デービッド・ケイ国連特別報告者を支えた米左派学者ネットワーク――アレクシス・ダデン、ジェフリー・ワッサーストローム、情報公開請求をめぐる疑念
日本の言論・表現の自由を批判した国連特別報告者デービッド・ケイ氏は、対日批判で知られるアレクシス・ダデン氏や、左派誌『Dissent』に関わるジェフリー・ワッサーストローム氏から、どのような助言と支援を受けていたのか。
ジェイソン・モーガン、マイケル・ヨン両氏の調査をもとに、国連報告書の形成過程、情報公開請求の漏洩疑惑、米国の学者・活動家・メディアを結ぶ人的ネットワークを検証する。
2020-10-29
2019年8月2日に発信した章である。
【再掲載にあたって】
国連、人権、言論の自由という言葉は、それ自体が権威を持つ。
しかし、国連の報告書が、誰から提供された情報をもとに作成され、誰の助言や評価を受け、どのような人的ネットワークの中で形成されたのかを検証しなければ、その報告書の公正さを判断することはできない。
本章で紹介するのは、「米左翼学者が支える特別報告者ケイ氏」と題して、月刊誌『正論』に掲載されたジェイソン・モーガン氏とマイケル・ヨン氏による調査報道である。
以下に記す人物関係や電子メールの内容、大学の対応に関する指摘は、両氏の調査と論考に基づくものである。
朝日新聞などを購読し、NHKの報道だけを視聴していたのでは、日本をめぐって国外で形成されている議論や人的ネットワークの全体像を知ることはできない。
今月号の月刊誌『正論』は、そのことを改めて実証していた。
日本国民は、こうした論考を自ら手に取り、原文を読まなければならない。
【再び現れたデービッド・ケイ氏】
久しぶりにこの名前を目にした。
言論と表現の自由に関する国連特別報告者を務めたデービッド・ケイ氏である。
ケイ氏は、国連人権理事会が開幕した2019年6月24日、日本に関する報告書を提出した。
ケイ氏は2017年5月に公表した対日調査報告書で、日本の言論と表現の自由が政府の圧力によって萎縮していると指摘していた。
2019年の報告書でも、メディアの独立性に対する懸念が残ると述べた。
特定秘密保護法によって日本の報道が萎縮している可能性があると指摘し、沖縄の米軍基地移設に対する抗議活動についても、当局の圧力が続いているとして、集会と表現の自由を尊重するよう求めた。
さらに、2017年の報告書で勧告した特定秘密保護法の改正、放送法第4条の廃止など11項目のうち、9項目が実行されていないと主張した。
これに対し、当時の菅義偉官房長官は2019年6月5日の記者会見で、日本政府は累次の機会をとらえて立場を丁寧に説明してきたにもかかわらず、報告書には政府の説明が十分に反映されていないと批判した。
菅官房長官は、不正確で根拠不明の内容が多く含まれており、受け入れることはできないとの立場を示した。
【なぜケイ氏が選ばれたのか】
モーガン、ヨン両氏は、2017年の報告書が公表されて以降、ケイ氏がどのような人物であり、なぜ日本に関する特別報告者として活動することになったのかを調査してきた。
両氏が抱いた疑問は、日本について特に豊富な専門知識を持つとは考えにくい人物が、なぜ突然、国際社会における日本批判の中心に登場したのかというものだった。
ケイ氏は、カリフォルニア大学アーバイン校法学部のクリニカル・プロフェッサーであった。
両氏の論考は、その職位が米国法学部の一般的な研究者の昇進系列とは異なることを指摘し、国連がなぜ、より著名な日本研究者や学術的実績を持つ人物を選ばなかったのかと疑問を呈している。
しかし、別の見方をすれば、ケイ氏が日本で広く知られていなかったことが、活動を進めるうえで都合が良かった可能性もあると両氏は論じる。
ケイ氏が一人で日本に関する情報を収集し、報告書を作成したわけではなかったからである。
両氏の調査では、ケイ氏は、日本を批判する米国の学者や活動家のネットワークと連携しながら報告書を形成していたとされる。
【アレクシス・ダデン氏との関係】
その中心人物として浮かび上がったのが、コネティカット大学のアレクシス・ダデン教授だった。
ダデン氏とジョージタウン大学のジョーダン・サンド教授は、米国の教育出版社マグロウヒルが発行した高校世界史教科書の慰安婦記述をめぐり、日本政府に全面的な謝罪を求める米国学者らの声明を主導した人物として知られている。
