世論は変化した。
輸出が経済の生命線なのに、「グローバル化はリスクになる」と答えた人は58%にのぼった。
3年前は「グローバル化はチャンスになる」との意見が64%を占めていた。
こちらも、「産業の供給網を中国に依存してはいけない」という、強い警戒感が広がる。
新型コロナ流行前、欧州経済は米国と中国の2強に埋没していた。
グローバル化に対応するため、「大きな政府」をいかにスリム化するかが、欧州連合、即ちEU全体の課題だった。
それが今や、「国家主導」が急速に進む。
財政均衡が看板だったドイツ政府は、緊縮路線をかなぐり捨てた。
これまでの経済対策の総額は約1兆3千億ユーロ、約156兆円。
昨年の国内総生産、即ちGDPのほぼ3割に相当する。
フランスで、都市封鎖による休業手当の対象は1200万人以上。
民間被雇用者の6割に、国が給与の大半を払っていることになる。
マクロン政権は「米国のような大量失業は、絶対に起こさない」と公約する。
パリでは自由に外出できるようになっても、近場の商店で買い物を続ける人が多い。
地産地消へのこだわりも強まった。
マダムの魚屋は今や界隈の人気店。
週末は大にぎわいだ。
「大きな政府」への回帰は国の債務を膨らませ、確実に経済改革を遅らせる。
だが今、それに文句を言う人はいない。