天才の響きだけが、天才の苦悩を救える
私は、仕方のない事情、解決が簡単ではない事情ゆえ、言わば不幸な三か月を送っていた。
クラシックの演奏会は、不幸な状態で普通に迎えると、絶対に心に入って来ない。
だから昨夜の演奏会でも、最初のブラームスは、あれだけ予習していたにもかかわらず、私の中に入ってこなかった。
そして二曲目。
今回の私のお目当てである。
だからこそ、私は名古屋まで遠征したのである。
中野りなが登場した。
今は、ほんの少しだけ書いておく。
彼女は、とにかく凄かった。
これぞ真の天才、超弩級の天才の演奏だったのである。
実に凄かった。
綺羅星の連鎖の如くに日本に出現し続けている女性天才ヴィオリニスト達。
その原因と理由については既述の通り。
その中から、中野りなに続く年齢の一団を超弩級軍団と形容して挙げれば、年齢順で言えば、中野りな、村田夏帆、HIMARI。
もちろん、この中に、中原梨衣紗も入れなければならないのだが。
天才の響きだけが、天才の苦悩を救える。
天才の響きだけが、天才の苦悩を癒せる。
楽団員たちも、実は、それぞれに天才たちである。
全員が、彼女の天才と、彼女が奏でるストラディバリウスの響きに魅せられた。
触発された。
演奏終了後、コンサートマスターを始めとした団員たちは、足をどんどんと踏み鳴らして、彼女の演奏を称賛した。
ソリスト・アンコールで彼女が演奏したイザイ第五番第二楽章も、歴史的な名演だった。
彼女に刺激された、それぞれに天才である団員たち、及び、オルガニスト富田一樹によるサン=サーンスは、歴史的な名演となった。
私の約束された人生が一瞬で暗転した高校三年生開始の時以来、私が連日、NHKFMで朝から晩までクラシックを聴いていたことは既述の通りである。
この頃、ヴァージル・フォックス、ヘルムート・ヴァルヒャ、カール・リヒター、マリー=クレール・アラン、彼らの弾くバッハを熱心に聴いていたことも、昨夜、思い出した。
昨夜は、超の付く歴史的な名演の一夜だった。