問題となった教科書には、慰安婦の強制連行や「20万人の性的奴隷」といった記述が掲載されていた。
2016年4月、ケイ氏が国連報告書作成のための訪日を終えてカリフォルニアに戻った後、ダデン氏は、ケイ氏が所属するカリフォルニア大学アーバイン校で開かれた会合にケイ氏とともに登壇していた。
モーガン、ヨン両氏は、国連特別報告者と、米国内で対日批判を続ける政治的活動家として知られる学者との関係に重大な関心を抱き、調査を開始した。
2018年11月、両氏はカリフォルニア大学アーバイン校に対し、情報公開制度を利用して、ケイ氏に関する記録の公開を求めた。
2019年2月、大学側は、およそ75ページの電子メール記録を公開した。
しかし、大学自身が認めたように、公開された文書は、情報公開の対象となり得る記録のごく一部にすぎなかった。
大学は、ケイ氏の国連活動に関する記録は公開情報ではないとして、それ以上の開示を拒否した。
両氏は、どの州法または連邦法上の機関が、国連に関係する活動を公開対象外と判断したのかと大学に問い合わせた。
しかし、明確な回答はなかった。
言論と報道の自由を擁護する立場にあったケイ氏について調査が始まると、その雇用主である大学が情報開示に消極的な姿勢を示したのである。
【情報公開請求はなぜ外部に漏れたのか】
両氏はさらに、ケイ氏が外国政府や国外の政治的組織とどのような関係を持っていたのかを確認し、その独立性を検証するため、電子メール記録の追加公開を求めた。
すると、2回目の請求から数日後の2019年2月15日、東アジア情勢を扱う米国のニュースレター『ネルソン・リポート』が、その情報公開請求について報じた。
両氏は、請求を行った事実を外部に明かしていなかった。
にもかかわらず、『ネルソン・リポート』の記事には、請求の内容が詳しく記されていた。
記事を書いたのは、ミンディ・カトラー氏だった。
カトラー氏はダデン氏の協力者であり、慰安婦問題をめぐる対日批判活動で知られる人物である。
その人的ネットワークは、学界、メディア、ワシントンの政治活動家へと広がっていると両氏は指摘する。
カトラー氏は、日系米国人で元米下院議員のマイク・ホンダ氏の政治活動にも関わっていた。
本人の経歴には、2007年の米下院慰安婦決議案の作成と擁護について、ホンダ議員に助言したと記されていたという。
『ネルソン・リポート』に掲載された記事の見出しは、「日本の右派がFOIAを使って米国の学者を黙らせようとしている」という趣旨のものだった。
記事は、日本の歴史を否定する者たちが、米国の学者を沈黙させようとしていると主張した。
さらに、モーガン、ヨン両氏について、日本会議または幸福の科学と緊密に連携しているように見えると記述した。
しかし両氏は、日本会議とも幸福の科学とも一切関係がないと明確に否定している。
両氏は、こうした情報がどこからもたらされたのか不明であるとしながら、カトラー氏が英語で発信された情報だけをもとに判断し、日本語の情報を十分に確認していなかった可能性を指摘した。
【大学の情報管理と説明責任】
なぜ、非公開だったはずの情報公開請求の存在と内容をカトラー氏が知っていたのか。
両氏は、この点を明らかにするため、アーバイン校の公文書担当者とケイ氏との間で交わされた電子メール記録の公開を再度請求した。
大学の記録担当者から、請求内容が外部へ漏れた可能性を疑ったからである。
しかし、開示されたのは、大部分が不完全な電子メール記録だった。
さらに大学は、担当者とケイ氏の間の電子メールについて、「弁護士と依頼人の間の秘匿特権」を理由に公開できないと主張した。
両氏は、ケイ氏が大学職員の代理人または弁護士であったのかと問い合わせ、その根拠を示すよう求めた。
しかし、この点についても明確な回答はなかったという。
大学がこの説明を撤回していない以上、その法的根拠と事実関係は明らかにされなければならない。
仮に秘匿特権の主張に事実上または法律上の根拠がなかったとすれば、大学の説明責任だけでなく、関係者の職業倫理にも関わる問題となる。
【ケイ氏とダデン氏の電子メール】
アーバイン校が公開した情報は限られていた。
それでも、その一部は、ケイ氏とダデン氏の緊密な協力関係を示すものだったと両氏は述べている。
