中国の「千人計画」と日本の先端技術――研究者・半導体・経済安全保障をめぐる重大な問題
2020年8月9日。月刊誌『THEMIS』掲載論文を通じ、中国の「千人計画」による世界的な研究人材の獲得、日本人研究者への研究資金、ファーウェイと大学、半導体・精密機械・炭素繊維などの先端技術、人材流出、サイバー攻撃をめぐる問題を取り上げ、日本の経済安全保障のあり方を問うた記録である。
2020-08-09
月刊誌『THEMIS』の広告が新聞下段に掲載される度に購読したいと思っていたのだが、「定期購読のみ」というのを面倒に思って、購読しないで来た。
だが今月号のラインアップを見て、これは購読すべきだと思い、とりあえず半年購読を選択し、インターネットで手続きした。
直ぐに今月号が届いた。
この月刊誌も、物事の真相を知りたいと考えている日本国民には必読である。
この月刊誌を購読した途端に気づくはずである。
日本の――世界も全く同様だろう――マスメディアの殆どが、物事の真相を全く報道していないと言っても過言ではないことに。
だが、ここに書いてあることは、当たり前のことなのである。
当たり前のことを当たり前にするのが一流。
当たり前のことを当たり前にできないのが二流、三流。
一流とは常に完璧を求めるものだから、メディアの大半が真相を報道しないのは、メディアの大半が二流、三流の人間達の集合体であることを実証しているのである。
月刊誌『THEMIS』は、「朝日新聞は日本の最優秀選手では全くない」と、日本で初めて具体的に指摘した私の論説の正しさを完璧に証明している。
以下は、「経済安全保障の時代が来た――国家安全保障局・経済班、中国の侵攻に立ち向かう――米中経済摩擦の最中に中国が仕掛けてくる『経済安保戦略』に日本は対抗できるのか」と題して掲載された論文からである。
前文省略。
【中国が日本人教授に1億円も】
「新たな日米連携に神経を尖らせているのが、2030年にもGDPで米国を追い抜くと予測されている中国だ。」
「中国は『エコノミック・ステイトクラフト(ES)』を駆使して、日本に圧力をかけ続けている。」
「“ツール”は『千人計画』だ。」
「中国政府が世界トップレベルの頭脳を中国に招くため、08年にスタートした政策だ。」
「米司法省は今年1月、『千人計画』に選ばれたことを米政府に隠し、虚偽の説明をしていたとしてハーバード大学のチャールズ・リーバー教授を起訴した。」
「16年10月、中国の北京航空航天大に新設された『ビッグバン宇宙元素起源国際研究センター』の初代所長に就任したのは梶野敏貴国立天文台特任教授だった。」
「梶野氏は16年春、『千人計画』の対象に選ばれていた。」
「だが、日本には千人計画への参加に関する規制はない。」
「この千人計画の海外人材のリクルーターとなっているのが、日本に十数年間滞在し、公的研究機関に勤めていた王波氏だった。」
「選ばれると一人当たり100万元(約1千400万円)の国家奨励金が受け取れる。」
「しかも研究室も充実している。」
「千人計画に応募して中国に渡ったある日本人教授は、5年間で1億円以上の研究費を提供されたという。」
「彼はNHKで『日本だとほぼ不可能な環境なので、非常に感謝している』と語った。」
「日本人の研究者が千人計画に多数参加しているとみられるが、政府は実態を把握出来ないでいる。」
「同様に中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)からの寄付を受けている大学は多いといわれる。」
「米国の大学は25万ドル(約2千670万円)を超える資金を受け入れた場合、政府に報告する義務がある。」
「『ところが日本にはない。ファーウェイからどの程度の資金を受け入れているかは正確にわからない。今も共同研究を行ったり寄付を受けている大学はある』と現役官僚はいう。」
【半導体企業元社長も引き抜く】
