習近平の大プロパガンダが暴いた中国共産党の「底知れぬ悪」と「まことしやかな嘘」

武漢肺炎をめぐる中国共産党の「正能量報道」と習近平政権の大プロパガンダを、福島香織氏の論考をもとに検証する。女性看護師の剃髪美談、人民日報の世論誘導、武漢市民の命がけの罵声が示したのは、中国共産党体制の「底知れぬ悪」と「まことしやかな嘘」である。

2020-04-03
今、習近平が行っている呆れた態様は、「底知れぬ悪」と「まことしやかな嘘」で成り立っている体制であることを実証している。
以下は日本国民のみならず世界中の人たちが必読の月刊誌Hanada今月号「武漢肺炎、日本は負けない!」に、福島香織さんが、習近平の大プロパガンダ、「ウイルスは米軍が武漢に持ち込んだ」と題して掲載された論文からである。
彼女は大阪大学を卒業、産経新聞入社、復旦大学留学、北京駐在を経てジャーナリストとして活躍している、世界有数の中国通である。
政治宣伝に消費される女性
若い女性看護師たちが、バリカンで無残に黒髪を落とされていく。
彼女たちはマスクで顔の半分を覆っているが、その目元には涙が光っていた。
「髪の毛はまた生えてくるから。みんな前を向いていきます。必ず無事に帰ってきます」と嗚咽をこらえて語る勇ましい姿。
この映像をネットで見て、私もじんわり涙ぐんでしまった。
これは2月17日頃、中国内外のインターネットで流れたニュース映像だ。
甘粛省の婦女幼児健康院が武漢の最前線医療現場に派遣する女性看護師14人が、「衛生維持のため」に剃髪した。
これを中国各媒体が「美談」として報じた。
命がけの医療現場に行くために、涙を呑んで髪を剃られる彼女らの自己犠牲を感動的に報じ、「最も美しい逆行者」(この場合、脅威に向かっていく者のニュアンス)などという言葉で称えた。
だが、普通の人ならば、この報道に違和感をもつだろう。
私が思わず涙ぐんだのは共感したのではなく、政治宣伝に消費される彼女らがあまりに哀れで、同情を禁じ得なかったからだ。
すでに医療崩壊が伝えられる厳しい感染症の現場に送り込まれるだけでもつらいのに、中国の大プロパガンダのために、必要もないのに長髪を剃るパフォーマンスをしてみせ、美談の主人公を演じきらねばならない。
なんと残酷なことだろう。
感染拡大の原因となった政治の隠蔽や無策に対する責任追及を逃れるために習近平が展開する”大プロパガンダ”の背後には、彼女らのような無数の生贄が横たわっていた。
2月5日、中国共産党中央宣伝部は300人の記者たちを選び、湖北省武漢の最前線を取材させるために送り込んだ。
この日を境に、中国メディアでは「正能量報道」「正面情報」が大々的に展開される。
正能量という中国語は、ポジティブ・パワー、ポジティブ・エナジーとでも訳そうか。
勇気を奮い立たせ、感動を与え、エネルギーを注入し、人民を団結させるような、あるいは楽観的な希望をもたせるような、そういうニュアンスだ。
正面情報も同様で、ポジティブニュース、楽観的で賞賛するべき内容の情報を意味する。
つまり、ネガティブで悲観的で、また当局を批判するような内容の報道はするな、ということである。
*この個所は朝日新聞等の日本のメディアが爪の垢として煎じてのむべき箇所だろう*
美談を積極的に配信
人民日報(3月6日)は悪びれることもなく、こう報じている。
「人民日報社は習近平総書記の講話を深く徹底的に学習し、党中央が指導する感染予防コントロール宣伝報道と世論誘導工作に全力を投じた。3月5日までに、感染予防コントロールに関する報道は384ページ、1942編、全メディアにおいて14万編の報道・ビデオが制作され、総閲覧数(放送回数)は345億回を超えた」
「論評も強化し、社会の関心を反映して強く世論誘導した。3月5日までに、人民日報論説委員は毎日1編ずつ、”感染症予防コントロールで打ち勝つ人民戦争”など38編の文章を掲載し、CCTVの定時ニュース番組でもその要約が毎日流された。30編以上の論説によって、感染症と戦う勇気を鼓舞し、必勝の自信を確かなものにしたのだ」
「国際報道も強化し、対外的にも中国が必ず勝利するという自信を広めた。3月5日までに、人民日報海外版のトップで42編の関連記事を報じ、それは英語、フランス語、ロシア語など10ヵ国語・440編に翻訳されて、60ヵ国以上227メディアに2500回掲載された。”和音”シリーズの論評では、感染症との戦いは(習近平のスローガンである)”人類運命共同体”意識と切り離すことができないことを解説、”生命至上大国担当”などの15編の論評を発表して、英語、フランス語、アラビア語など多種言語に翻訳され、20ヵ国30以上の主流メディアで150回取り上げられた」…