2017年に国連へ提出された日本の言論の自由に関する報告書の作成過程で、ケイ氏がダデン氏の判断や助言に大きく依存していたことを示す電子メールが含まれていたという。
ケイ氏は、外部団体や個人から届いたメールをダデン氏に転送し、相手がどのような政治的立場にある人物または団体なのか、評価を求めていた。
ダデン氏は、自らが好ましくないと考える団体や人物を「保守的」「極右」などと分類し、ケイ氏に注意を促していた。
2017年5月3日付のメールでは、日本の民間団体「史実を世界に発信する会」について、安倍晋三政権と直接つながっている団体だと警告したとされる。
2016年5月11日、ケイ氏は、国連での活動について問い合わせてきた人物を特定するため、ダデン氏に「私はこの人物を知らない。あなたは知っているか」と尋ねていた。
同日、ダデン氏は、フジサンケイ・コミュニケーションズ・インターナショナルに関係する「Ms. Kitajima」について、カリフォルニア州における慰安婦像設置への反対運動の中心人物であるとの趣旨の説明を送った。
そのメールには「極右報道の中心的存在」などの表現とともに、「Wacky」という言葉も含まれていたという。
その表現が人物を指したのか、状況を指したのかは判然としない。
しかし、ジャーナリストに対する侮蔑とも受け取られかねない表現について、ケイ氏が訂正や確認を求めた形跡は示されていなかった。
その前日の2016年5月10日には、ダデン氏がケイ氏に、産経新聞の古森義久氏について警告するメールを送っていた。
ダデン氏は古森氏について、長年ワシントン支局長を務め、「でっち上げしかやらない」とする趣旨の批判を書いていたとされる。
同日、ダデン氏は、古森氏が書いた記事を「とんでもない記事」と評するメールも送っていた。
【ジェフリー・ワッサーストローム氏の関与】
ケイ氏は、カリフォルニア大学アーバイン校のジェフリー・ワッサーストローム教授からも支援を受けていた。
ワッサーストローム氏は中国近現代史を専門とする研究者で、左派系雑誌『Dissent』の編集に関わり、ダデン氏とも近い関係にあったと論考は記している。
ワッサーストローム氏も、産経新聞の報道に批判的だった。
2016年5月10日、ダデン氏はワッサーストローム氏とケイ氏に同時送信したメールで、産経新聞の記事において「デービッド」が「容赦なく、ばかばかしい扱いを受けている」という趣旨の主張を伝えた。
別の電子メールでは、ワッサーストローム氏が、ケイ氏とダデン氏に対し、国連の活動について連絡してくる人物が政治的に善意を持っているかどうかを判断する作業を手伝っていたとされる。
ここに浮かび上がるのは、国連特別報告者が、日本から寄せられた意見や情報を自ら中立的に評価するのではなく、特定の政治的立場を持つ学者に送り、その人物や団体が「保守」「極右」「善意がある」「信用できない」といった分類を行っていた可能性である。
国連の報告書が、日本の政府、報道、言論環境を公正に評価するためのものであるならば、その情報収集と評価の過程にも、透明性と政治的中立性が求められる。
ところが、公開された電子メールからは、ケイ氏の周囲に、対日批判で共通する学者、活動家、メディア関係者の人的ネットワークが存在し、そのネットワークが情報提供者の選別や評価に関与していた可能性が浮かび上がった。
【国連報告書を権威だけで受け入れてはならない】
国連の肩書が付いた報告書であっても、それだけで内容が正確、公正、中立であると断定することはできない。
重要なのは、誰が情報を提供し、誰が証言者を選び、誰が反対意見を排除し、誰が報告書の基礎となる判断を助言したのかということである。
日本政府の説明が十分に反映されず、特定の政治的立場を持つ学者や活動家の見解が重く採用されていたのであれば、報告書の正当性は根本から検証されなければならない。
言論と表現の自由を掲げる人物や機関こそ、自らに対する情報公開請求や批判的検証を拒んではならない。
他者には透明性を要求しながら、自らの電子メール、情報源、助言者、判断過程を明らかにしないのであれば、その姿勢には重大な矛盾がある。
日本国民は、国連、大学、学者、活動家、報道機関という肩書や権威に惑わされてはならない。
必要なのは、一次資料を読み、人的関係を確認し、誰が、どのような目的と思想を持って情報を流通させているのかを、自ら検証することである。
この稿、続く。