「昨年初めごろ、『中国未掌握技術リスト』という中国語の報告書が日本政府に持ち込まれた。」
「中国の大手投資ファンドに所属する人物が17年に作成したリストといわれる。」
「中国が保持していない63件の産業技術と、それを持つ日本などの外国企業、研究機関が書かれていた。」
「リストに載った『未掌握コア技術』は半導体材料、半導体加工技術、超高精度精密工作機械、産業ロボット、精密計測機器、炭素繊維などだった。」
「これらの技術を有する有力メーカーの名前も挙げられていた。」
「信越化学、日立製作所、東レ、帝人、日本精工、ヤマザキマザック、アマダ、オークマ、安川電機、サタケ、日本電子、理化学研究所、東大、東邦テナックス、三菱レイヨンなどなど。」
「もっとも手っ取り早い先端技術獲得の方法は、企業買収、業務提携、技術者の引き抜きだ。」
「リストアップされた企業や技術者がいつ狙われてもおかしくない。」
「たとえば、中国半導体製造大手の長江メモリー・テクノロジーズ(YMTC)が、さる4月13日、世界トップレベルの高性能フラッシュメモリー開発に成功したと発表した。」
YMTC自身も2020年4月13日、128層1.33Tb QLC 3D NANDフラッシュメモリーを発表している。
「YMTCは習近平国家主席の母校・清華大学を母体とするIT大手『紫光集団』の傘下企業として16年に設立された。」
「その紫光集団副総裁が、日本最後のDRAM半導体メーカー、エルピーダメモリ(13年に米マイクロン・テクノロジーが買収)元社長の坂本幸雄氏だった。」
坂本氏が2019年に紫光集団の副総裁に就任したことは、当時の本人インタビュー等でも確認できる。
「紫光集団は中国の半導体産業の競争力向上を期す中国政府の支援を受けている。」
「坂本氏は引き抜かれて移籍していたのだ。」
「6月、ホンダは社内ネットワークがサイバー攻撃を受けたと発表した。」
「コンピューターサーバーへのアクセス、社内システムや電子メール、海外の生産システムに影響が出たという。」
「世界各地の工場なども影響を受けた。」
「ホンダへのサイバーテロは中国からと見られるが、中国のサイバー部隊は10万人と、米国の6千人を抜いて世界一である。」
後略。
以上が、月刊誌『THEMIS』に掲載された論文からの抜粋である。
ここで論じられている問題は、単なる「中国への研究者の移籍」という話ではない。
国家が巨額の研究費と研究環境を用意し、世界各国から優秀な研究者や技術者を獲得する。
大学や研究機関に資金を送り込む。
自国がまだ保有していない技術を特定する。
企業買収、業務提携、人材獲得を通じて、その技術を手に入れようとする。
そして、半導体、精密機械、ロボット、炭素繊維といった、国家の産業競争力そのものを左右する技術が対象になる。
これが事実ならば、日本にとって、もはや単なる研究交流や自由な経済活動だけの問題として考えることはできない。
研究の自由は当然守られなければならない。
しかし同時に、国家の安全保障や産業基盤に直結する技術、研究資金、人材の流れを把握することも、国家として当然の責務である。
米国では既に、千人計画への関与をめぐる虚偽説明が刑事事件となっていた。
それに対して日本はどうだったのか。
どの研究者が、どの国から、どれだけの研究資金を受け取っているのか。
どの大学が外国企業からどの程度の資金提供を受けているのか。
日本が世界に誇る先端技術を持つ企業や技術者が、どのような形で国外から接触を受けているのか。
その全体像さえ把握していないのなら、経済安全保障など成立するはずがない。
21世紀の安全保障とは、戦車や戦闘機だけを数えることではない。
半導体。
AI。
通信。
精密機械。
素材。
宇宙。
研究者。
大学。
そして情報。
それらを誰が持ち、誰が資金を出し、誰が獲得しようとしているのか。
その全体を見なければならない時代が、既に到来していたのである。