AIIBは危険なバス――「名誉ある孤立」を守る日本の選択
2017-6-19
以下は前章の続きである。
AIIBは危険なバス
最後に、中国が主導するAIIB(アジアインフラ投資銀行)についても触れておこう。
AIIBには創設メンバー国として世界五十七力国が参加した。
主要国で参加を見送っているのは、日本とアメリカだけである。
これに対して民主党などは、外交上の誤りであるとか日本が孤立したとか批判している。
もしも民主党政権であったら真っ先に参加しただろうと思うと、背筋が寒くなる。
中国の習近平は「大中華帝国の復興」などと誇大妄想的な発言をしている。
しかし、「大中華帝国」などあったためしがない。
かつて広大な領土を支配した清朝は満洲族の国であり、シナは征服された植民地にすぎなかった。
元朝は蒙古人の大モンゴル帝国の一部であった。
しかも、レアアースなどの資源を生産しているのはモンゴルやウイグルやチベットなどの周辺地域であって、シナ人(漢民族)がもともと住んでいた地域には、天然資源などもはやなきに等しい。
近衛(文麿)内閣と東條内閣で大蔵大臣を務め、北支那開発総裁であった賀屋興宣が、「シナというのはなんにもない国だなあ」と言ったことがある。
だから中国政府は、インフラ整備の名目でアフリカや東南アジアに進出し、現地で資源開発を行うなど、狂ったような資源外交に乗り出したのである。
ところが、その大半が失敗だったことが明らかになっている。
中国人がつくった道路や橋の質の問題は別として、何かといえば中国から労働者を連れてきて資源開発を行い、現地人を雇わないばかりか、中国から来た連中は帰らずに現地に居坐る。
初めは中国のインフラを歓迎していた国々も、いいことは何もない、まるで植民地だというわけで、ミャンマーもカンボジアもスリランカも完全に離反してしまった。
しかたがないので、インフラ銀行をつくろうというのが中国の目論見である。
ところが、先立つものがない。
三兆ドルの外貨があるから、そのうちの五百億を使うとか言っているが、中国は世界銀行などから借りている金をまだ返してもいないのに、三兆ドルもあるはずがない。
そもそも、そんな国が自分たちの主導で国際金融機関をつくろうなどというのは図々しいにも程がある。
では、イギリスやドイツ、フランスはなぜ参加したのかといえば、理由は極めて単純明快で、輸出先がなくて困っているからである。
これまでは、たとえばギリシャやスペイン、ポルトガルのような技術的後進国は、優秀な技術や機械をどんどんドイツから買っていた。
普通ならば関税がかかるが、EU(欧州連合)になったものだから、それもかからない。
丸儲けである。
ところが最近では、EUの各国とも破産寸前でモノが売れなくなってきた。
イギリスもフランスも同じようなものである。
それでロシアに目を向けて販売拠点をつくったところが、ロシアの外貨収入のほとんどは石油や天然ガスだけだから、原油の突然の暴落とウクライナ問題で経済制裁を受けてロシアに購買力がなくなってしまった。
そんなときに、自分たちの国のものを買ってくれる唯一の可能性のある中国に誘われたら渡りに船である。
欧州の国にとってどうせ出す金はわずかなものだし、アジアの軍事的脅威など彼らには興味がないから、とりあえず入っておこうというさもしさから参加しただけのことだ。
中国の機嫌を損ねない程度にお付き合いして、市場を確保しておこうというわけである。
ところが日本とアメリカはほかの国とは立場が違う。
まず軍事問題が無視できない。
それに日本とアメリカはIMF(国際通貨基金)とADB(アジア開発銀行)の最大の出資国である。
そこから金を借りて返さない国が新しくつくる金融機関など話にならない。
だから、いかにも日本とアメリカが金融界で孤立したようなことを言うメディアがあるが、あの傲慢な中国が、ことA11Bに関しては実に腰が低い。
安倍総理との会談の席でも、習近平は以前の仏頂面とはうってかわってつくり笑いを浮かべていた。
日本が参加しなければ動きがとれないからである。
さらに、中国の元は国際通貨ではない(編集部注。「元」はその後「国際通貨」入りした)。
国際通貨は現在ドル・ポンド・ユーロ・円の四種類で、スイスフランも通用するかもしれないが、規模が小さいから、国際的に決済できるのはこの四つだけである。
習近平は「大中華帝国」の夢のために「元通貨圏」をつくりたいのだろうが、そもそも元を国際通貨にするには固定相場制を廃して自由にしなければならないが、そうしたら中国経済は大変なことになる。
決済能力のない通貨を持ち、国際的な融資をした経験もない国が国際銀行をつくるというのは滑稽でしかない。
だから、日本は名誉ある孤立を守り、これについてもジッと見守っていればいいのである。
このバスには乗り遅れてもよいのだ。
中国共産党がハンドルを握っている危険な金融バスなのである。
(『歴史通』二〇一五年七月号初出)