中国資本はなぜ北海道を買い続けるのか――宮本雅史氏が暴く「居留区」構想
産経新聞編集委員・宮本雅史氏の論考をもとに、中国資本による北海道の森林、農地、観光地、リゾート施設買収の実態を論じる。
留寿都村、ニセコ周辺、平取町豊糠地区などの事例を通じて、単なる投資ではなく、中国共産党の長期的戦略としての「居留区」構想の危険性を指摘する。
2020-03-11
中国は一つの目的を持って、25年前から沖縄を狙い、20年前から北海道を狙ってきた。
移民のために、これからもどんどん北海道の土地を買っていくでしょう。
以下は3月1日に発売された月刊誌「正論」に、中国が北海道で画策する「居留区」、と題して掲載された、産経新聞編集委員・宮本雅史氏の労作からである。
武漢肺炎の感染者が北海道に多い原因でもある。
東京地検特捜部が、カジノを含む統合型リゾート施設、IR事業をめぐる汚職事件を捜査していた今年一月中旬、知り合いの中国情報通の男性から連絡が入った。
「工作資金として、実際は二十数億円動いている。永田町にばらまかれたはずだ」
そして、彼はこう続けた。
「IR参入は口実。中国資本の真の狙いは、北海道内で居留区を確保すること。背後に共産党がついている。すべて計画通りだ」
彼は、私が外国資本、とりわけ中国資本による国土買収の実態調査を始めて以降、情報提供や分析を通して協力してくれている一人だ。
ただ、彼の証言を裏付ける証拠はない。
一瞬、疑問を持ったものの、「あり得る話だ」と思い直し、別の取材協力者である北海道の不動産業者に「居留区」証言を確認すると、こんな答えが返って来た。
「中国資本は、1700億円ほどつぎ込んで、留寿都村にホテルやコンドミニアム、学校、病院、プライベートジェット用の滑走路を作り、中国人集落を造成しようとしていた。共産党の指示で3年ほど前から計画が出ていた。最初はカジノの話は出なかった、と聞いている」
「居留区」証言はガセではなかった。
買収に歯止めなし。
「あり得る話だ」と感じたのには理由があった。
私が外国資本による国土買収の取材を始めたのは平成20年、2008年だった。
前年の平成19年、対馬に配置されている海上自衛隊対馬防備隊本部の隣接地が、韓国資本に買収されたことがきっかけだった。
以降、対馬を十数回訪ね、韓国資本と対馬の関係を注視した。
同時に、沖縄、佐渡、五島列島、礼文・利尻、種子島など、国境を背負う離島に足を運び、外国資本による不動産の買収状況を取材した。
我が国では、外国資本による不動産買収は規制されていない。
それどころか、買収された地域のその後についても詳細に追跡調査されず、買収の実態そのものが正確に把握されていない。
外国資本に農地や森林、観光地などが買収されること自体問題である。
だが、買収された後の使途などのフォローもなく放置されていることも、主権国家としての体をなしていない。
買収する側からすると、これほど都合のいい買い物はない。
北海道は4年前から定点観測している。
北海道の不動産を買収した外国資本を見ると、圧倒的に中国資本、あるいは背後に中国の影が見える資本が抜きんでている。
そのため、中国資本の北海道での動向を注視すると同時に、これまで買収された森林、ゴルフ場、農地、太陽光発電所用地、観光地などの定点観測を続けてきた。
北海道は平成24年、2012年から、毎年、外国資本等による森林取得状況を調査し、公表している。
平成30年、2018年の1月から12月を見ると、外国資本、すなわち海外に所在する企業・個人に買収された森林は計21件、108ヘクタール。
東京ドーム約30個分である。
内訳を見ると、1位は中国、香港、マカオを含む、で11件、約91ヘクタール。
東京ドーム約20個分だった。
また、日本国内にある企業で、外国法人の子会社など資本の50%以上を外国資本が占める企業、いわゆる外資系企業による買収は計7件、58ヘクタール。
東京ドーム約13個分で、1位はやはり中国の2件、3.5ヘクタール。
東京ドーム約1個分だった。
外国資本等による森林買収と、日本国内にあり、外国資本が占める企業による買収を合計すると、28件、166ヘクタール。
東京ドーム約36個分に上る。
カナダやタイ、オーストラリアなどの資本も見られる。
だが、中国資本または中国系資本が13件、94.64ヘクタール。
東京ドーム21個分で最も多く、全体の57%を占めた。
シンガポール系資本は2件、49ヘクタール、東京ドーム約11個分であるが、中国と合わせると86%になる。
買収目的は主に、「太陽光発電所の建設」「資産保有」などである。
しかし、中国資本や中国系資本の場合、4件が「不明」「未定」だった。
我が国では、一度、売買契約が成立し、所有権が移動すると、何に利用するのか、どう開発するかは所有権者の思いのままである。
日本国内でありながら、どのような開発が行われ、どのように利用されても、異議を唱えることすらできない。
外国資本は目的を問わず、自由に不動産を買収でき、自由に利用できる構造になっているのだ。
海外からの買収は増え続け、平成18年から平成30年までに、38市町村で累計2725ヘクタール。
東京ドーム約580個分に膨れ上がった。
8割から9割は中国資本だ。
だが、この数字は水源地にからむ森林に限られている。
農地やゴルフ場などを含むすべての不動産を網羅していないため、実際に買収された広さは分からない。
中国資本の買収方法を見ると、国際的リゾート地・ニセコとその周辺から放射線状に広がっている。
しかも、買収規模が100ヘクタール単位と大きいところもあり、全道を視野に買い進んでいるように感じる。
不動産業関係者らの話を総合すると、実際の買収面積は「一桁少ない」という指摘もある。
買収された町。