逆効果だった「正能量報道」
人民日報がこうして誇らしげに報じているように、中国主流メディアは2月5日以降、感染症との戦いを鼓舞し、人民と国際社会に中国必勝の自信をもたらす大プロパガンダをひたすら展開した。
この結果、中国メディアでは、14人の「最も美しい逆行者」のほかに、次のような「美談」「武勇談」が続々と報じられた。
「流産10日、九〇后(九〇年代生まれ)の女性看護師が前線に復帰」(武漢晩報)
「妊娠9ヵ月の女性看護師が防護服を着て、感染医療現場の第一線を堅持」(長江日報)
「87歳の老人が、30年間の貯蓄20万元すべてを感染予防の第一線に寄付」(新華社)
「湖北の看護師、植物状態の夫を置いて、毅然と感染現場の第一線へ。母:あなたを支援します!」(貴州テレビ)
「生まれて20日も満たない赤ん坊も、抗疫最前線に志願」(華商報)
最後の「赤ん坊まで感染症との戦いに志願」のニュースは何かの冗談かと思ったが、どうやらこれも本気の「正能量報道」らしい。
だが、中国の普通の人々は、こんな「正能量報道」に素直に騙されるほど単純ではなかった。
とある診療内科医師はブログで、「みんな、こんな感動はいらない。冷静に考えてみよ、どこがおかしいか気づくだろう?」と批判的な感想を書いている。
「反人間的な行動が大衆の神経を刺激しやすいのか?」
「貧困老人が全財産を感染症のために寄付したら、彼自身の老後は誰が保証するのか?」
「流産して十日目の看護師が第一線に復帰することで、誰を応援するというのか?」
「妊娠9ヵ月で感染現場に行くなんて、誰も彼女を諭す人間はいなかったのか?」……
非難囂囂である。
甘粛の女性看護師の剃髪ニュースについては、「本当に彼女ら看護師は志願しているのか。髪を剃るかどうかは、基本的人権に属する問題ではないか」「『髪を剃らなければ看護できない』ということは、そもそも医療施設が衛生基準をクリアしていないということではないか」「これこそ、形式主義だ!」といった批判もあった。
さすがにこういった批判を受けて、掲載メディアは慌てて原稿を削除した。
つまり、正能量報道は、当局が狙ったのとは逆の効果、共産党への怒りをむしろ引き起こす結果となったのだ。
命がけの罵声
それをはっきり感じさせた事件は、3月5日の副首相・孫春蘭の武漢視察、それに続いて武漢市の書記・王忠林が打ち出した「感恩(感謝恩義)教育」への反発だろう。
3月5日午後、副首相の孫春蘭は中央指導チームを代表して、武漢市の居住区(青山区翠園社区)を視察した。
このとき、マンションの窓から「嘘だ!嘘だ!全部嘘だ!」「私たちは高い野菜を買わされている」「形式主義だ!」といった罵声が孫春蘭に向かって飛んできた。
この社区ではボランティアが野菜や肉をマンション管理人に届ける”ふり”をさせて、助け合いの美談という「正能量報道」を捏造していたようだ。
もちろん、上層部、おそらく市政府レベルの指示であろう。
それで住民たちは、「正能量報道はフェイクニュースだ。高い野菜を買わされているんだ」と中央指導者に訴えたのだ。
このときの映像がネットに流れている。
おそらく、マンションの一室の窓から、地元住民の誰かがスマートフォンで撮影したのだと思われる。
一党独裁強権政治の中国で、一般庶民が党中央の高級官僚、指導部メンバーに対して、直接罵声を浴びせることは極めて極めて珍しい。
それは命がけの行為なのだ。
中国ではインターネットで、匿名で、習近平を批判したり揶揄したりするだけで逮捕され、たとえ起訴されなくても、「精神病治療」の名のもとに監禁され、妙な薬を打たれて、家に戻ってくる頃には廃人、といったケースも多々ある。
最近の事件で思い浮かぶのは、2018年7月に習近平のポスターに墨汁をかけた董瑤瓊が、その直後、逮捕されて、一年後に釈放された頃には痴呆状態の廃人になっていた例だ。
この社区の住民は、そうした政治的リスクを承知で、孫春蘭一行に向かって罵声を浴びせたのだ。
武漢市民がそれほど苦しみ、追い詰められ、中国共産党中央政府、そして武漢市政府に対して憤怒の感情をもっているということに他ならない。
この稿続く。

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