何度も足を運び、定点観測を続けていると、不自然さと変化に気づく。
北海道での中国資本の激しい不動産買収のなかで、私が注視しているのは、中国と関係があるとされる農業生産法人に、村がほぼ丸ごと買収された沙流郡平取町豊糠である。
平取町は義経伝説でも知られるが、豊糠地区は、幌尻岳の西側の麓に位置し、標高約250メートル。
人口はわずか25人、買収時であり、人里から遠く離れた集落だ。
冬期は積雪が深く、陸の孤島になる。
この豊糠地区が買収されたのは平成23年だった。
業務用スーパーを全国にフランチャイズ展開するA社の子会社の農業生産法人が、219.4092ヘクタールある農地のうち、56%にあたる123.3754ヘクタールを買収した。
買収から5年経った平成28年3月上旬から令和元年夏まで数回訪ねた。
だが、セイタカアワダチソウなどの雑草が伸び、手入れした形跡はない。
農作物も牧草も作っていない非耕作地がどこまでも続いている。
買収から8年も経っているのにである。
しかも、取材を続けるうちに、農業生産法人の買収方法に一つの法則があることに気づいた。
語るのは住民の一人だ。
「農地の買い方を見ると、例えば、三つ並んだ農地があれば中央の一つを、あるいは左右の二つをという具合に買収している。三つ全部を買うのではなく、飛び地で買っているが、結局全部買っているのと同じ。囲碁やオセロ風ゲームを連想させる手法だ。森林の場合は、縁を買ってしまえば、森林に入るには畑の所有者である生産法人の許可を得ないと入れないから、実質全体を買ったのも同然。買収後、一度も買い増しに来ていないが、買い増す必要がないからだ。半分買われた農地の残りの半分には買い手が付かない。効率的な買い方で、実質全部買われたのと同じだ」
「トレーラーも大型車も入って来られないような場所。自分だったら大金を払ってまで買わない」
地元長老と住民が口を合わせるほど、道路事情が良いとはいえない山奥の僻地である。
農業生産法人は、なぜ、ほぼ集落ごと買収したのか。
しかも、一定の法則で。
さらに、買収した農地をなぜ、荒れ地や非耕作地にしておくのか。
疑問が絶えない。
私の疑問に、地元住民は説明した。
「農地を荒れ地にして何年も放置しておけば、自然に木が生えてくる。そうしたら、農業委員会に申請して、地目を『雑種地』に変更することができる。農地だと制約があって自由に売買できないが、地目を『雑種地』に変更すれば、自由に売買でき、住宅や工場を建てられる」
さらに、「地目変更を決定する農業委員会に、農業生産法人の親会社の関係者が入っている」として、地目変更が狙いだと仮説を立てるのだ。
農業委員会に現状を説明すると、「見た感じでは作業をしていない」と、非耕作状態であることを認めた。
その上で、「農業生産法人に管理をするように通知をしているが、高齢化が進んで地元住民が作業できない。農業委員会としては手を付けられないので、生産法人に任せるほかない」と言う。
地目変更の申請については、「まだ出ていない」と口を濁した。
気の回し過ぎであれば、それに越したことはない。
だが、取材を続けるうちに、この買収には何か特別な目的があるのではないかと、懐疑的になっていった。
平取町民の一人は言う。
「豊糠は高齢化と過疎化が進み、人口は12世帯23人ほどしかいない。もし住民がいなくなれば、これだけ完璧に土地を押さえられていることを考えると、中国資本の天下になっても不思議はない」
長く交流のある中国評論家に豊糠のケースを尋ねると、彼はこう語った。
「海外で活動する中国企業の背後には、中国共産党が控えていると考えた方がいい。中国と関係がある日本企業も同じことが言える」
その上で、こう話した。
「中国は一つの目的を持って、25年前から沖縄を狙い、20年前から北海道を狙ってきた。移民のために、これからもどんどん北海道の土地を買っていくでしょう。水源地や農地では農作物を作れるから、独自の集落や自治区をつくり、病院や軍隊用の事務所も設置する可能性がある。豊糠は、農村地帯で水源地でもあるから、自給自足で生活しようと思えばいくらでもできる。しかも、山間部の僻地で、ほかの地域との交流が少ないので、内部の様子は分からない。自治区のように、自由に誰も入ることができない閉ざされた社会を作ろうと思えば、簡単にできる。そのテストケースと考えられる」
豊糠のケースはほんの一例である。
北海道を回ると、なぜ、こんな広大な場所を買い占めたのか、と首をかしげる場面に出くわす。
北海道内の不動産業者は、中国資本が観光地や宿泊施設を次々と買っていることを挙げ、「推測」と前置きしてこう語った。
「栄えていない観光地や老朽化したビル、コンドミニアムなどが買われている。こうした不動産を押さえておけば、中国政府が緊急事態と言った瞬間、買収された場所が全部、中国共産党軍の兵舎や移住先に変わる可能性がある。いざというときに中国が使えるようにしておけば、買収する意味がある。これはもう乗っ取りともいえる」
1993年、中国の李鵬首相がオーストラリアのキーティング首相に、「日本という国は40年後にはなくなってしまうかもわからぬ」と述べたとされる。
この「李鵬発言」は日本の国会でも報告されたが、もし李鵬発言通りだとすると、日本は2033年にはなくなることになる。
別の中国ウォッチャーも、「一部メディアでは、北海道は10年後には中国の32番目の省になるとも言われている」と警告した。
私がこの証言を聞いたのが2年前だから、10年後というと令和9年、2027年になる。
冒頭に紹介したIR汚職事件の背後にある「居留区準備」証言にうなずいた理由を理解して頂けたと思う。
客観的な事実だけを見ても、居留区構築に向けて着々と準備が進められているのが想像できる。
この稿続く。